5 サーカスだってさ
サーミルと分かれて屋内に入ってすぐに、目的の部屋が想定通りの位置にあることが確認できた。
近くの部屋から床下のケーブルスペース経由で、ネットワーク管制室の真下に到着。
試しに蓋をゆっくり押し上げた。鍵はあるが掛けられていない。
敵の侵入を想定した構造をしていても、運用する人間が雑だとこうして隙が生まれる。
気配を探ろうと耳をすませると、キーボードを打つ音と話し声が聞こえてきた。
「――それでさぁ、あの舐めプレイ野郎、結局やられたらしいんだよ。装甲車乗りが歩兵二人に。ざまぁねぇよな」
「おいおい、一応味方だろ」
「ハッ、南の女とロボのペアなんて、そんなサーカスみたいなペアにやられたんだ。
おまけにステルス搭載車を置いてきちまったらしいじゃねぇか。アレ、便利だったのに。解析されたり対策されたら厄介になるぜ。」
『南の女とロボのペア』『ステルス搭載車』……この間の私たちのことだろう。……サーカスだってさ、カイン。
……。
まぁいい。
少し様子を伺っていたが、気配は二人で間違いないだろうと判断し、サーミルへ通信を飛ばした。
「目的地点の床下、ケーブルスペースのメンテナンス口へ到着。敵の数は二人。」
『了解。僕は天井のケーブルラックで待機中。敵の数は五人。天井が高い部屋っていいね』
……ケーブルラックって、もう完全に室内じゃないか。
「一体どうやって……ううん、いい。今は聞きたくない」
バツッと音がして、同じチャンネルにもう一人加わった。
『よう。こっちも到着したぞ。俺までステルススーツ着せられるとは思わなかったけど』
ヨースケだ。
『よくこんなもん着れるなお前ら……俺はもう二度と着たくない』
彼だって危険な場所にいるはずなのに、相変わらず彼の声にはまったく緊張感が無い。
『それじゃあ後で記念に写真でも撮ろうか。ステルススーツのトリオコーデなんて次はいつになるか分からないし』
『勘弁してくれ……俺のこんな格好、データに残しても誰も幸せにならねぇだろ』
思わず吹き出した。ああ、一番最後に基地に戻るのは陸路のヨースケだから、絶対に逃げられないはずだ。
『三人揃ったし準備は整ったね。突入のタイミングはマヤに任せるよ。ここから通信は繋ぎっぱなしにしよう』
まったく。二人のせいでこれが重要な任務だって忘れそうになる。
深呼吸をして切り替えた。
「了解。秒針六で突入。カウントを開始」
『了解』
「……八、七、六、五、四」
通信によるラグがあるため、最後は互いの秒針で静かにカウントする。
フロアを二つ挟んで下にいる彼もそうしているはずだ。
秒針が六を指すと同時に蓋を押し上げた。
椅子に座ってタバコを咥えパッドを弄っていた待機中の警備兵は反応が遅れ、目が合うと同時にサイレンサー銃から放たれた弾で沈んだ。
もう一人、オペレーターが異常に気付く前に彼を椅子から引き倒して、頭部に一発。
クリアだ。
いくつもある監視映像のうちの一つに、セキュリティルームの様子が映っている。
既に二人が沈んでいた。サーミルのナイフが敵の首を裂き、喉を押さえる間もなく三人目が崩れた。
敵の兵士が慌てて武器を構えるよりも早く距離を詰め、四人目の胸を突く。
それを引き抜いた流れのまま最後の一人の脚を払い、なす術も無く頸動脈に刃を突き立てた。
まるで、その場の兵士がそう動くのを知っていたような。
無駄な力の乗っていない、長い四肢の流れるような動きだった。
こんなの、教えてもらったって真似できない。ただ、この映像を誰かに見せたいと思った。
彼はナイフを引き抜き、異常が検知されていないか、モニターの確認に動いた。
『マヤ、僕に見惚れてる時間なんか無いよ』
彼に笑われてハッとした。
……向こうのモニター越しにこちらの部屋を見たんだろう。
「……そんなんじゃない」
気まずくなってモニターから目を逸らした。
『ヨースケ、こっちは両部屋とも制圧完了だ』
『……早いな。じゃあ次、デバイス挿してくれ』
『マヤ、目の前の黒い箱に挿すんだよ』
配線がいくつも伸びていて、ヨースケの個人用のパソコンよりもずっと大きくて黒い箱が目の前にある。事前に確認した情報と同じ。これが通信コンソールらしい。
『秒針十二で同時に挿そう』
「了解」
『十、九、八……』
さっきと同様に、時計を見ながらタイミングを合わせ、デバイスをしっかり挿し込んだ。
『接続完了。ふふ、偽のアップデートが走ってる。そっちは?』
タイミングは正確だった。サーミルの言ったように、こちらの画面でもアップデートが開始され、ほんの数秒で完了した。
これでバックドアが作成され短距離の無線ネット環境が可能になる。
そしたら、この基地の外郭で待機しているヨースケがアクセスして色々弄れるようになる……らしい。
「……こっちも、アップデートの完了を確認」
『よし。あとはヨースケの作業が終わるまで部屋の確保だ』
『しばらく待ってろ。集中したいから切る。終わり次第また繋ぐ』
ヨースケが通信を切った。
死体を機械の積まれた棚の裏へ引き摺る。時間が経てば経つほど発覚のリスクは上がる。ここからの生存率はヨースケの腕次第だ。




