File009 大人の障害物走
「次は障害物訓練だ。 知っての通り、この山は軍所有なんでな。訓練用に新設して貰った。」
ここまでの訓練で、全身あらゆる部分が疲労している隊員達は、ヴィンスのこの言葉に冷や汗を滲ませた。
(大尉が作らせた??絶対ヤバい奴だろ…)
隊員達の、この予想は想像を遥かに超えていた。
「ここから2kmくらいの所に作ってあるから、今からそこへ移動するぞ。各自荷物を担げ」
(嘘だろ…25kg担ぐだけでもキツいぞ)
しかし彼らは、文句1つ言わずに黙って準備をした。
これは、ヴィンスが怖いから言えないのではない。
彼らの意地とプライド。負けず嫌いが自らにムチを打った。
「よーし。行くぞー。疲れてるだろうからな。歩いて行くぞー。」
隊員達の肉体疲労が、ピークなのは間違いなかった。
しかし、力強くヴィンスの歩みに着いていく。
しばらく歩いていると、それらしき木造物が見えてきた。
「お、あれだ。全員一旦停止しろ。あそこの障害物まで。んーー30mくらいか?あそこまでほふく前進で行くぞ。全員、身を下げるんだ 」
ここへ来て、レオンが初めてヴィンスの進行を妨げる発言をした。
「す、すみません!ヴァンダイン大尉」
ヴィンスは、意外そうな顔で振り返り応えた。
「ん?どうしたレオン。ツラいのか?」
いや、あの……
「ほふく前進って、なんでしたっけ??」
あっ……。
そこに居た者全てが、ズッコケそうになったが、それ以上に改めて驚愕した。
ここまで、凄い新人だなコイツ。として扱って来たがフィジカルテストの成績を聞いたヴィンスに呼び出された、ただの素人で「コレ」なのだ。
「あーすまんすまん。お前は知らんよな。こうだ。細かい事はまた教える見よう見まねで良いから、あそこまで行くんだ」
ヴィンスは、そう言って先頭をきると隊員達は、後ろから着いて行く。
25kgを背中に乗せての、ほふく前進は体力だけではなく、身体や腕が石を踏んでしまった時の痛みとの戦いでもある。
その様子をしばらく見ていたレオンが、スっと身を下げた。
こうかな?……
ズンズンズンズン…。
「あだっ これイテーな。あだ」
ズンズンズンズン…
あっという間に隊員達に追い付き、到着する頃には前の方になっていた。
「よーし、全員集まったな。コースの説明をするぞ」
① 60°の傾斜登り。ロープ有り
②100mダッシュ(流した走りをしたら失格)
③60kgのウエイトを20m右から左へ移動。次の者は左から右
④ 10mの川、徒歩渡り。腰高くらいの深さの所を流れに耐えながら反対岸へ行く。
帰りは橋の利用可
⑤ 木製の雲梯20m。落ちたら失格。
「ここまでをワンセットとして、10本でクリアだ。これは生き残り戦だ。失敗者は脱落とするぞ。質問はあるか?」
「川渡りは?危なくない?そこで力尽きたらヤバいよね?」
ルーシーがまともな質問を投げかけた。
「あぁそれは大丈夫だ、あらかじめロープを張ってある。それは掴まって良いぞ。最悪俺が救助する」
こうして、10セット障害物走が始まった。
最初の傾斜登りは、3人ずつ登れる様になっている。
隊員達にとっては、こんなものは大した難易度ではないが手足にダメージがある為に、最初から苦しんだ。
「うぐっ 引く力が入らん……」
ズルッ
バーンッ
ロープにぶら下がっているだけの状態になってしまう隊員続出。
こうなったら、もう復活出来ない。いきなりの脱落者が出始めた。
……そんな中
「おらららららぁー!」
レオンは、元気に簡単に登り切った。
「…よっと」
ルーシーも身軽にヒョイっとクリア。
次の100mダッシュ。
傾斜登りで手こずった者の走りは、とてもダッシュとは言えず、ここでも脱落。
「はぁはぁはぁはぁ」
続いて待っていたのは60kgの土嚢。これを持ち上げられない隊員なんていないはずが、持ち上げても脚に力が入らずに立てない。
そもそも抱える腕力が残っていない。
次々に脱落。
「オラっ!」
タタタタタ
レオンは、気合い1発持ち上げるとクリア。
なんとルーシーも持ち上げたが、流石に苦しむ。
「……ぐっ、うっ… しゃー!」
しかしクリア!
続いての川渡り、ここはロープもある為楽ではないが脱落者は出なかった。
そして、その後の雲梯
これが疲れた身体には曲者だった。それに加えて先程の川で水を吸った衣服。濡れた手。これが障壁となり更に難易度を増す。
……そして。
1回目のクリア者、なんと9名。
「あ、やっべ。ちょっとやりすぎたか。思った以上に脱落させちまった」
ヴィンスは、自分の基準で、これくらいがキツいと言う想定より若干下げたつもりだったが隊員達の疲労は想像を絶していた。




