決闘の先に待っていたのは、意外な提案……これって本当に提案ですか?
「受け止めた……!?」
フレイヤが僕の脇腹あたりで、驚嘆の声を上げた。
彼女は、肘から手先ぐらいの長さの短刀を僕に向けて振るったのだろう。”僕が逆手に持ち替えていた剣”とぶつかる瞬間、バギンと金属音が鳴り響いた。
「“弾け”!」
ギリギリと拮抗する剣に力を込めて叫ぶと、剣が一瞬輝き、放たれた魔力の圧がフレイヤごと吹き飛ばした。
彼女は空中で、まるで猫のようにひらりと回転し、三点着地した。だけど再び攻撃する様子はなく、静かに武器をしまった。
決闘が終わったことを悟り、僕は天の眼を解除した。途端に、身体から力がすうっと抜けてしまい、その場に膝をつく。
「貴様、どうやって……
”見えているはずがない”。まさか、予期していたのか?」
フレイヤの靴音が近づいてくる。僕は彼女を見上げ、力無く笑った。
「説明してもいいんだけど……
ごめん、力が抜けちゃって」
「あ、ああ……」
フレイアの肩を借りてようやく立ち上がってから、僕は彼女に何があったのか説明した。
「僕は、本当になんとなくだけど、あの弾丸が”本命じゃないな”って思ったんだ。
だって、きっとフレイヤさんはすごく強くて……
あの、悪く聞こえるかもしれないけど、褒め言葉として受け取ってね?
……一度目の攻撃で、”狡猾”な人なんだって感じてたからさ」
そろりと彼女を見やると、彼女はしかめっ面のまま、続きを促してきた。
「だから、僕の目線が弾丸に引っ張られるように、釘付けにされたとき……僕はもう一つの視点から、フレイヤさんを探した」
「もう一つの視点……」
フレイヤは僕の言葉を繰り返して、ハッとしたように顔を上げた。
「あの、天使の羽根のような魔法か……」
僕は頷いた。
「あれは、僕にもう一つの視界をくれるんだ。
なんて言うのかな……真上から見下ろしている感じの情景が、脳裏にある感じ。
それで、フレイヤさんがすごい勢いで、僕の死角に飛んできているのが見えたんだ」
「受け止められる可能性を考えていなかったわけではないが」
そこで言葉を切ると、そもそも、と彼女は首をかしげた。
「貴様の輪っかは命令通りに動くのではないのか?
だとすれば、最初と同じように”護って”と命令すれば……」
確かに、それも考えていた。天使の輪は僕の命令通りに動いてくれる。
けれど、一つわかったことがある。
僕は首を横に振ったあと、僕の周りに浮いている剣を片方掴んで、力を込めた。
「フレイヤさん、僕が背中を向けたら、僕にギリギリ当たらないように撃ってみてくれる?」
「……?」
フレイヤは解せないとでも言いたげな表情をしていたが、やがて銃を取り出し、僕に向けた。
「3.2.1……0!」
「”護って”!」
カウントダウンがゼロになるのとほぼ同時に、僕は叫んだ。
剣は一瞬唸るように輝くと、魔力を放出した……ものの、恐らく弾を止めるまでには至らなかったらしい。
僕の頬を掠めるように、弾丸が通過していった。
「うわ、こわ……
フレイヤさん、そんなギリギリに撃たなくても」
「貴様がやれと言ったんだ。
……で?」
「両刃天剣、ってこれをくれた人は言っていたけど、このモードは多分、自動で動かないんだ。
僕が危ないとき、ぐいっと腕が引っ張られるような感覚があったから、そういう風に護ってくれるとは思うんだけど……」
「両刃天剣モードは、”僕の視界に対象を捉えている”場合しか、護ってくれないんだと思う。
だから、視界外の脅威に対しては無力なんだ。
その弱点を埋めるための、天の眼なんだろうね」
「輪っかのときは、かなり自由に動いていたと思うが」
確かに天使の輪の状態時は、まるで輪っか自体に意思があるように動くし、命令すれば想像通りの動きをしてくれる。
僕はフレイヤさんと少し距離を取って、剣を両方とも手放した。
「”片方は僕からみて左、片方は正面から、こっちを向いて”」
僕が命令すると、両刃天剣は僕の腰上辺りの高さまで浮いてから、それぞれ別の角度から僕の方へ剣先を向けた。
「さっきの”銀の弾丸”は、二方向からの同時攻撃で合ってるよね?」
フレイヤは頷いた。
「仮に天使の輪が弾丸を防いだとしても、飛び込んできたフレイアさんの攻撃を防ぐことはできなかったと思う。着弾とほとんど同時のタイミング……って考えると、フレイヤさんめっちゃくちゃ早いね……
えっと。そうなると、フレイヤさんの攻撃は、僕が直接受け止めるしかないよね」
「だから、輪っかに戻さなかったのか」
「もしかしたら、天使の輪が全力で僕を護ってくれたかもしれない。
けど、もしそうじゃなかったら? 僕は死んでいたかもしれないんだ」
「このかわいい僕の身体に、傷をつけていいわけがない。それに、死ぬのも嫌だ。
……だから、より可能性の高いほうに賭けたんだ」
「かわいいがどうとか語っているときは狂ったかと思ったが、そうか……」
フレイヤはしばらく考えるそぶりをしてから、髪をかき分け、さっぱりとした表情で僕の前に立った。
「なるほど。貴様の力は、私の想像を超えていたようだ。
貴様……名は?」
「あれ、知らなかったっけ」
フレイヤは少しだけ照れ臭そうに笑って……
とは言っても表情変化に乏しい人だから、ほんとにちょっとだけ微笑したような気がする、かな? ぐらいだけど、笑っていたと思う。
「野暮なことを。貴様の口から聞かせてほしいんだ。私の全力を受け止めた者の名前を、私の記憶に刻ませてくれ」
ああ、なるほど。
マリオンと似通った、義理を重んじるタイプの人らしい。
「最上守羽、だよ」
「……では、守羽様。
今までの無礼をお許しください。それから、決闘の敗者に然るべき処遇を、お願いいたします」
そう言うとフレイヤは急に僕の前にひざまずき、頭を下げた。
「い、いやっ、いいよ。頭を上げてよ!」
「少々、よろしいかしら」
その有無を言わさぬ鋭い声色に引っ張られ、横に視線を向けると、金色の髪をなびかせながら、一人の女性が近づいてきた。
その声や仕草に覚えがある。
もしかして、この人って……
「エミセレナ・カーリオの名に免じて、そちらの”銀騎士”の処遇は保留して頂けないかしら」
「い、いや、僕はもともとそんなつもりじゃ……!」
「そうねえ……」
彼女は口角を少しあげ、まるで丁度いいからかい先を見つけたいたずらっ子のように、目を輝かせながら……
「しばらくフレイヤの身柄を預かって頂くのは、いかがかしら」
僕と、それからフレイヤと、いつの間にか僕の近くにいた姉妹は、お互いに顔を見合わせ、黙りこくってしまった。
「えっと、それってつまり……」
「ええ。フレイヤ。
その”銀騎士”の称号、預からせてもらうわよ」




