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【4節開始】『英雄たちの愛娘』  作者: 西日爺
4節 求めた強さ

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83.空間魔法

「時間を使うとそれだけ周りに疑われるからな。さっさと進めるぞ」

いつもの穏やかさも優しもない、圧のあるグレンの言葉。それが余計に呼ばれた理由を表し、ハジメを襲う。しかし怯えるだけのハジメではもうない。

しっかりと受け止め、目線を逸らさない。

「ハジメ、幾つか確認をする」

まるで断罪のような言葉だが、ハジメは素直に言葉を受け止める。

「エリスの事、どこまで知った」

エリスが恐怖からハジメの服を強く握った。ハジメは優しく手を覆うと、グレンの視線を正面から受け止める。

「エリスが先天魔法を使えて、適性に問題があると」

ハジメがどこかボカシて言うとグレンが小さく頷き、リズウェルの視線が強くなる。

「次だ。ここに居る面子、どう考えている」

予想外の質問をグレンがしてくるので、一瞬悩んで固まる。ハジメを見定めるような内容に、エリスの手の温かさで緊張をほぐしながら思考を言葉にする。

「エリスの事を全て知っていて、俺に何かあってもすぐ()()出来る人たち、と考えています」

ハジメの覚悟が決まった言葉に、背中の方からカチッとロングソードと巨剣に手をかける音が聞こえた。しかしハジメは怯えもせず、グレンと目を合わせる。

ふと、どこかで味わった覚えのある状況に笑みが零れそうになるが表には出さない。

「最後だ。ハジメ、お前はどういう扱いをされると考えている」

「……」

その中で放たれた言葉に、ハジメは深く息をする。視線の強さからも下手な事を言ったらどうなるだろうか。

当然、ハジメもずっと考えている。どういう扱いになるのか。可能性は思いつく。けれど答えが出ずにずっと悩んでいる。

どうするのか、どうなるのか。

幾つかの予想は立てている。最善も、最悪も。ハジメの命に関わる可能性も考えている。しかしその予想をここで言うのは危険極まりない。

「分かって、いません」

出せない答えに言葉を悩みながら、けれど都合の良い言葉も言えずにそれだけ言う。

一瞬の沈黙。

けれどすぐにグレンに言葉が届くと、今までの圧を消して優しい微笑みが浮かぶ。

「ハジメは、エリスの空間魔法は見たのか?」

「えっ」

グレンの質問と雰囲気の急激な変化にハジメはつい声をあげるが、リズウェルから増えた殺気に固まる。

「グレン、さん?」

エリスも怯えながらも聞くと、少し辛そうにグレンが目を向ける。

「いえ、見ていません」

ハジメは素直に言葉にする。グレンは予想していなかったらしく、不思議そうに表情を変えた。

「なのに信じたのか?」

ハジメは小さく頷くと、嘘偽りない思いが浮かんでくる。その優しく穏やかな表情に後ろで警戒しているリズウェルの殺気が少し和らぐ。

「リリアの事も、エリスの事も良く知ってるつもりです。冗談で言う訳ないですし、空間魔法の危険性はリリアに聞きましたから」

「何で空間魔法の危険性を分かってるんだ」

周囲の警戒が強くなる。何故警戒されたかは分かっている、けれどハジメは気にせずに自分の無能さを思い返すように、言葉を吐き出す。

「この世界を何も知らない頃、リリアに聞いてしまったんです。元の世界だと、物語でよくある能力だったので」

隠すことないハジメの言葉に、グレンが何か納得したらしく悩みだした。

エリスはどこか希望を持ってグレンを見ており、周囲の圧も少しずつ落ち着いて行く。

「――キョウヤ、周りは大丈夫だな」

「もちろんだ」

グレンの簡単な確認に、キョウヤは既に確認済みと頷く。そこまで確認して深く何かを後悔するように息を吐くと、やっとエリスに目を向けた。

「エリス。申し訳ないが、ハジメに見せる事は可能か?」

グレンが本当に申し訳なさそうにエリスに声をかける。

その言葉が意味することを理解するとエリスは期待を持って、けれど少し辛そうに頷く。

「はい、出来ます」

「そうか。ハジメ」

「え、はい」

話を振られると思っておらず、ハジメは困惑しながら返事をする。しかし先ほどよりグレンの表情は険しい。

「これから先を見たら、ハジメに選択権は無い。全てこちらの指示に従ってもらう」

グレンの恐ろしい言葉にハジメは深呼吸すると、小さく頷く。理不尽な命令もあるかもしれない、けれどグレンはそんな事しないと信頼する。

エリスが不安そうにハジメを見る。グレンの後ろで、リズウェルが圧をかける。

ハジメの背中に感じる殺気は、ライファだろう。

「分かりました」

ハジメの答えは決まっている。ここで拒否したらエリスの隣も、リリアの隣にも立つ権利は無い。

もうとっくに、覚悟は済んでいる。

「エリス。ハジメのロングソード、入れられるか?」

「はい」

グレンの言葉にエリスも覚悟を決めて頷くと、ハジメの腰に付けているロングソードに目を向ける。ハジメには何をするのか良く分からないが、使いやすいようにそっとエリスの前に置いた。

「……」

エリスはそのまま、何も言わずにロングソードに触れる。何が起こるのか、ハジメは分からずに待っていると変化が起こった。

「えっ!?」

ロングソードが消える。

予想はしていたが、今まで見た事もない変化にハジメは声をあげてしまう。ハジメは驚きながらも、原因と思われるエリスを見る。

「……」

「エリス?」

エリスが何か辛そうに小さく眉を顰めていたので、ハジメは慌てて椅子から立ち上がる。しかしグレンは気にせず小さく頷いた。

「エリス。もう良いぞ」

「はい」

グレンがそう言うとエリスは小さく返事をしてロングソードを同じ位置に出す。

辛そうに息を吐くと、心配しているハジメに気付いたらしい。心配そうに見るハジメに、エリスは笑顔を送った。その姿がまるで何かを耐えるようだったので、不安になりエリスをジッと見つめる。

「次だ。ライファの巨剣(ウツギ)を頼む」

しかしグレンは気にしない。すぐに次の指示(命令)を出した。

「グレンさん、本当に大丈夫なんですか」

エリスに指示をしたのに、不安からかハジメが止めてしまう。しかしグレンの視線は強く、ハジメの言葉は無視させる。

「気を付けろよ」

ライファが2人の後ろから近づくと、ロングソードをどかして机の上に巨剣(ウツギ)を置いた。静かに置いたが、それでも机が小さく悲鳴を上げる。

ハジメはとても心配そうにエリスを見るが、覚悟を決めたエリスを止める事は出来ない。

「はい」

エリスはそれだけ言うと、巨剣(ウツギ)に触れた。

何が起こるのか。ハジメは不安の中、ジッとエリスを見ていると変化は起きた。

――ミシッ

先ほどと同じように、巨剣(ウツギ)が消える。しかし先ほどまでと違い、エリスの座る椅子が大きく悲鳴を上げた。

「エリス!」

同時にエリスが辛そうに椅子から滑り落ちそうになったので、ハジメが慌てて支える。

「――なっ」

いつもだったら、軽く簡単に持ち上げられる。何度もちょっかいをかけられたから知っているエリスの軽さ。

しかしそんな記憶が嘘のように重くなっており、ハジメは慌てて剛力を使って支える。けれど支えきれず、エリスと一緒に椅子から転げ落ちた。

それでもしっかり受け止めるとエリスを抱きしめる。

「エリス!良いから()()!」

凄まじい重さがハジメの体に乗り、体が壊れそうになる。けれどそんな事がどうでも良い程にエリスが顔をゆがめている。

何が起きているかはハジメには分からない。けれど直感からそう叫ぶと、エリスは反射的に巨剣(ウツギ)を床に放り出した。

その瞬間、重かったエリスの体は嘘のように軽くなり、普段通りのエリスに戻る。けれど荒く息をするだけで動く事も出来ず、ハジメに体を預ける。

「エリス!大丈夫か!」

ハジメが叫ぶがエリスの反応は無い。

グレンは慌てた様子もなく席から立ち、テーブルの陰になっていたハジメ達に近寄ると声をかけた。

「エリス、だい――」

「なんてことをさせるんだ!!」

元帥(グレン)であることも、命の危険がある事も関係ない。

原因は分からない。けれど、間違いなく空間魔法だろう。弱り切ったエリスを守るように優しく抱きしめると、信じられない程の殺気と怒りを込めてグレンを睨む。

グレンの後ろに居たリズウェルが槍を構えた。しかし気にしないかのようにグレンは手を上げて制する。

ハジメも分かっている。

殺気をぶつけたところで。怒りをぶつけたところで。

ハジメではグレンに手も足も出ない。

それでも、大切な家族(妹の様な存在)を守るために自分を強く見せる。

「ハジメ。大丈夫、だから」

ハジメを止めるよう、エリスの小さい声が広がった。ハジメが顔を下げると、エリスがハジメの胸元を控えめに摘まみ弱々しい笑顔を浮かべていた。

その様子に、グレンが安心した様子に一息吐く。

「エリス、怪我はしてないか?」

「はい」

グレンが優しく声をかけた。エリスは笑顔に少し力を込めるが、疲れ切ってるらしい。普段のエリスから考えられない程弱々しい。

「助かった、ありがとう。隣の部屋が開いてるから少し休め。リズウェル、キョウヤ。見ていてくれ」

「はい」

「はいよ」

グレンの言葉にリズウェルとキョウヤが動くが、ハジメは2人を威圧しながらエリスを優しく抱きかかえる。絶対にエリスを守る、ハジメの意思を2人が受け止めて睨み合う。

そんな、普段見ないハジメを止めるようにエリスが胸元を弱々しく引っ張る。しかしハジメは止まらない。

「ハジメ。大丈夫だから」

エリスの言葉はハジメに届かず、ただ守ろうと周りを強く威圧する。

意味は無いだろう、それほどの実力差がある。しかしハジメは一切引かない。

普段だったら絶対見れない、ハジメが本気で怒った姿。

「ハジメ」

エリスの声は届かない。

エリスのために怒っているのに。

エリスを守ろうと戦っているのに。


その姿が嬉しくて、悲しくて。

エリスはつい動いてしまった。


「――もっ」

エリスの手が怒り厳しい表情をするハジメの頬に伸びると、両側から握った。変な声が出たのでハジメが驚いて目を見開くと、それ以上に驚いた顔をしたリズウェルと目が合う。

「もっ……もっ……」

そんな反応もお構いなし、エリスはハジメの頬を遊び(押し)続ける。

ハジメの口から出る音だけが部屋に響く。混乱と困惑が広がっていく。一番困惑しているのはリズウェルかもしれない。ハジメとエリスを交互に見ながら、何が起きているのか理解を拒否している。

その音と困惑が続いていくと、少しずつ怒りが落ち着いたらしい。ハジメの視線がエリスに落ちた。

「……」

不安そうなエリスと目が合う。

空間魔法を使った体はまだ辛いらしい。ほとんど動こうともしない。けれどそれ以上に、怒るハジメを見るのが辛い。

エリスに今のハジメを止める力は無い。何も出来ない。

だからこそ残っていた楽しい記憶を頼りに、動かない体を必死に動かしハジメがこっちを見るように頬を押した。

「エリス、大丈もっ……」

「――ふふっ」

ハジメの心配を手で止めると、エリスが笑う。エリスの楽しそうに、嬉しそうに、安心させるように、けれど辛そうな様子は隠し切れない。

そのエリスの優しさに、ハジメは遊ばれた事もどうでも良くなり頭を撫でた。

「大丈夫なんだな」

「うん。だから、怒らないで」

たったそれだけの会話。

けれどお互いを信頼した様子に、グレンは嬉しそうに、けれど辛そうに眺める。

「リズウェルさん、お願いします」

既にハジメには殺気も怒りもない。その変化に驚きもせず、リズウェルはハジメの前に座るとエリスを受け取る。

「エリスは重いですが大丈夫ですか?」

「重くないよ」

エリスがハジメの言葉に文句を言うが、素直に渡される。まだ動くのも辛いのだろう。

「大丈夫ですよ。このぐらいは慣れてますから」

リズウェルは優しく呟くとエリスを受け取る。本当の子供を抱くように立ち上がると、まずはキョウヤが先導するように部屋を出る。

その姿は普段通り、今の状況を知っていても違和感1つない。

周囲にちらりと視線を送り問題ない事を確認するとすぐにリズウェルに視線を向けた。分かっていなければ、そうと気づかない熟練された動き。

そのままリズウェルもエリスを抱いて部屋を出ると足音がはどんどん遠くなり、隣の部屋のはずなのにすぐに聞こえなくなる。エリスを休めるために、出来るだけ静かに歩いているのだろう。

ハジメはその事に気付くと、安心して一息吐く。

「さて、今のうちに聞きたい事はあるか」

グレンはそう聞くと椅子に戻る。ライファも地面に転がる巨剣(ウツギ)を持つと、最初居た位置に戻った。ハジメも怒りも文句もなく椅子に戻ると、じっくりとグレンの言葉を噛みしめる。

何故エリスの居ないこのタイミングで聞いたのか。言葉に対するハジメの答え(質問)は決まっている。

それでも、その答え(質問)が問題ないのか冷静に自問自答し、ゆっくりと口を開く。

「エリスに、何が起きていたんですか」

エリスが空間魔法を使ったのは分かっている。しかし、その反応は異常極まりなかった。

グレンはその質問を満足そうに聞くと、小さく頷く。

「空間魔法を使い、ハジメのロングソードとライファの巨剣(ウツギ)を仕舞っただけだ」

グレンは当たり前の答えを返すが、ハジメが知りたい事ではない。だからこそ、手に残るエリスの辛そうな表情と重さを思い出しながら再び聞く。

「それだけであんなに重くなって辛そうにするんですか」

ハジメが出来るだけ冷静に言うが、うっすらと籠っていた怒りは隠し切れない。ライファがその怒りに反応するように距離を詰める。ハジメが暴れても大丈夫な位置まで来ると、グレンが答えを提示した。

「それがエリスの魔法だからだ。別の空間に仕舞い持ち運ぶことが出来るが、その重量は全て本人にのしかかる」

ハジメの思った通りの言葉が返され悔しそうに黙るしかない。

巨剣(ウツギ)の凄まじい重量はハジメも知っている。剛力を使って、運ぶ体勢になって何とか持ち上げられる重量。

そんな重量をエリスが持てるはずがない。空間魔法で入れたらこうなるのは分かっていたはずだ。しかし説明するためにはこの上ない程使いやすいだろう。

ハジメが理解し、悩み、けれど受け入れられずに悩む様子を見ながら、グレンは言葉を続ける。

「エリスが言うには、体中に(おもり)が付けられる感覚だそうだ。先天魔法の時は何も無かったらしいから、大気魔法になってからだろうな。ロングソードぐらいなら気持ち悪いで済むが、もっと重い――巨剣とかだと重すぎて動けなくなる。少し休めば問題ないから安心しろ」

「本当なんですか?」

「俺が信用できないか?」

「……」

ハジメは何も言えない。けれどゆっくりと言葉を噛みしめ、自分の無力さから目を逸らさずにグレンに目を向ける。

「質問が無いなら――」

「もう1つだけ」

グレンの言葉をかき消して呟いた声は、様々な感情が混ざっていたのだろう。不思議と響いて、沈黙へと変わる。

言葉が続けづらい嫌な沈黙となるが、ハジメはその静けさも受け入れるようにグレンを見据える。


「エリスの体調は、大丈夫なんですか」


ボンヤリとした言葉。グレンも何が聞きたいのか分からず眉を顰めたので言葉を続ける。

「ノビリ町で、サッシャ先生に会いました。ルウさんとユイさん。そして、()()魔法について教えてくれました」

「……」

()()()()ではなく()()()()と表現したハジメの言葉にグレンが腕を組んで黙る。無視ではなく、何を聞こうとしているのか気づいた上で言って良いのか悩んでいるのだろう。

だからハジメは言葉を続ける。

「リリアから、エリスと会った時の事を聞きました。ずっと、体調が悪かったと」

グレンは返事をしない。ただ怒るように、悩むように、じっと腕を組んで何かを考えている。

嫌な沈黙が続く。時計の音が時間を進むのを示しているが、その音が聞こえない程に緊張している。

それは恐怖か、不安か。ハジメには分からない。

「知ってどうする。ハジメが知っても、何も変わらないぞ」

どれほど待っただろう。ハジメが何を背負おうとしているのか分かった上での言葉。だからこそ、グレンの絞り出した厳しい言葉は優しさに聞こえる。

「変わらなくても、知ります」

ハジメはもう、そんな優しさに甘えない。全てを受け止めようと、視線でも強い意志を返す。

「――どこまで、知った」

悩みながらぶつけられた言葉。全てを覚悟しているハジメは、その悩みも不安も関係ない。

「殲滅魔法は命を削って使う。ルウさんもユイさんもそれが原因で亡くなったと」

誤魔化さず言葉にすると余計に心に刺さった。けれどその痛みも苦痛も全て受け止め、覚悟を決める。

そんな覚悟は意味がないかのように、まるで大丈夫と言う風にグレンは優しく微笑んだ。

「サッシャからは何と聞いた?」

寿命(老衰)だったと」

「そうだ、()()だ。エリスも長く魔法を使っていたようだが、症状に出る事は無いと考えている」

まるで安心させるようにかけられた言葉に、ハジメは悔しさから手を強く握る。

「グレンさん。俺は、どんなことでも受け止めます」

「サッシャは他に何と言っていた?そっちの世界の事、言ってなかったか?」

ハジメの覚悟を誤魔化すようなグレンの言葉。しかし苛立つこともせず、ただ質問に答える。

「言ってました。俺の世界は、医療が良いと」

思い出すように呟くと、グレンは悲しそうに笑う。

「そうだ。そんな世界でも、老衰まで生きれる人は多くないとサッシャが調べた」

「――あっ」

「そうだ、気づいたな。ハジメの居た世界ならまだしも、こっちじゃ80歳や90歳まで生きれないぞ」

ハジメがつい声が出るが、グレンは気にしない。小さく笑いながら、肩を竦める。

「エリスがどれだけ先天魔法を使ったか、分からない部分は多い。それでも、今までの様子を見る限り、影響はかなり限定的になると予想している。少し寿命は短くなるかもしれないがな」

今までの不安をかき消すようなグレンの言葉。

本当か嘘か、ハジメに判断する能力はない。しかし嘘と思えない言葉にすがるように、何とか言葉を絞り出す。

「本当、ですか」

「嘘を言う必要も、優しく言う必要もない」

グレンが安心させるように言う。言葉を噛みしめていると、グレンが不意に辛そうな気配を漂わせる。

「大丈夫だ。ルウやユイぐらい無茶な使い方をさせなければ、そうそう影響が出る事はない」

グレンの後悔するような呟き。

そこでハジメも気づく。グレンも同じように先天(殲滅)魔法を使ってきたはずだ。同じように、寿命を削って。

それはつまり、リリアの両親のように明日の保証は無いという事。今日の命さえ、怪しいという事。

なのにその事を恐れもしていない、全てを受け入れたようなグレンの表情と言葉。

その事が不安になり、言葉を隠すことが出来なくなる。

「グレンさんは大丈夫なんですか。体調は?」

「何ともないぞ。まぁ、長生きは無理だろうが影響は小さいだろうな」

「……怖く、ないんですか?」

ハジメの不安そうな言葉に、気にした様子もなくグレンは優しく微笑む。

諦めたわけでもなく、怯えているわけでもない。ただあるがままを受け入れた優しい表情。

ハジメがその表情に驚くのも気にせず、隣の――恐らく、エリスが休んでいる部屋に視線を送った。



「怖がったら、ルウとユイに合わせる顔がないだろ」

その寂しい言葉はハジメに触れると、意味を考える前にどこか消えて行った。

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