6 Paxatrex
これで半分以上仕事は終わった。
ふぅ、と息を吐き出したところで、急にドアがノックされた。
『マヤ……対処するんだ』
「了解」
慎重に近付きミラーガラス越しに確認する。ノックの主は俯いてタブレットを操作しながら、ドアが開くのを待っている。
服装からして、整備兵。一人。
身体を壁に添わせ、そっとドアを開けてやる。
「ふぅ、夜勤は仕事量が少ないのはいいけど、時間が経つのが遅くて疲れるな。
外は湿気がひどくて気分転換にならないし、ウォーリーはアップデートと一緒にわがままっぷりまでパワーアップして、もう暴君みたいだし」
彼はタブレットの操作をしながら、呑気に愚痴をこぼして部屋に入ってきた。部屋の異変に気付いていない。そっとドアを閉めて、脚をかけ肩を掴み床に引き倒した。
そこでようやく彼は異常に気付いたようだ。
「うわあああああああ! 優しく! 優しくして!」
……なんだか可哀想になって、振り上げていたナイフを麻酔に持ち替えた。運が悪くなければ死なずに済むだろう。
彼の身体から力が抜けていく。
『優しいじゃないか、マヤ』
ヒヤヒヤしたよ。なんて言葉が続きそうな言い方だった。
「……ツナギ着てたから」
ヨースケを思い出して、とは続けなかった。
「どうせ抵抗されたって負けっこないと思っただけ」
また誰かが来るかもしれない。作業着の彼をドアから死角になる機材ラックの後ろへ引きずって端に寄せると、床には彼が手にしていた真っ赤なカバーのタブレットが残った。
手に取ってなんとなく画面を見る。
日付と、よくわからない単語が並んでいる。車両の整備記録だろうか。
私が見たって分からないだろうと思いながら上へスクロールする。
『投与記録 戦闘機兵ウォレス』
戦闘機兵ウォレス……ロボットタイプの兵士のことだろう。
このタブレットの情報、もしかするとカインの役に立つかもしれない。
ほぼ毎日、一日に二回か三回ほとんど同じ名前の薬品が投与されているみたいだ。特に目につくのは“Paxatrex”という文字列。――パクサトレックス?薬品の名前って覚えにくいものばかりだな。
投与、というのがロボットボディに対してのものか、VEの本部で眠っているであろう人間の肉体の方に施したものなのかまでは分からない。
『マヤ、任務に集中して』
「ごめん」
タブレットを伏せてデスクに置いた。
持ち帰って開発部に渡そう。




