38 間違いは誰にでもある
「はじめまして、私は魔術師のジュリアよ。あなたは?」
どう聞いても女の声だ。そして、どう見ても女。ロジとわかっていても、疑いたくなるほど完璧な女装だ。ま、幻覚だろうが。こんなこともできるなんて、魔法とはすごいものだ。俺も一つくらい使えればよかったのに。
「聞いているのかしら?」
「あぁ、ごめん。僕は、ろ・・・サロウージ?そう、サロウージだ。」
ロウと名乗ろうとしたが、先ほどダサい名前を付けられてことを思い出して、言い直す。それにしても、よく言えたな俺。長い名前は覚えるのが苦手だったはずだが。成長したな。
「サロウージね。サロって呼んでもいいかしら?」
「いいですよ。」
「ありがとう、サロ。見たところ、剣士のようね。ちょうど前衛が欲しかったのよ。私と組まない?」
「はい。喜んで。」
前衛とかよくわからないが、とりあえず頷いておけばいいだろう。俺は、そんな軽い考えで、この女と組むことになった。
さっそく、手ごろな依頼を見つけたからとジュリアが言ったので、俺たちは森に向かうことになった。
バクラドを出て、森へと徒歩で向かう中、人通りが無くなったのを見て、俺は説明を求めた。
「で、ロジ。その魔法なんだよ。お前が本当に女に見えるんだが、そう見えるだけだよな?本当に女になったわけではないよな?」
「急にどうしたの?ロジって、呼び方はちょっと嫌だわ。もっと可愛い呼び方はないのかしら?」
「・・・え?」
これは、演技なのか?いや、そんな女のふりをする必要はないはずだ。周りには誰もいないので、俺と2人きり。とぼける必要はないのだ。
つまり、それでも話がかみ合わないとなると、人違いか?
「ご、ごめん。人違いだった・・・んだけど。その、それで、別の人と間違えてて。いや、あそこで待つように言われてたんだよ。あーとにかく、ごめん。やっぱり組めないよ。」
うまく話がまとまらなかったので、俺は組めないことだけはしっかりと伝えた。全く、どうなっているんだ。この女がロジじゃないなら、ロジはどこに行ったんだ。
「そう。私と誰かを間違えたの・・・だったら、その人も入れて3人で組みましょう。とりあえず、今日のところは2人で行きましょうか。」
「え、いや。悪いけど、連れが困っていると思うから、俺はギルドに戻るよ。」
「戻れるのかしら?」
俺が道を引き返そうとすると、それをジュリアが止める。意味が分からず立ち止まって、ジュリアを見ると、意地が悪そうに笑っていた。
「もしも。仮定の話よ。あなたが街に帰って、私が戻らなかったら、みんなどう思うかしら?別の町に行った?誰にも挨拶をせずに?そう、不自然なのよ。」
「・・・確かに。でも、帰らない理由はないだろ?」
「あるわ。例えば、こうやって脅すためとか。」
「やっぱりないじゃん。どうせ口だけでしょ?なんで今から2人で行きたいのか知らないけど、そんな嘘じゃ行かないよ。」
俺は、鼻で笑って道を引き返すが、すぐにジュリアに止められた。
「なら、無理にでも連れて行くわ。」
そう、ジュリアの声が聞こえたかと思うと、俺は背後から誰かに抱きしめられた。それから、ものすごい勢いで引っ張られて、気づけば俺の足は地面についていなかった。
「は?な、なに?」
「飛んでいくわ。落とされたくなかったら、大人しくしていなさい。」
俺の腹を抱えたジュリア。背中に柔らかい塊が2つあたっている。手は、細く、どうやって俺を持っているのかと不思議に思った。きっとこれも魔法なんだろう。便利だな。
「感心してる場合じゃない!やめろっ!おろせ!あとで俺が怒られるんだよ!今すぐギルドに引き返させてくれ。」
「だめよ。任務があるんだから。それに、自分の言葉には責任を持ちなさい。さぁ、出発よ!」
「どこに行く気だよ!」
「あら、見てなかったの?ドラゴン退治よ。ドラゴンって、体大きいし、いい的よね。」
「は?ど、ドラゴン!?ま、待てよ!俺は、今日初めて冒険者になったんだぞ!?いきなりドラゴンって、俺を殺す気か!計画殺人か!」
「あらあら。そんなに喜ばなくたっていいのよ。本当、男の人って好きよね、ドラゴン。」
「喜んでねーよ!」
俺のささやかな抵抗、口のみでの抵抗だが、何の意味もなく、俺は哀れにもドラゴンの巣穴へと連れていかれた。




