48 再び女神
俺は、星空の下の草原にいた。さっきも来たのだが。
「残念ですね。ま、これはこれで面白いことになるでしょうか。」
背後から、女神の呟きが聞こえた。まだいたのか。
「・・・何が起きたんだ?」
俺は、魔王がバクラドを襲うことをサウスとロジに話した。そしたら、サウスが覚悟を決めたような表情をして、その次の瞬間に俺は意識を失った。
「あなたは、殴られたのですよ、サウスという名の騎士に。何が起こったかもわからないだなんて、本当に情けないですね。」
「は?サウスが?・・・なんでだよ。俺を殴る必要なんてないはずだ。そんなことするわけねーだろ。」
「あなたに抵抗されるのが、わかっていたからですよ。」
「抵抗?まさか、俺が魔王と戦うのを嫌がると思ったのか?確かに嫌だし、できればしたくないと思っているが、俺は逃げない。その程度は、わかってくれていると思っていたんだがな。」
「違いますよ。」
女神が笑う気配がした。
「なんだよ。」
「あの2人が考えていることを、あなたの弱い頭で考えてみてはどうですか?」
「・・・考えるも何も、俺と魔王を対峙させるつもりだろう。それまでは、絶対に俺を守る。それ以外に何があるんだ?」
俺はうつむいて、事実を話す。
「俺は、あの2人にとって・・・この世界にとって、勇者でしかない。それも、これから強くなるという見込みがある勇者ではなく、ただ弱い肩書だけの勇者だ。お前が一番よく知っているはずだ。」
「あなたのことを、ですか?もちろん知っていますよ。」
女神の声は、猫がネズミをいたぶるような、残酷な色が見えるようだった。
「あなたは、この先強くなることはありません。絶対に。もちろん、人なので多少は成長するでしょうが、あなたが考えているような劇的変化はありません。」
俺の目の前に、光る何かが出現した。それは形を変え、サウスが持っているような剣の形となって、光が失せるとそこには剣が現れていた。
「あなたに、剣術の才能は有りません。たゆまぬ努力を続けたところで、衛兵になれる程度です。」
剣が地に落ちて、灰になって消えた。
次に、俺の背後から何かが俺の前に飛び出してきた。それは、一本の木の枝で、どこにでも落ちているような特徴のないものだった。
それが、形を変え、地面に突き立てれば俺の胸のあたりまである長さの杖になった。
「あなたに、魔法の才能は有りません。たゆまぬ努力を続けたところで、火花さえ散らせないでしょう。」
剣と同じように、杖が地面に落ちて灰になって消える。
次に、天から光る何かが落ちてきた。俺の胸のあたりでそれは止まり、宙に浮いている。よく見れば、それは金属のメダルにリボンが付いていて、金メダルの胸につけるバージョンのように見えた。
そのメダルは、白銀に輝き美しい。
「あなたに、加護はつきません。私の加護がある限り。」
胸が重い。俺は自分の胸を見る。そこには、黒くどす黒いメダルに、黒いリボンの付いたものがある。
正直、今すぐ外したいのだが、きっとそれはできないのだろう。
俺の目の前にある白銀のメダルは、今も宙に浮いて、今度は俺の周りをさまよい始めた。
「あら、随分と精霊に好かれていますね。その加護があれば、少しは強くなったかもしれませんね。才能がなくても、魔法を使うくらいにはなれる加護です。」
「それは、欲しいな。」
「だめですよ、あなたの体は、私の加護で定員オーバーです。」
とすん。背後で、何かが落ちた音が聞こえ、俺は振り返った。そこには、人がいた。
病的な肌の白さを、黒髪が引き立てるが、そこまで顔の容姿が整っていないので、ただ不健康に見えるだけで魅力のない男。今の俺がいた。
「鏡か。」
蔓の意匠を凝らした金の縁取りの大鏡がそこにあった。
「あなたのご自慢の容姿、今は見る影もありませんね。」
「・・・だからなんだ?」
「剣術も魔法の才能もない俺に、加護を授かれないようにし、唯一の取りえさえ奪った。そう、お前が奪った。全部わかってる。いまさら事実確認をしなくても、俺は全部わかってるよ。」
「傲慢ですね。」
「傲慢?」
「すべてわかっているなんて、人間ごときが言っていい言葉ではありませんよ。私ですらわからないというのに。」
「お前、何が言いたいんだ?」
「・・・そうですね。つまり言いたいことは、どうしようもないあなたを、救いたい者たちがいるということです。」
「・・・全く、意味が分からない。」
「意味が分からなくていいのです。あなたが困る姿も面白いですから。だから、私は意味ありげなことを呟いて、私の言葉で翻弄されるあなたを見るのが、楽しくて仕方がない。」
性格が悪いことだけは再認識できた。本当にこれが女神とは、世界は終わっている。
「話がそれました。あなたが騎士に気絶させられたのは、あなたを魔王と対峙させないためです。」
「は?」
女神の言葉に驚いて、耳を疑う。俺を魔王と対峙させようという人間が、まさか魔王と対峙させないために俺を気絶させた?なんで?
もし、俺が神話に出てくるような勇者に今後なれるとしたら、わかる。今は戦う時ではないというやつだ。でも、俺は違う。
成長する可能性がないのだ。
「なんで?」
「それは、ご自分で確かめればよろしい。いまだにわからないというのなら、確かめるしかありませんね。」




