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28 俺が怖いのは?



 最近、夢見が悪い。前世の夢を見るのは、懐かしいからだろうが、どうせ見るならもっといい夢が見たい。


 唯一前世と関係ない夢も、「不幸の知らせ」とか言って、女神に不吉なことを言われる始末。全くどうかしている。


 夢は夢。気にする必要はない、と言い聞かせる。



 馬車の中から見る、外の景色。まどろみながらそれを眺める。


 何も起きない。平和だ。退屈な道のりは、城にいた頃の俺の想像にはなかった。これからの旅は、危険ばかりの厳しい旅で、最後に死があるのみと思っていた。


 このまま平和で退屈な旅で終わるのか?本当は、魔王なんて何かの勘違いで、俺は何事もなく城に戻れるのではないか。そう淡い期待をした。


 それほどまでに、これまでの旅は平和だったのだ。




「ねぇねー・・・結婚しようよ!」

 いつものあれが始まった。妹からのプロポーズ。


「いや、それは・・・」

 俺は、戸惑ったような様子で、辺りを見回すが、いつも止めてくれる兄がいなかった。

 そういえば、サウスとロジもいない。


 今は休憩時間で、同乗者は外に出てそれぞれ過ごしている。2人は狩りに行ったのだろう。俺は、今日はゆっくり休みたくて断った。というより、この妹と話をしたかったのだ。


「お兄さんは、どうしたの?」

「お花摘み。」

「そう。」

 なら、今しか2人で話す機会はないだろう。俺は、ずっと疑問に思っていたことを聞いた。


「なんで、僕と結婚したいの?」

「え?だから、玉の輿になって、不自由のない生活をしたいの!」

 いつもと同じ調子で言う妹。しかし、彼女が不自由をしているようには見えなかった。肌や髪もつやがいいし、痩せてはいるが、やせこけてはいない。服も一般的な平民の恰好で、貧乏という感じはしない。


「今、不自由をしているの?」

 俺の言葉に目を開いて驚いた妹は、ちょっと嬉しそうに笑った。


「お貴族様から見たら不自由じゃない?ま、ロウさんの言うとおりだよ。私は不自由なんて感じていないの。全部、お兄ちゃんのおかげ。」

 妹は少しうつむいた後、俺の方を見て笑った。


「お兄ちゃんはね、私の母で父で兄なの。でも、お兄ちゃんの母も父もいない。いるのは、守らなきゃいけない妹の私だけ。それも、全部私のせいなの。」

「それは・・・聞いてもいいこと?」

「いいよ、結婚してくれるなら。」

「それは、ちょっと。」

「冗談だって・・・でも、本気でもいいんだよ?」

 いたずらっ子のように、無邪気に笑う妹。おそらく、こういう話は兄に聞かせたくないのだろう。辺りをうかがった後、妹は続けた。


「私ね、売られるとこだったの。小さかったからよくわからなかったし、お兄ちゃんも何も言わなかったから・・・ま、でもなんとなくわかったの。私は売られるところだったって。」


「お兄ちゃんは、私を連れだした。家にあるお金を持ち出して、私と2人で家を出たの。それは、とっても大変なことだし、今までよく生きてこられたと思うの。」

「それは、そうだね。正直、信じられないよ。」

「だよね。ま、幸運が重なったんじゃないかな?あとは、お兄ちゃんが必死に守ってくれたからだと思うの。」


「私がね、ロウさんと結婚したいのは、もちろんロウさんが素敵だと思ったからだよ?優しいし、偉ぶったところもない・・・あと、なんか、守りたくなるところとか。」

「え?僕を守りたくなる?」

「うん。私は、腕力もないし、守るっておかしいかもしれないけど・・・そばにいてあげたいと思うの。なんてね。それで、お金持ちのロウさんのところへ私が嫁げば、お兄ちゃんを自由にしてあげられるし、コネで仕事も用意してくれると嬉しいなーなんて。」

「それは、できないかな。」

「残念~でも、諦めないから!」


 期待されても、俺は妹の望む金持ちではない。ただ、ロジからもらった金があるというだけだ。もちろん、仕事の斡旋なんてできない。


 それに、俺は・・・


「ロウさんは、何を諦めているの?何に怯えているの?」

「え?」

 今度はこちらの番とでも言うように、妹は質問してくる。


「諦めてる?・・・それに、怯えているか。わかるの?」

「うん。」


 最後が死ぬ運命だと、俺は諦めている。しかし、それでも死が怖くて、怯えている。情けないよな。


「僕は、死ぬのが怖いんだ。」

 言うつもりはなかったのに、いつの間にか話していた。


 情けないことを言ってしまって、俺は立ち上がりトイレに行く旨を伝えた。


「ロウさん。」

 呼び止められ、俺は一応止まった。


「そんなの当たり前だよ。死ぬのが怖くない人なんていないよ。でもね、私は思うんだけど。」

 言いづらそうに言葉を詰まらせた妹。しかし、一度言うと決めたことは、彼女ははっきり言うタイプだった。


「ロウさんが怖いのは・・・」

「どうしたんだ?」

 緊張感のない声が俺たちに掛けられた。


「お兄ちゃん。」

「お前は、またロウさんを困らせていたのか・・・すいません。」

「いえ。僕、ちょっとトイレに行ってきますね。」

「そうですか。お気をつけて。」


 俺はその場をゆっくりと去った。


 だが、頭の中はぐちゃぐちゃだ。


 妹は何を言おうとした?


 俺が怖いのは、死ではないのか?



 その答えは、俺の心の奥底にある気がした。




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