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【5節開始】『英雄たちの愛娘』  作者: 西日爺
5節 正義と悪

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89.男子会

「ごめん、遅れた」

「遅いぞ」

「悪いって言ってるだろが」

アビエスが謝罪しながら個室のドアを開けた。すぐ後ろにはフィルマも居て、軽く手で謝罪したがオルビは気にせず揶揄うように声をかける。

揶揄われてるのは分かっている。それでもアビエスが少し怒り気味に言葉を返すと、オルビは悪びれもせず座れと促した。

「何かあったの?」

ハジメが言葉だけは心配する。アビエスもフィルマも軍所属。時間には厳しいはずなので、遅刻するのはかなり珍しい。

アビエスが席に座ると面倒そうに溜め息を吐く。

「今度の隊商レイドの参加者発表と事前説明会があったんだよ。俺は経験者だからって、予定になかったのに説明と片付けをやらされた」

「大変だったね。今年も参加するの?」

アビエスの説明にハジメが聞くと、アビエスは首を横に振る。

「俺は参加しない。経験者で文官だからって、デンドンさんに説明のために引っ張り出されただけ。最近、便利屋みたいに扱われてる気がする」

そう吐き捨てると、そんな事より、と言った様子で目の前に置かれたビールのジョッキを持つ。

「こんな話より、まずは祝いだろ」

「そうだな。こんな愚痴は飲んでからだ」

2人の言葉にオルビが追随するようにジョッキを持つ。ハジメとドロスも持つと、そのままハジメに視線が集まる。

「――ん?」

「いや、ハジメが主役なんだから音頭取れよ」

オルビが無慈悲に言うと、ハジメが言葉を探す。けれどハジメはこんな場の経験もない。何と言って良いのか色々悩む。

「えっと。こういう場を作って頂き――」

「かんぱい!」

「おい!」

オルビがハジメを無視して無慈悲に叫ぶと、かんぱいの音頭とビールを飲む音が響いた。


「でも、ハジメがCランクか」

大きな1口を飲み終えると、アビエスが感慨深そうに呟く。フィルマも小さく頷き、オルビも同意するように言葉を続ける。

「ホント、良く3年で上がりましたね」

サシウス(ギルマス)にも言われたよ。そんな珍しい?」

ハジメが不思議そうに返す。ギルド職員としても仕事をしているので色んな人と繋がりがある。Cランクに上がった事を知られると来る人来る人、良く上がったなとかなり驚かれたのだ。

オルビが頷いて肯定すると、お酒で喉を潤す。

「珍しいぞ。Cランクに上がる奴は大抵、登録直後から優秀で目立つからすぐ上がる。ハジメみたいにコツコツ上がるタイプは相当努力した人間だ。ひいき目無しで凄い」

賞賛の混じったオルビの言葉に、ハジメは少し恥ずかしくなり誤魔化すように喉を潤す。

そんなハジメの照れに気付いたドロスが、救いの手を伸ばそうと質問を投げた。

「では、ハジメさんがCランクに上がって最初の大仕事は隊商レイドですか?」

「いや、今年は参加しないよ」

「そうなんですか?」

ハジメが首を振って否定する。予想外の答えにドロスが驚き、アビエスとフィルマも視線を向けた。その行動にオルビが小さく笑う。

「ホントだぞ。リリアが参加しないからハジメも外れたんだ」

「うん。リリアがBランクに上がったからね。流石に個別依頼は来なかったの」

説明をオルビが引き継ぎ、ハジメが補足する。アビエスが安心した様子で頷くと、反対にフィルマが少し不安そうになる。

「アスティア達は参加するの?」

フィルマが少しそわそわしながら聞いてきた。ドロスもそれ以上にそわそわしながら見て来たのでハジメは一瞬黙る。何かを確認するようにオルビに視線を向けると、少し悩んでから頷いた。

「アスティア達は参加するぞ。まだ他パーティの参加は未発表だけど、アスティアはギルドのリーダーとして参加するから公表済みだ」

その言葉を聞くとフィルマがほっとしたように息を吐く。何かに気付いたオルビはニヤニヤと揶揄う。

「何だフィルマ。あれか、アマラか?」

「うん、アマラ。俺だけ参加して会えなかったら、訓練の相手をして貰えない」

揶揄ったつもりだったが、フィルマは間髪入れずに頷く。

全く気にせず平然とした答えにオルビが黙り、誤魔化すようにちびちびと酒に口を付ける。その姿にアビエスが吹き出した。

「そう言えばそうだったな。前回の訓練だっけ、やっと1本しっかりと取れたって喜んでたの」

「ああ。やっと対応出来るようになってきたんだよ、それでもすぐに取り返されて、ボコボコにされたけど」

フィルマが悔しそうに呟く。

去年の隊商レイドからフィルマとアマラはよく一緒に訓練をしている。

勝率はもちろんアマラの圧勝。フィルマが1本取れる時はあるが、狙った形ではなくアマラの対応ミスがほとんど。木刀破壊だけが続き、悔しそうに廊下掃除をする姿が風物詩になりかけていた。

それがリリアが昇格した頃からほとんど折る事が無くなった。ここ1ヶ月は一気に伸びて、惜しい戦いが増えていた。

「そのせいなのかな、最近アマラが急激に強くなってるんだけど」

ハジメも小さく笑いながら聞いてくる。ハジメもアマラとよく訓練するが、最近はかなり勝率が悪い。

剛力無しでも訓練するようになり、この場合は7対3ぐらいで優勢に戦えている。しかし剛力ありだとボコボコ。ほぼ逆転した勝率になっている。

しかもアマラは最近、リリアにしっかりと投げ()()()()()。そのぐらい動けるようになっていた。

その賞賛を何故かフィルマが嬉しそうに受け止める。

「強くなってるよ。だから絶対負けたくない」

「あれだけボコボコに負けてて、よくそれが言えるよ」

「ホントだよ」

フィルマの言葉にアビエスが呆れるとハジメも苦笑いを浮かべる。

そこで一瞬間が開くと、ドロスが何か気になったらしい。

「じゃあ、今年の隊商レイドの参加者は私とフィルマになるんですか?」

その言葉が広がると、オルビが小さく首を振った。

「俺も参加だよ。アスティアとラナラスが居るから大丈夫だけど、上司が必要だってサシウス(ギルマス)に言われた」

「そうなると、2ヶ月は集まれませんね」

ドロスが少し寂しそうに呟く。しかしオルビは何かに気付いたらしく、少しニヤニヤしながら聞いてくる。

「そう言いながら、ラナラスと一緒の時間が作れて嬉しいんじゃないのか?」

「嬉しいけど、仕事ですから」

オルビのからかいも気にせず、ドロスは大真面目に答える。表情も大真面目で「何を言ってるんだ」と言ってるよう。

直後、場に沈黙が訪れる。けれどすぐに意味が分かるとハジメが叫んだ。

「え!待ってドロス、それホント?」

「ホントですよ。ギルドで話題になりませんでしたか?」

ドロスは当たり前のように答えるがハジメは驚き過ぎて呆然としている。フィルマもオルビスも信じられないと言った表情でドロスを見ていた。

それは数か月前にギルド内に流れた噂。

――ラナラスとオルビが付き合ってる。

隊商レイドで出会った2人。

けれどドロスはそこでやらかして、ハジメに大怪我を負わせ、ラナラスが倒れた。その行為に対して、厳しい視線と自責の念に捕らわれ、それでもしっかりと前を向いて2人に向き合っていた。

「話題になったけど、そうなの!あの噂ってホント!?」

ハジメが驚き過ぎて声が大きくなる。あの噂と言うのは、1ヶ月前くらいにギルドに流れていた噂。

ドロスとラナラスが付き合って、取引に影響されると困るから担当がずれたと言う噂だ。実際に2人の担当がずれて違う人になったのだが、すぐに戻ったので噂はすぐに立ち消えた。

ハジメもデマだと判断してドロスに確認することもせず、そのまますっかり忘れていたほど。

そのハジメの叫びにオルビが頭を抱える。

「ホントだぞ。ラナラスから自己申告があって、サシウス(ギルマス)と協議して()()ずらしたんだ」

「でも、すぐ戻ったよね?」

ハジメが記憶を呼び起こす。

担当がずれたのは事実。ハジメには関係なかったが、それでも何が原因か噂する声は少なくなかった。

しかし状況はすぐに変わる。短時間で担当が戻ったからだ。そのせいで噂話は何かの実験だ、評価の確認だ、に変わり、そしてすぐに消えて行った。

その噂を思い出しながら、オルビはドロスを恨めしそうに睨みながら愚痴をこぼす。

「自己申告はありがたかったし、後々問題になってからじゃ信用に関わるからな。が、お前ら加減しなさすぎだ」

ドロスの珍しい困り切った表情に、ハジメが小さく首を傾げる。フィルマとアビエスも不安そうにオルビを見た。

「お前、普段どんなふうに交渉してる(仕事してた)んだよ。担当代わった子が泣いてたぞ」

「どんなって、普通ですよ」

ドロスは不思議そうに答えるが、オルビは呆れたように突っ伏す。

「担当変えたらオルビが(上手)すぎて仕事にならなかったんだよ。ラナラスじゃないと相手にならない位にな」

誉め言葉にドロスが照れるが、話はそこで終わらない。

「ラナラスもラナラスだ。ドロス相手のノリで暴れに暴れて、今度は相手が泣きついて来てな」

「流石ラナラスです」

オルビの誉め言葉(呆れ)にドロスが嬉しそうに微笑む。が、笑い事ではないのはオルビだ。

「褒めてねぇよ。おかげで元に戻すしかないし、なのに問題も一切起きねぇし。ホントにお前ら付き合ってるんだよな」

「付き合ってますよ。それでも、仕事に持ち込むわけないですから」

「それを完璧に出来てるのがお前らの凄い(おかしい)ところだよ」

オルビが頭を抱えて全てを諦めた様に酒を飲み干すと、一緒に呆れて何も言えないハジメを見てきた。

「ハジメぐらい普通で何も問題起こさないと楽なのに」

「それは俺が平凡だって喧嘩売ってるか?」

「お前に喧嘩売ったら実力で殺されるから売る訳ないだろ」

オルビが揶揄うように誤魔化すのでハジメがイライラと拳を握る。タンコブの3つや4つ作りたそうな雰囲気を作るが、オルビは全く気にしない。

「それでも放置する訳にもいかないから、サシウス(ギルマス)権限で2度ほど内部調査が入ってな」

「えっ」

信じられない暴露にオルビが声をあげる。ハジメも怒りを一旦腹の奥に沈めて、知らなかった事実に慌てて聞く。

「オルビ、それホント?」

「ホントだ。書類上は本当に、本当に何も問題ないが、実際はどうか分からないからな。話分かる奴に頼んで、監査を頼んだんだよ」

「それ、言って良いの?」

ハジメが困惑しながら聞くが、オルビは深くため息を吐く。

「一切問題なかったから良いんだよ。2人には言う予定だったからな」

本当に謝罪しているのか怪しい体勢でドロスに視線を向ける。ドロスも知らなかったのだろう、かなり困惑している。けれどそんな困惑を気にしない様子で、深く、深くため息を吐いた。

「2人で買い物行ってたけど、普通の、本当に普通の買い物で、店じゃいつも通りの値切り。これをデートと言ったら、本当にデートしてる奴に怒られそうなレベルだったぞ。業務だって言われた方が納得するって、頼んだ奴も報告してきた」

オルビの言葉に、呆れ顔がドロスに集まる。しかしドロスは理解出来ず目をパチパチとさせるだけ。オルビは深いため息を吐くと机を叩いた反動で体を起こし、ハジメを指差した。

「ハジメを見習え!リリアと楽しそうに食事や買い物行ってる姿がよく見られてるんだぞ!」

「俺?」

流れ弾にハジメが叫ぶがオルビは気にしない。

「エリスも混じると、まるで子供と一緒に買い物する夫婦!知ってるか?ハジメがちゃんと仕事が出来て優しいせいで少しずつファンも出て来てるんだぞ!もういっそリリア家ファンクラブとかリリア・ハジメ夫婦ファンクラブとか名称変えるべきだって話題に上がってるくらいなんだ!」

「知らねぇよ」

信じられない戯言にハジメが冷たく叩き切って手を払いのけると、オルビ以上に深いため息を吐いた。

「そもそも夫婦とか恋人とかそう言う関係じゃないから。ただの仲間だし、それ以上の事は無いよ」

「あんなにお互い仲良さそうにしてるのにか!?」

オルビが呆れると、ドロスも同じくらい驚いて見てきた。その視線の意味が分からず、ハジメが眉間にしわを作ると言葉を探す。

「何て言うんだろう――危ない時は背中預けるから、お互い信頼してないとやってけないんだよ。だから恋人とか好き嫌いとか、そう言う関係じゃない」

「あー」「あー」

ハジメの説明に、フィルマとアビエスが納得したように声を出す。軍所属の2人だ、似た経験があるのだろう。

「そういうもんなのか?」

反対にギルド職員1本のオルビは分からないらしい。理解できないと言った感じで小さく首を傾げた。

「そう言うもんだよ」

ハジメが小さく笑うが、オルビはどこか納得できないらしい。それでも無理矢理言い聞かせるように頷くと、場に合わない真剣さでハジメを見てきた。

「分かった。どっちにしろこの話はここだけにして、表向きには絶対に言うなよ」

「え、なんで?」

「リリアがハジメを選んだって一部で話題になってて、リリアを狙ってた輩が落ち着いて少し平和になったんだよ」

オルビの言葉にハジメが信じられない程に驚く。

「え、そんなの知らないんだけど」

オルビはどこか楽しそうに笑うと、喉を潤す。

「そうだと思うぞ。ハジメがギルド仕事始めた頃って、日常会話も怪しかっただろ。リリアが指導と護衛でずっとべったりだったからな。下手にちょっかいかけてリリアの不評を買いたくなかったみたいなんだ。近寄れずにいて、その後はハジメと組むようになっただろ。全く近寄らなくなったんだ」

「……」

全く知らなかった話にハジメが固まる。けれどオルビは気にせず言葉を続ける。

「もう居ない(辞めた)けどな、元々リリアが狙いだったんだろ。リリアがギルドに入った頃からそう言う事はよくあったんだ」

「……リリアも、苦労してるんだな」

「誰だって、少なからず苦労はしてるさ」

オルビは肩を竦めるので、ハジメが少し困ったように微笑むと頷く。

「分かったよ。表向きにはそう言う事にしとく」

「そうしてくれ。リリアのためにもギルドのためにも、それが一番ありがたい」

ここに居るのは良く知った友達だけ、誰も余計な事は言わなかった。


オルビが「あ」と呟くと周りをキョロキョロ、自分達以外に誰も居ないのは当たり前だが確認すると、まるで悪だくみするように声を小さくして呟く。

「リリアには絶対に言うなよ。変なのにちょっかいかけられてたなんて恥ずかしいからハジメには絶対に言わないで、って言われてるからな」

「「「「……」」」」



後日、ギルド仕事中にオルビが2()()()のたんこぶを作る事件(事故)が起きるのだが、その原因は今でも不明である。

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