かわいいVS銀の弾丸
フレイアは、背筋を伸ばして、尻尾は揺らさずに、静かに立っていた。プラウトラから取り出した銃をこちらに向け、黙って僕が動くのを待っているようだった。
彼女の威圧感は、尋常のそれではなかった。
僕は気圧されて、とても動けそうになかった。動いたら殺されるかもしれない。そんな恐怖感が、ぞわぞわと僕の心を脅かしていた。
「えっと、どうすれば……?」
辺りを観察しようと視線を泳がせても、青い障壁の外を見通すことは出来ない。姉妹がどこにいるのかすら確認できず、孤独から不安な気持ちが押し寄せてくる。
「貴様も武器を出すといい」
「戦わなくちゃいけないんですか?」
彼女は何も答えない。
……つまり、沈黙こそが答えだと示している。
どうする……? フレイアと、本当に戦わないといけないのか? ”銀騎士”を拝命しているらしい、その彼女と?
彼女は”試す”と言っていたけど、それは”命までは取らない”という意味なのかもしれない。ボコボコにされて、ボロ雑巾のように放り捨てられることだって……あるかもしれない。
僕は唇を噛んだ。
怖い。
どうして戦わなきゃいけないんだ。戦いは、命の取り合いだ。
どちらが早く走れるか決めよう、とか、そういう軽い話じゃないんだ。
とはいえ、話してどうにかなるのか?
……ならない。なるわけがない。フレイアと知り合ってからわずかな時間しか経っていないけど、それでも彼女が冗談を言うタイプには思えなかった。
僕は耳に手を当てて、天使の輪を取り出した。
フレイアは眉一つ動かさず、静かに肩を引いた。
「貴様は全力でかかってくるといい。私を殺しても構わん。罪に問うものはいない」
「罪にはって言われても……そんなこと、できないよ」
「それが”決闘”というものだ」
彼女は言い切って、ふうと一つ息を吐いた。
辺りに満ちる緊張感が極限まで達したときーー彼女が、銃の引き金を引いた。
「ッ! 護って!」
彼女が撃つよりも少し早く、僕は叫んだ。爆発音が辺りに残響し、次に少し遅れて、パキィン! と甲高い音と共に、目の前で光が弾けた。
「っぶな……ちょ、ちょっと、人に向けて撃ったらヤバいよ!」
フレイアは鼻で笑って、銃をくるりと回した。
それから彼女は肩を少し下げて、構えを変えた。
「”赤の弾丸”!!」
フレイアがそう叫ぶと、彼女のプラウトラが呼応し、唸りを上げるように強く光った。“ガキン”と金属が動く音と共に、義手の甲から薬莢が一つ飛び出した。
彼女はそれを逆の手で掴み取り、流れるように銃に装填、引き金を引いた。
赤い魔法陣が彼女の前に現れ、鋭い衝撃波と共に赤い弾丸が真っ直ぐに、こちらに向かってくる!
僕の前で回転する天使の輪が、それを弾こうと魔法陣を展開するが、しかしーー
「は、弾けない!?」
そうーー
弾丸は金属を削るような音を轟かせながら、一向に弾かれることなく、天使の輪が展開する魔法陣にぐりぐりと、頭をめり込ませている。このままだと、僕の身体ごと貫いてしまうかもしれない!
かと言って、力を抜いて回避行動を取ろうとしたら、僕が動くよりも早く着弾してしまうかもしれない。
だったら……!!!
「”押し返せ!”」
僕が叫ぶと、天使の輪は金色に発光し、激しい衝撃派で弾を押し返した。フレイアの方を見やると、激しい風に銀髪を靡かせながら、不敵に笑っていた。
僕の目には、魔力線が2本見えてーー!?
僕は天使の輪を半分に割って”両刃天剣”を抜いた。
直後、何かを弾いた感触が、手にじんと伝わってくる。
周到だ……そう僕は思った。
一発目は、ハナから”弾かれることを想定”していたんだ。相手の技を防いだ瞬間、僕の気が緩むと踏んで、”赤の弾丸”に紛れるように、もう一発を少し遅れて撃っていたんだ。
魔力線が見えていなければ、直撃していただろう。
直撃って……その言葉を反芻して、全身からじわりと嫌な汗が噴き出す。銃弾が直撃するって、つまり、その、”死ぬ”ってコト、だよね……?
「……やはり、解せないな」
「な、なにがぁ?」
恐怖と緊張で息も絶え絶えの僕を尻目に、彼女は義手で顎を撫でた。
「貴様ほどの力を持つものの正体が、まるでわからない。
“旋熾亭”の支局長に問い合わせても、貴様が一度もアルトラを訪れた記録は見つからなかった。
それどころか、”プラウトラの来歴が真っ白だった”と、彼女は首を傾げていたよ」
それは、そうだ……
そもそも、僕が誰なのかは、誰も証明できないだろう。たとえ天使ちゃんがここに現れて説明してくれたとしても、信じられないような話だ。
「見たことのない武器を操り、昨夜見せたあの魔力量も、常人のそれではない。
……貴様は、何者だ?」
僕が何者か。自分でも何度か心の中で問うたし、似たようなことをパイネに言われた。
僕は……そう、何者なのかはわからない。はっきりしているのは、天使と同じ容姿を持った転生者だということだけ。
だから、初めから綺麗に答えられるワケないんだ。
むしろ……そんなことを聞いてくる人が、ちょっとズルく思えるぐらいだ。
「それは、そんなに重要なこと?」
僕は自分に言い聞かせるように、しかしはっきりとフレイアに向けて言葉を発した。
フレイアは顔を上げ、不思議そうな表情をしている。
「何が言いたい」
僕は震える手で、ぎゅっと剣を強く握った。刃をかたどるように輝く白桃色の魔力の光が、わずかに強くなった。
「いや……もっと、もっとさ、重要なことがあるよね。
ねえ、フレイアさん。
僕ってかわいいかな?」
虚を突かれたのか、フレイアの顔が少し引きつった。
「見上げたイカれ具合だな。この状況下で、そんなことをのたまうのか」
「ね、どう?」
剣の輝きは強くなる。
「う、うぅむ……私には、よくわからない。
“かわいい”とか”可憐”という言葉とは無縁の道を歩んできたからな」
「その言葉はさ、確かにフレイアさんの価値観を表したものかもしれない。でもさ、僕が聞きたいことはそういうことじゃないんだよ。
フレイアさんの心は、僕をどう見ているの?」
フレイアは僕の真意が掴めないのか、困った顔をしていた。
やがて大きくため息をつくと、顔を逸らした。
「……かわいい、かもしれない」
「もう、素直に言ってよ……!」
「……かわいい」
ボソッと呟かれたそれは、ぎりぎり僕の耳に届く声量だった。
僕は胸が温かくなるのを感じた。
「ふう。よかったよ。
……僕の思い上がりじゃなくて!」
剣の輝きは更に強くなる。
「覚悟、出来たよ。フレイアさんは素直じゃないけどさ、良い人だから……だから」
言葉を切って、息をつく。
これは”決闘”。だけど、ベットするのは、”命じゃなくたっていい”。
僕は、精一杯の笑顔を彼女に向けた。
「貴女の”誇り”と、僕の”かわいい”をぶつけて、それで終わりにしようよ。フレイアさんの全力を、僕が受け止めたら僕の勝ち。受け止められなかったら、僕の負け。どうかな?」
「構わない。もとより、次で決めるつもりだ」
「うん、ありがとう」
僕は頷いて、剣を左手に持ち替え、目の前でまっすぐ構えた。そして右手で弓の弦を弾くように、ぐいっと右肩を引いた。
アニムスは、”装備者によって見た目や能力を変える、不思議な魔道具さ”というパイネの言葉を思い出す。だから、僕が強くイメージすれば、それはきっと……
分たれた天使の半円の刃は、弧を描いた。
「弓……か」
「天の眼 !」
周囲に光が満ち、僕の脳裏に”第二の視界”が開かれた。
「魔法は、イメージの力。だから、はっきりと思い浮かぶものの方が、より強くなる……はず。
……だから、ミリーのアイディアを借りるね」
僕たちは構えたまま、相手の動きを待った。
先にフレイアが、銀色の弾丸を装填し、真っ直ぐにこちらを見つめた。
「直視する銀の弾丸!!」
彼女が叫ぶと、銀色に輝く魔法陣から、銀の弾丸が飛び出した。僕の視線はそれに釘付けにされるように、”吸い込まれた”。
「”桜光・瞬き”!!」
僕は引き絞った弦を離した。空間を切り裂くように放たれた光は弾丸と正面衝突し、銀色と桜色の光が花火のように辺りに拡散した。
そしてーー
射線上に、フレイアの姿は認められなかった。
僕の目には、誰も映っていない。
だけど、もう一つの眼 にはーー
直後、”僕のすぐ近く”で、鋭い音が響いた。
本格的な戦闘描写をしたのは初めてなので、すこしぎこちないかもしれません。
戦闘描写や、展開などにご意見/感想などがございましたら、ご投稿いただけるとありがたいです。
参考にさせていただきます。




