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【5節開始】『英雄たちの愛娘』  作者: 西日爺
4節 求めた強さ

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87.布切れ

「付き合ってくれてありがとう」

リリアは空のバケツに少し汚れの目立つ雑巾を引っ掛けながら、人の少ない墓地を歩いて行く。

隣にはお酒とコップを入れた手提げを持つハジメが軽く笑うと、気にかけないように首を振って返事をする。

「気にしないで。俺も巨剣(ハボタン)の事を報告したかったし」

ハジメはそう言うと背負う巨剣を見せるように少しだけ体を捻る。今は剛力を使っておらず重さをじっくりと感じるので、早く慣れないといけない。

「私も、ちゃんと挨拶したかったし」

リリアを挟んだ反対側ではエリスが軽食を持って歩いている。エリスも、リリアと一緒に時々来ていたそうだが、回数としてはそれほど多くない。実際に会った事はなく、少し来づらい所があったためだ。

でも今は3人で雑談しながら、のんびり墓の間を歩いて行く。

元の世界では怖い、行きたくないと思っていた墓場だが最近はハジメの感覚が少し変わってきた。

怖いのではなく、寂しい。

寂しいから、寂しくないように何度も来たい。

エリスと同じで、ハジメも実際に会った事は無い。それでも、まるで自分を育ててくれた感覚が自分の心に綺麗に残っている。

「あれ?」

リリアが何かに気付いて声を零す。ルウとユイの墓の前、巨剣(ウツギ)を背負う見慣れた姿が居たからだ。

「ライファも来てたんだ」

リリアがいつも通り声をかける。ライファも気づいていたようで、小さく手を上げて返事をした。

「おう。少し報告したい事もあったからな」

ライファはハジメを、その背に背負う巨剣に目を向ける。元々ユイが使っていたという巨剣。その新しい持ち主は、リリアと共に歩いている。

「リリアちゃん達も報告か?」

「うん。色々あったし、伝えたい事も増えたから」

リリアは嬉しそうに答えるとバケツを置く。ライファが持ってきていただろうバケツには既に水が張ってあり、綺麗なタオルが絞ってあった。

「これ、使ったんですか?」

「そうだが、どうした」

ハジメはそのタオルが気になって声をかける。とても綺麗で、ハジメが普段使うタオルより新しいかもしれない。それほど綺麗で、汚れが一切ない。

「いえ、その。新品に見えたので」

「新品だぞ」

ハジメの困惑にライファが楽しそうに笑う。リリアとエリスも予想外だったのか、綺麗なタオルに目が向く。

「3人して何驚いているんだ。俺は、2人に汚れたタオルは使えないよ。どうせ墓標は綺麗だしな」

ライファの寂しそうな呟き。けれど優しさ溢れるその姿は、きっと色々な事を見て来たのだろう。

「(あれ?)」

その言葉で何かを思い出したハジメが不思議そうに墓標を眺める。その変化にライファはすぐに気付く。その観察眼は流石と言ったところか。

「何だ、ハジメ。何か言いたそうだな」

「いえ、その。前にグレンさんと来た時がありまして」

ハジメはそこまで言うと、何となく、言って良いのか黙る。けれど何を言おうとしたのか気づいたらしい。ライファは小さく笑うと、ハジメからお酒を受け取り自分のコップに注ぐ。

「雑巾、凄くボロボロだったか?もう長く使ってるはずだし、グレン自身が直しながら使ってたはずだ」

寂しそうに笑いながら言うと、3人にコップを渡していく。そのまま、まさかのライファがお酒を注いでくれる。

全員に行き届くと、空いていた2つのコップにも注ぎ墓の前に置いた。とても動きなれた、何度も来たことを実感する動きだ。

「知ってるんですか?」

「知ってるよ。あのタオルが新品だった時から見てる」

ライファの呟きに、一番驚いたのはリリアだ。えっ、と大きく声が響くと、全員の視線が集まった。

「お、リリアちゃんも覚えてるか?」

ライファが懐かしそうに笑いかけると、リリアも頷く。

「うん、少し経ってからだけど。綺麗なタオル使ってて、雑巾で大丈夫だよって言った覚えがある」

「じゃあそのタオルだ。グレンはずっと、そのタオルを使い続けてるからな」

グレンもライファもお互い知った仲、付き合いも長い。何を考えてそうしているのか分かっているが、それ以上は何も言わない。

「――」

色々な事を考えながら、ハジメの視線はライファが絞ったタオルへと行く。

「ごちそうさま、邪魔したな」

ライファはコップを空にすると、持って来ていた中身が半分以上残っている同じ酒瓶を出してきた。それ以上何も言わずハジメに渡すと、墓標の前に置いていたコップも一気に空にした。

俺の挨拶は終わった、と言う風にバケツとタオルを手に取ると、コップも回収してそのまま背を向けて歩いて行った。


「「「――――」」」

静かに、誰も何も言わずに挨拶をしていく。

ハジメも色んな事が頭の中を言葉として駆けまわる。

起きた事、出来るようになった事、巨剣の事。まるで本当の親のように、色んな事を報告する。

「――」

目を開くと、そこには墓標しかない。それが寂しくて。悲しくて。実際に会えたら、そう思ってしまう。

けれどその考えがどれほど意味がなく、馬鹿げた望みなのかも分かっている。だから全て心に秘めて、背負った巨剣(思い)の重さに受け止める。

「ん?」

ジッと墓標を眺めていたら視線を感じたので横を見ると、リリアとエリスが見ていた。どこか嬉しそうで、どこか寂しそうな表情。

視線が合うと、お互い優しく微笑む。

「ハジメは挨拶できた?」

「出来たよ。エリスは?」

「私も出来た」

無意味とも言える確認を終えると微笑が噛み合う。それ以上話せる事は今は無い。墓標の前に並べた2つのコップに再びお酒を注ぎ、リリアとエリスに渡した。

2人は素直に受け取ると、墓標を眺めながらちびちびと飲んで行く。ハジメはその間に片付けを進めた。


「帰ろうか」

2人共飲み終えると、リリアが声をかけた。

「そうだな」「うん」

リリアの言葉に返事をすると片付けを終える。


何も言わず背を向けて歩き出す。

少しの雑談とじゃれ合いをしつつ、楽しそうに。


「――」

ふと、ハジメが何かを考えるように足を止めると、手に持つバケツにかかった雑巾に目を向けた。

破れて補修してきたが、生地が弱くなり着れなくなった服の成れの果て。雑巾としては適切な、どこにでもある布きれ。

「ハジメ?」

「――何でもない」

リリアが心配そうに声をかけると手を握る。

ハジメはその心配と温かさに触れながら優しく微笑んで返すと、手を触れ合ったまま歩き始めた。

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