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56 心に従う



 客席の最前列で、拳を握り勇者を凝視するロジ。

「壊れるぞ。」

「!・・・わかっておるわい。」

 隣に座らせたサウスの言葉に、握った拳を開くロジ。そこには、木製の小さな杖がある。その杖は、小指ほどの長さで、もちろんそれで魔法を使うことは出来ない。平民の子供のお守りのようなものだった。


「ロジ、この魔法を解いてくれ。大丈夫だ、勇者様の邪魔はしない。」

「信じられないの。」

「ま、そうだよな・・・なら、尻のポケットの物を出してくれ。俺のはそこに入ってるんだ。」

「・・・はぁ。なぜそのようなところに・・・」 

 ロジはサウスのポケットに手を突っ込み、中に入っていたものを取り出す。それは、ロジが持つ杖と似た、剣バージョンのお守りだった。


「俺たちのために、残りの時間を使っていたなんて、ひどい話だと思わないか。そんなにしてくれた勇者様を、俺たちは守ることも一緒に戦うこともできない。」

「それが、小僧の望み。ワシらは、それを叶えるしかないのじゃ。」

「俺は、勇者様が大っ嫌いだ。」

 サウスは、魔王と対面する勇者を泣きそうな顔で見た。


「俺は、救われたくなんてない。命を救って欲しいだなんて、思っていない。ただ、一緒に戦いたかった。最後まで守りたい・・・それを、あの人は許してくれないんだ。」

「お主があやつに死んで欲しくないように、あやつもお主に死んで欲しくないのじゃ。もしくは、勇者の性質なのかもしれんな。しかし、これだけ惹かれさせておいて、最後にこんな物まで渡して。憎い奴じゃの。」


 手元のお守りを見る。それは、勇者がサウスとロジに贈ったもの。


 バイトでお金をためて、本当は立派な武器を渡したかった勇者。だが、1か月程度で、そんなお金は貯められない。代わりに買ったのは、平民が子供にお守りとして贈る、武器を模した木製のフィギュア。


「やっぱり、プレゼントは自分の金で買わないとな!今まで、ありがとう、2人とも。こんなもんしか贈れないけど、感謝してる。」


 勇者の言葉を思い出し、ロジは歯ぎしりをした。


 感謝されるようなことはしていない。何一つ、勇者に感謝されるようなことはしていない。それを理解しているからこそ、何かをしてやりたいと思った。


 でも、勇者は、2人に勇者を助けさせるようなことはさせない。一緒に戦って散ることも許さなかった。それがどれだけ残酷なことか、きっと彼はわかっていない。


 そんな彼を、2人はただじっと見守るしかできない。




綺麗な女が俺の前に立っている。流れるような青い髪、同じ色の瞳、白い肌もすべたが美しい。体型も痩せすぎず、程よい女性感を持っていて、胸も俺の好みの大きさだ。


なぜこれが魔王なのか。


魔王でなかったら、俺は口説いていたかもしれない。いや、こんなフツメンの顔でそれはできないか。何とかして今すぐイケメンに戻りたい・・・なんてな。


確かに美しいとは思うが、俺は特定の女を傍に置きたいとは思わない。女は醜くて、嫌いだ。自分勝手で、人に自分の理想を押し付ける。理想と違えば相手に唾を吐く。


俺は頭を振った。こんなことを考えている場合ではない。おそらく、現実逃避がしたかったのだろうが、そんなことをしていていつの間にか死んでいた、なんてことは絶対嫌だ。


「あなた、本当に異世界から来たの?」」

 対面してすぐに戦闘かと思いきや、魔王はこちらに話しかけてきた。俺は、震えそうな声を何とか抑えて、できる限り普通に答えた。


「あぁ。こことは・・・全く別の世界から来た。」

「ふーん。つまり、あなたはこの世界と何の関係もないのね。なら、どうしてあなたは私の前にいるのかしら?逃げればよかったじゃない?」

「・・・俺もそう思うよ。でも、逃げ切れるとは思えない。俺は。勇者は、魔王と戦うべきだ。それがこの世界の常識で、それを破る者に世界は容赦しない。」

「つまり、逃げられないと悟って、諦めてここにいるわけ?自分の生死がかかっているのよ?もっとあがきなさいよ。」

 眉をひそめる魔王の言葉は全くもってその通りだと思う。でも、俺にはそれ以外に理由があった。


「本当に今更の話なんだが。」

「何?もしかして、逃がして欲しいと私に頼むつもりかしら?」

「いいや。そんなことはしない。だって、俺は自分の意志でここにいて、自分の意志で逃げなかったんだからな。」


 俺は過去を振り返った。


 鈴木を見捨てた。鈴木のいじめを見て見ぬふりをした。


 女の理想の王子を演じた。そのために、鈴木のいじめにかかわらなかった。


 でも、俺はそれを後悔している。

 俺が助けたって、何も変わらないし悪化することは目に見えていた。だけど、俺は周りから見える俺を周りの理想と同じにさせるために、鈴木のいじめと関わらなかったんだ。俺は、そのことが許せない。


 本当の俺。俺の本心は、いじめられている鈴木といじめっ子の間に入って、いじめっ子にガツンと言ってやりたかった。

 そう、俺は周りのために、周りに合わせて自分を偽っていた。


 それは、俺がまわりに屈しているということではないか?それは面白くない。


 確かに、周りが自分の思い通りに動くのは面白かったし、楽しかった。でも、どこか虚しかった。それは、きっと俺が本当はそんなことをしたいわけではなかったから。


 なら、俺の望みはなんだ?



「勇者なんて、勝手に崇められて、魔王と戦うことを義務づけられて、最初はたまったものじゃないと思ったよ。俺は死にたいわけじゃないからな。」

「そうでしょうね。死にたい人間なんていないわ。本能がそれを拒むはずだもの。」

「だけどな、気づいたんだ。」

 魔王は俺を見て、続きを聞く。


「困っている人を助けるのは、普通じゃないかって。」


 俺の言葉に、魔王は目を丸くするが、次の瞬間に目を吊り上げた。


「ふざけているの?」

「俺は真剣だ。もう、本当に今更だし、俺にこの世界の人は救えないけどな。」

 ぐるりと、客席を見渡せば、一様に暗い表情の人々。魔王の強さを理解し、おそらく俺に何の力もないことがわかっているのだろう。


 王国も流石に俺が何の力も持たないことを発表したのかもしれない。


「・・・あなたの人助け・・・なんて言うか知っているのかしら?無駄死によ。」

「知ってる。」

 自然に笑いが込み上げてきた。本当に俺は何をやっているのだろうか。


「頭がおかしいとしか思えないわ。・・・そろそろ始めましょうか。別にあなたを殺す理由はないのだけど、これが魔王の仕事だから。」

 少しだけ苦々しそうな顔をする魔王。それは、その仕事を楽しめているとは思えない表情だった。


「お前は、なぜ魔王なんだ?」

 俺の質問に、鋭い目つきになった魔王は、吐き捨てるように言った。


「あなたたちが決めたことじゃない。・・・あら、ごめんなさい。あなたには関係ないわね。もう、これ以上の会話は不要よ。」

 魔王はこちらに手の平を向けてきた。


「恨まないでね。私は、私の願いを叶えるの。もしかしたら、あなたで最後かもしれないわね。もしそうなら、世界は平和を取り戻し、私は幸せを手にするわ。」


 その言葉の意味を問う前に、魔王は俺に向かって魔法で作り出した鋭い氷の槍を放った。




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