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【4節開始】『英雄たちの愛娘』  作者: 西日爺
4節 求めた強さ

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77.秘密の秘密

何も言えず呆然と固まるエリスを優しくハジメが抱きしめていると、リリアが手を優しく握った。ハジメと目が合うと、少し寂しそうに頷く。

震え動けないエリスだったが、ハジメが抱きしめるのを止めて手を握ると寂しそうにハジメを見てきた。

――大丈夫だから

ハジメが優しく微笑むと、エリスが泣きそうになる。

「テントの中に入ろう」

リリアが小さく呟くと、エリスは2人に連れていかれるように入ってく。


付けた火は消えてしまうだろう。けれど何か、もっと大切な何かも消えようとしている。



テントで3人、温め合うように小さく固まる。

リリアは片手でエリスを抱き寄せながら、ハジメは両手でエリスの手を包みながら、肩が触れ合う距離で不安を温める。

「ハジメは何から聞きたい?」

リリアが呟くとエリスが怯えて小さく震える。その震えを抱きしめるよう、ハジメは包み込む手に少しだけ力を込める。

「出来れば聞きたくないけど、聞かないとまずいよね」

「……」

ハジメの問いにリリアが固まる。ここまで来て隠してしまえば、それはいつか不和を生む。隠すと言う事も、それはそれで危険だ。

唇を噛んでハジメを見ると、信じられない程優しい笑顔を返された。

「言えないなら言わないで良いから」

「……ううん、聞いて欲しい」

リリアが首を振ると、エリスもハジメを見る。エリスの目は泣きそうで、まるで全てを失ったかのよう。そのままお互いの温かさ(優しさ)に身を委ねながらゆっくりと時間が過ぎる。

リリアもエリスも何から言って良いのか分からない。だからこそハジメの一言から始める。

「ならさ。エリスは先天魔法が使える、で合ってる?」

「正確には大気魔法、だね。エリスは洞窟(指定ダンジョン)で大気魔法に出来るように生活したから」

リリアが説明すると、エリスが小さく震える。その震えが手から伝わるが、大丈夫と言うように握る手に力を込める。

「隠さないといけないの?ラナラスは隠してなかったよね」

「……」

ハジメが思いうかべた友達の先天魔法使いの名を言うと、リリアが黙ってしまう。どうしようか悩んでいると、エリスがポツリと言葉を吐き出した。

「私は、適性に……問題があるの」

「適性、って何?」

「えっと……」

ハジメの知らない言葉につい疑問を返してしまう。エリスがどうしようか悩んでいると、リリアが小さく言葉を絞り出した。

「先天魔法には得意と苦手があるの。グレンさんなら土とか炎、リズウェルさんなら水と炎みたいに」

「土と炎、水と炎……2つなの?」

「2つだね。魔法について調べればすぐ出て来るよ」

リリアの説明に頷いて返す。ハジメがグレンと訓練した時、土属性しか魔法を使わなかったのはそれが理由だ。

エリスは辛そうに黙り握る手で返事をして、ハジメは何も言わず言葉を待った。

「私の適切は()と……ヒカリさんからは、()()って言われてる」

エリスの言葉を聞くと、ハジメは深く息を吸い、そして隠していた重さを実感して吐き出した。

――空間魔法

いつの日か、ハジメがポツリと適当に言った時もリリアに叱られた。悪用すればどこまでも悪用が可能で、危険(便利)な魔法。

一緒に居るハジメにさえ秘密にしなければいけないわけだ。その思いを理解した上で、ハジメはリリアと目を合わせる。

「エリスは普段、先天――じゃなかった、大気魔法……違うな、便利魔法も使わないよね」

「うん。便利魔法も威力が上がってバレちゃうから」

「だから俺の前でも使わなかったんだ」

「便利魔法は森とかダンジョンで、私と2人きりの時しか使わないって約束してるから」

「絶対使わない、じゃないんだ」

「ずっと使わないは難しいから。だから私と2人きりって条件付きで使うようになってたの」

「そうなんだ」

ハジメが納得すると、エリスが小さく震えて目を伏せた。

――いつでも使える優秀な魔法だからこそ、つい使ってしまうを防ぐ。

簡単なトラブルや対処が簡単な事故、それらでつい使ってしまっては元も子もない。

なら何かしら条件を作って、その条件下でのみ使うようにするのが良い。そうすることで能力もしっかり把握できて、うっかりも減る。

エリスもそうだったのだろう。その条件がリリアと2人きりだった。

「先天魔法を持ってるって知られたところで本来は問題はないんだけど、エリスの空間(適性)はそうはいかない。適性の片方に何かある、って感づかれるのも防がないとダメ。だから私以外が一緒に居る時は絶対に使わないって決まってたの。エリスも気を張るから大丈夫だったんだけど、」

そこでリリアが後悔するように辛そうに微笑む。エリスは小さく震えるしか出来ない。

「ハジメが居るのが、当たり前になっちゃってた」

始まりは、不運から始まった幸運な出会い。そこから仲良くなり、この世界で生きるようになり、喧嘩し、一緒に歩くのが当たり前になった。

他の人だったら何かしらの警戒があっただろう。それは信用でも信頼でもない、もっと先にある心の安らぎ。

その当たり前となった心の安らぎが、秘密を隠せなくなってしまった。

「……」

ハジメは何も言えない。当たり前だ。

リリアとエリスがハジメが居る事が当たり前になった事と同様に、ハジメもリリアとエリスが居る事が当たり前になっている。

今更そんな事を知らされても、この生活を変えたいわけではない。

しかし、それは、許されない。

――エリスは先天魔法が使えるんだよ

そんな、当たり前の自慢。当たり前の言葉。それが致命的な危険を生む。

覚悟を決めると深く息を吐く。ハジメの答えは決まっている。

「エリスはどうなるの?」

ハジメの疑問にエリスが震える。リリアは優しく手を握ると小さく微笑む。

「話を聞く事になると思うけど、多分、今までと何も変わらないと思う」

リリアの返答に小さく息を吐く。その行動で次に何を聞こうとしているのかリリアが気づく。

「なら俺は、今後どうなるの?」

エリスが小さく唇を噛む。リリアが辛そうに顔を伏せると、何とか言葉を紡ぐ。

「分からない。グレンさんに言わないといけないけど、どういう対応になるのか私も全く予想できない」

リリアが後悔するように呟くと、エリスは何も言えず震える。自分の不注意が原因、しかもその影響はほぼ全てハジメに与える。

その事が後悔となり、ただ震えるしか出来なくなっている。

「――」

それ以上何も言わないハジメに不安になったエリスが顔を上げると、ハジメのとても優しい笑顔が迎えた。

「え?」

その笑顔の意味が分からず、エリスはつい声をあげてしまう。

「エリスはどうしたい?」

ハジメが優しく語り掛ける。エリスは小さく震えると何も言えずに強く手を握るので、安心させるようにその手を優しく覆う。

「…………」

そのまま、ゆっくりと時が過ぎて行く。

パチパチと、どこか遠い場所で消えて行く火の音がする。

ただ静かに、すぐ近くで大切な何かが消えようとしている。

振るえる手が、お互いを認識する。

暖かさだけが、お互いを認識する。

その認識が、いつか失う残酷で優しい結末を想像させてしまう。

2()()と、一緒に居たい」

大切な何かを天秤に掛け、出したくない答えを見ないふりして、ただただ思いを探す。エリスの呟きは小さかったが、それでも言葉はしっかりと届く。

「分かった」

ハジメが当然のように答えを返すと、エリスと目が合った。ハジメはとても優しく、穏やかで、その表情の意味が分からずエリスは呆然とする。だからこそ返事をするように手に力を込めた。

ハジメの姿にエリスは泣きそうになりながら言葉を漏らす。

「無理だよ。だって私、危険な力なんだよ。誰かにばれたら、みんなの命が危ないかもしれないんだよ。秘密にしなきゃいけないのに」

「大丈夫だよ、俺は2人の味方。俺だって強くなったでしょ。少しぐらい何とかするよ」

エリスの恐怖にハジメは覚悟で返す。

誰か、敵とも言える存在にエリスの力がばれたら様々な事が起きるだろう。リリア達の命が危ないかもしれない。国に危険が及ぶかもしれない。

その中にハジメも入るだろう。ハジメが知る事でそのリスクが増える。これ以上他の人に知られないようにする対策は、誰も望まない方法になるかもしれない。

「少しじゃないよ。きっともっと、ずっと――」

「リリアも居るでしょ」

諦めそうになるエリスに笑いかける。エリスが泣きそうになりながらリリアに目を向けると、とても優しい微笑みが返される。

「うん、私も居るよ。大丈夫、何とかしてもらえるように私も頑張るから」

意味があるとは思えない。優先順位はしっかりとある。

それでも、効果があると祈らざるおえない。

「でも……だって……」

エリスが涙を流しながら声を漏らす。

嫌な事を考えてしまう。

最悪な事を考えてしまう。

けれどもハジメは何も問題ないと言う風に微笑み、手を離して抱きしめた。

「大丈夫だから」

たったそれだけ言うと、エリスを優しく包み込む。

その温かさと優しさにエリスは震え出すと、小さな嗚咽が響き出す。

「――――」

エリスはハジメにしがみ付くと、そのまま悲鳴(泣き声)となる。ハジメはその声を受け止めながら泣きじゃくる大切な仲間を、リリアと一緒に抱きしめ続けた。



「――――すぅ――――すぅ」

どれほど時間が経っただろう。

焚火は当の昔に消え、テントの外は星々が目立つ時間になった。

泣きつかれたエリスはハジメにしがみ付いたまま眠ってしまい、起こすのも忍びなくそのまま寝かせている。

問題は寝た事ではなく、今の状態。

エリスは片手でハジメの服を握っていた。これだけなら良かったのだが、もう反対の手でリリアの服を握りしめていた。しっかりと握っていて外す事も出来ず、まともに動く事も出来ず3人で固まっている。

「せっかくだし1つ聞いて良い?」

「何?」

小声でハジメが聞くと、同じくらい小声でリリアの返事が返ってきた。

現在、3人は川の字のように眠っている。2人の服を握るエリスを起こさないよう、ゆっくりと3人で横になっていた。

真ん中でエリスが寝ており、丁度良い体勢を探した結果ハジメが腕枕をする形となった。その腕は反対側で横になるリリアの顔の前まで行き、リリアの顔の前で手を握り合う形になっている。

時々リリアの吐息がかかるので少しドキドキしているが、安心して服を握るエリスが落ち着きに変えている。

「2人はどうやって出会ったの?」

エリスを起こさないように小さな声で聞く。お互いの顔は見えないが、触れ合う手でお互いを感じながら言葉を交わす。

「もう6年、7年前になるかな。王都(サイシア)に引っ越して少し経った頃だね」

リリアが思い出すように呟く。声は小さくエリスが起きる様子もなく、安心して眠っている。服を握る手を優しく包み込むと、リリアはその当時を思い出すように微笑む。

「ヒカリさん達が1回目の旅行に行ったあとでね、エリスを連れて帰ってきたの。どこで出会ったのか、場所までは教えてくれなかったけど」

ハジメにはリリアの声しか聞こえない。けれどその声はとても優しい。

「まだ先天魔法の状態でね。エリスの魔法は簡単に発生しちゃうから、ずっと体調も悪くて動けなかったの」

「それは、大丈夫なの?」

「ダメだったよ。だからすぐに近くの洞窟(指定ダンジョン)に行って籠ったの。エリスの負担が少ないように同性の私とヒカリさんがメインで護衛して、時々リズウェルさんにも助けてもらってね」

まるで母親のように優しくエリスを見る。リリアはその当時を思い出すと、色んな感情を込めてハジメの手を握り直す。

「リリアが魔法に詳しいのはその時調べたから?」

「うん。エリスを知るのに必要だったから」

ハジメはリリアの言葉を聞きながら、まるで赤子をあやすようにエリスのお腹の辺りをポン、ポンと優しく手を置く。まるで親になったような不思議な感覚を感じながら、リリアの話を聞く。

「最初の頃はほとんど寝てたんだけどね。1ヶ月くらいしたら話せる余裕が出てきて。その頃からずっとこんな感じ」

「親子みたいな?」

「姉妹かもよ」

2人で楽しそうに笑う。けれどリリアが少し辛そうに思い返す。

「それでも、調子はずっと悪かったね。リズウェルさんは先天魔法の使い過ぎって言ってた。落ち着いて来たのは2ヶ月くらい経った頃かな」

リリアの言葉にハジメが凍る。手の動きが止まった事に気付いたのか、エリスの手がハジメの服からお腹の上のハジメの手に動く。

起こしたかと一瞬静まるが、すぐに寝息が聞こえてきた。寝ぼけていただけらしい。

「……大丈夫、なの?」

「大丈夫って言ってたよ」

何かを隠しているのは間違いない。けれどその事までリリアに背負わせたくはないようで、リリアは何も聞かされていない。

リリアも当然何かあるのは予想している。けれどそれ以上は聞けず、ただエリスと共に生きて行くことを選んでいる。

余計な事を考えないように、リリアはハジメの手の感触を確かめた。



「――ふわぁあ……」

少し会話が落ち着いたタイミングでリリアのあくびと吐息がハジメの手にかかる。リリアのあくびに驚くが、あくびに返事するように握る手に少し力を込める。

「今日はリリアが先に寝たら?見張りしてるからさ」

「良いの?ハジメは大丈夫?」

「大丈夫だから先に休んで」

「――分かった、おやすみ」

「うん、おやすみ」

短く挨拶をすると、リリアはすぐに眠りへと落ちて行く。

無意識なのか、ハジメの手を顔に近寄せ頬にくっつけた。

急な行動にハジメはドキッとするが、少し経つと聞こえて来る2人分の寝息に安心する。

「――」

軽くリリアの手を握ると、リリアは握り返すように少し力が籠る。

起こしそうになったことを反省してすぐ力を抜くと、安心したようにハジメの手に体重を寄せてきた。

エリスはぐっすり寝てて2人の動きも気づかず、お腹の上に置かれたハジメの手に自分の手を重ねて安心しきっている。

――恋人、兄妹、仲間、友達、親友、夫婦

信頼を寄せられた状況に色々な関係が頭に思い浮かぶが、けれどどこかしっくり来ずに悩んでしまう。

「(――父親って、こういう気持ちなのかな)」

どこか違和感はあったが近そうな言葉が浮かぶ。

もうずっと会っていない両親。子供の頃のことなんてもう全く覚えていない。それどころかもう様々な事が思い出せなくなってきている。

その事に少し寂しさはある。けれどそれ以上に、今ある穏やかさと優しさを大切にしたいと手から伝わる暖かさを受け止める。

こんな状況なのにハジメには邪な気持ちは一切浮かばない。

ただあるのは2人の信頼に応えたいと言う穏やかさだった。



「(さて、と)」

ハジメは心の中で気合を入れると周りに意識を向ける。

2人の信頼は幸せとなり、凶悪な睡魔となってハジメを襲う。

(見張り)は長い。

ハジメの幸せ(天国)睡魔(地獄)はまだまだ続く。

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