27 王子となった俺は
物心ついた時から、周りに人がいた。人の中心に俺はいた。
それは、俺がかっこいいから。それだけだった。
ある日、女子たちが俺のことを話していて、俺を観賞用と言っていた。
そう言った女は、学年一可愛いと言われた女で、きっと俺の初恋だった。その女に、観賞用と言われた俺は、傷ついた。
「そう。だから、観賞用なの。だって、あれが夫とか、恥ずかしいでしょ?」
初恋の女、美少女の言葉が俺の頭の中で繰り返された。
俺は、恥ずかしいのか?
頭が悪いことは、恥ずかしい?
子供っぽいところは、恥ずかしい?
でも、何が恥ずかしいんだ。わからない。
でも、恥ずかしいのは嫌だ。
俺は、恥ずかしくない人間になろうと思い、それを行動に移した。
「鈴木、ちょっといいか?」
「え?な、なにか用、梅君。」
「あの、そのな。」
俺は、普段めったに話さない鈴木の席に行き、頼みごとをした。まず、これが第一歩になるはずだ。
「勉強を教えてくれないか?」
「え?」
「いや、お前頭いいだろ?俺、お前みたいになりたいんだ。」
「僕みたいに?梅君が?」
「あぁ。お前みたいに、頭がよくなりたいんだ!頼む、俺に勉強を教えてくれ!」
両手を合わせ顔の前にやって頼む俺を、驚いた様子で見ていた鈴木だったが、不意に嬉しそうに笑って、いいよと言ってくれた。
それが、鈴木と友達になったきっかけで、俺がさらにイケメンとなる第一歩となる出来事だった。
俺は徐々に変わっていった。表面的には、だが。
まず、美少女たちが言っていた、給食のデザートじゃんけんに参加しなくなった。他にも、牛乳一気飲み対決や納豆のからしをどれだけ入れても平気か、という我慢比べにも参加しなくなった。
レディーファーストもいつも頭に置いて実行したし、大声を出さなくなった。いつもスマートを意識した。
そして、月日は流れ中学生になった。「王子」なる呼び名を付けられ、俺と美少女はお似合いという空気が生まれた。
微笑みかければ、赤くなって目をそらされて。
声をかければ、息が苦くなるほど緊張する女ども。触れたら心臓が止まってしまうかもしれないな。
お高く留まっていた美少女も、そんな女の一人だと知ったのは、俺が彼女を呼び出したときだった。
「よ、用って何?梅君・・・」
緊張しているのか、声は震えて、顔は赤かった。
おそらく、小学生の時の俺だったら、この様子を見て可愛いと感じたのかもしれない。しかし、今は何も感じなかった。
これから告白でもされると思っているのか、俺を見る美少女の目は期待に満ち溢れている。馬鹿な女だ。
「あのさ、みんなが僕と君のことをお似合いって言ってるんだけど、知ってる?」
その言葉に、さらに顔を赤くした美少女は頷いた。
「ご、ごめんね。私なんかがお似合いなんて・・・迷惑・・・だよね。」
そんなことみじんも思っていないだろうに、美少女は謙虚さでも見せようとしたのか、そんなことを言った。鼻で笑ってしまう。
美少女を呼び出したのは、屋上前の階段。屋上は封鎖されているので、ここは人気がない。見ている者もいないので、鼻で笑ってやっても、いいのかもしれない。いや、ここまで王子として頑張ってきたんだ。誰かが見ているかもしれないということを頭に置いて、俺は笑いを咳で誤魔化した。
「そんなことないよ。でもさ、僕たち付き合っているわけでもないのに、こんな空気ではだめだと思うんだ。」
「え?」
「だって、お互いなんとも思っていないのに、周りが勝手に騒いでいるなんて、おかしいでしょ?」
なんとも思っていない、を強調して言うと、ショックを受けた美少女は、赤かった顔を青くさせた。
告白されると思っていてからの、相手は何とも思っていないという事実を突きつけられる。ものすごく傷ついた美少女の顔に、俺は満足する。
観賞用の男が、高スペックになってさぞ喜んだだろう?
自分の容姿が、優れていることで、さぞ天狗になっていたことだろう。
俺と付き合って、結婚して、幸せな未来を描いたんだろ?馬鹿女だ。
俺は、お前のために努力したんじゃない。傷ついた俺は、お前を傷つけたかったんだよ。俺のために、お前に傷ついて欲しかったんだ。
ありがとう。今、最高の気分だよ。




