37 ジョブチェンジ
目的の街に到着した。ここで、数日間の旅を共にした、乗客たちとはお別れだ。俺の予想通り、兄とあれから話すことはなく、特にそれから親しい人間を作らなかった俺は、退屈な日々を過ごしていたが、それも終わりだ。
到着した街は、今まで寄ったどんな村や町よりも危険な場所にある。名前はバクラド。魔物が多く住む山と森に近い場所にあって危険だが、その守りは都市並みで人々は怯えることなく生活をしている。また、魔物の住む場所が近いので、強者が腕試しや稼ぐために常駐しており、さらに安全が約束された街だ。
ルマスで勉強した知識の通り、魔物対策の立派な壁が街を囲っている。どこか、入りにくい閉鎖的な印象を外側から感じたのだが、内側に入ってしまえばなんてことはない。多くの人々が行きかい、賑わいのある街だった。
俺は、そんなバクラドの様子をゆっくり見ていたのだが、ロジに宿屋へと放り込まれてしまう。サウスと共に、宿の部屋から出るなと言われ、俺はおとなしくベットに寝転んですごした。
そんな俺を、特に何も言うことなく、サウスは自分の武器を磨いていた。腕にはまだ包帯がしてある。でも、日常生活に支障はなさそうなので、順調に回復しているのだろう。
俺は、特に何も考えることなく眠りについた。
次の日。
朝食をとって、また部屋にこもっていると、ロジがローブを深くかぶって、出かけると言った。
「いってらっしゃい。」
「お主もじゃ。」
「え?俺も?」
「そうじゃ。早くせい。」
俺は、慌てて身支度を整え、外に出た。
「どこに行くんだ?買い出しか?」
「冒険者ギルドじゃ。」
「・・・なんで?」
一瞬、なんだそれと思ったが、この世界にある便利屋のようなものだと思い出した。迷いネコの捜索から、ドラゴンの討伐まで。依頼されればなんでもやるような、幅広い仕事の職業の冒険者。ギルドは、それの総合窓口的な存在だよな。
「お主も今日から冒険者じゃ。」
「・・・はい?」
これは、ジョブチェンジというやつか?勇者からの冒険者って、ダウングレードしてるけど、いいのか!?
ロジの意図はわからないが、俺はロジと共に冒険者ギルドに来た。
俺たちは受付に行き、俺の冒険者登録をする。登録は、登録用紙に必要事項を記入するところから始まった。まずは、名前か。
「小僧。紙を貸せ。」
「ん?あぁ。」
俺は、ロジに紙を渡す。字はなぜか読めるが、書ける気まではしなかったので、ありがたい。
「おい。」
俺は、必要事項を書いているロジの横で、その様子を見ていたが、早速待ったをかけた。
「なんだよ、その名前。サロウージ・・・って、ダサすぎだろ。」
「気にするな。よし、これでよいな。」
ロジに紙を渡されたので、俺はそれを受付の女にそのまま渡した。
「では、ギルド証を発行いたします。少々お待ちください。その間に、こちらの注意事項によく目を通してください。」
受付の女は、応募用紙を持って、奥へと消えて行った。
「注意事項って、先に見せないか、普通。」
俺が呆れていると、ロジが横腹をつついた。
「なんだよ。」
「ワシは少し離れる。女の姿をして戻ってくるから、待っておれ。初対面のふりをして、パーティーに誘うから、受けるのじゃぞ。」
「は?女の姿?まて、お前に女装は似合わないぞ!鏡を見て絶望するだけだ、早まるな!」
「黙れ!ワシにそのような趣味はないわい!誰のためだと思っておるのじゃ・・・っと、受付の嬢ちゃんが戻ってきてしまうな。いいか、待っておれよ。」
「ちょ、待てよっ!」
俺の静止を聞かず、ロジはギルドの外へと出て行ってしまった。
「意味が分からない。」
「ご不明な点でも?」
俺の呟きを、戻ってきた受付の女が拾った。
「いえ。」
「そうですか。では、こちらがギルド証になります。くれぐれも紛失なさらないように。再発行には手数料がかかりますのでご注意ください。また、そのギルド証を第三者に悪用された場合、罰金が発生します。くれぐれも落としたり、盗まれたりしないよう・・・」
長い。話が長い。そんなことわかっている。
俺は、受付の女の話を聞き流して、ロジのことを考えた。
女装してくるらしいが・・・俺、それを見て気分悪くなったりしたらどうしよう。
受付の女が長い話を終えて、俺は晴れて自由の身となった。それを待っていたかのように、ローブを着た髪の長い女が近づいてきた。
俺は、その女を見て目をみはった。ロジなのか?いや、このタイミングで来るのはロジしかいないだろう。
そこには、俺の大好きな出るところは出ていて、引っ込んでいるところは引っ込んでいる、まさに理想の体型の女がいた。
赤を基調とした情熱的な装いに、ウェーブした茶色の髪。赤い瞳はどこか妖艶な輝きを宿し、引き込まれそうだった。嘘だろ!?
騙されるな!
これは、幻覚だ。きっとロジの魔法で幻覚を見せられている!
本当は、枯れ枝みたいな老人だ。あの口うるさいロジだ。速まるな俺の心臓!




