File008 肉体の限界
ヴィンスと隊員達はスタート地点に戻ってきた。
「まず皆、水を飲んで塩も摂っておけ。次のメニューは制止訓練だ。3人1組で組んで、2対1で綱引きだ。1人の方は引っ張られるのを我慢するだけだ。簡単だろ?」
ヴィンスは、近くにいる隊員を2人指差した。
「お前とお前、こっちへ来い。俺と綱引きだ」
ロープの片側をヴィンス、反対側を隊員2人がかりで引き合う形にスタンバイした。
「よし、はじめ!」
グンッ!
ビターーー……
「良いか? 体勢を下げて、脚を地面に噛ますイメージだ。それから、なるべく腕は曲げておくんだ。ついでに腕力もつく」
2人がかりの力を受け止めながら説明するヴィンス。
「ぬぁぁぁーーーー!」
「っとっとと……」
ズサーーー。
流石に2人の特殊部隊、ヴィンスを引ききって転倒した。
(はぁはぁ、なんて重いんだ。体重だけじゃない。硬さがある)
あまりのヴィンスの強さに、2人は驚いた。
「わたしはー? 同じで良いの?」
あまりにも体重が軽いルーシーが問いかけた。
「あぁ、ルーシーも同じで良い。引く時も止める時も、身体の使い方次第で硬くも強くもなる」
隊員達は10組に分かれて、綱引きが始まった。
この訓練は、想像以上に過酷だった。1人になった者は全力を強いられるため、筋疲労以外にも心肺に負担がかかる。
順番に1人の番がまわってくるため、どんどん削られていった。
……1組を除いて。
レオンは、1人で2人の綱引きを10分以上耐えていた。
「ぬぁぁぁ……負けるかぁ……はぁはぁ」
相手をしている2人も、全力で引き続けている。
「こいつっ……どうなってやがる!」
この3人だけは、強制的に全力を出し続けていた。
「あははは、すげーなお前! 負けるな負けるな!」
更に煽り倒して、続けさせるヴィンス。
「あ、ルーシーのとこ。1対1になれ。ルーシーは1人の引きを耐えるんだ」
とは言え、ルーシーは45kg。30kg程のウエイト差がある。
ルーシーは、言われるがままロープを身体に巻き付けて身構えた。
「よし!! 来い!!」
グンッ!
ビターーー。
ルーシーは体重差をものともせずに、受け止めた。
「ぐぐぐぐっ」
30秒程耐えたが、流石に引いている方の隊員にも意地がある。
力を出し切って、ついに引ききった。
ズサーーー。
「はぁはぁ、くそぉーー。弱いな私は」
本気で悔しがる姿に、他の隊員達は、
(充分すげーだろ……)
と心の中で思った。
しかし、レオン達はまだ続けている。
「ぬおぉぉぉ……オラーー!!」
ズサーーーー!
制止するはずが、レオンが引ききってしまった。
……え?
ヴィンスは近付いて行き、制止した。
「そこまで! なんか俺の意図と少しズレたが、充分だ。力は使い切ったな?」
「はぁはぁ……はい。こんなに全身使ったの、初めてです」
既に3人は、身体がバキバキで、呼吸も乱れていた。
「このまま、次の訓練に入るぞ。全員この麻袋に土をパンパンに詰めろ」
ヴィンスは、1人二枚ずつ麻袋を配り自身も土を詰め始めた。
「これに満杯に土を入れるとおよそ10kgになるんだ。俺のこの持ち方を真似しろ」
ヴィンスは、片手に1つずつ麻袋を握ると腕を下ろしたまま持ち上げた。
たかが10kg。
彼らのフィジカルからすれば大した重さではない。
しかし蓄積している疲労と持ちづらさが、重くのしかかる。
「どうだ?辛いだろ?とりあえず向こうの岩まで行ったら置いて良いぞ。辛かったら走ってもいい」
レオン(しょ、正気か!?手は離しちまいそうだし、肩がもういてぇ)
「走るか」
ダダッ
「うぐゎ!いてぇ!」
ヴィンスは、軽く笑いながら言った。
「当たり前だ。お前の身体は相当疲れてる。いつも通り動くと思うなよー」
隊員達は、苦悶の表情で懸命に運び始める。30m程だが果てしなく遠く感じる。
ーーー数分後。
全員が到着した。
「これで、全員だなー!30秒後に戻るぞ、なるべく休んでおけ」
30秒くらいで回復するわけがない。
「はぁはぁ」と隊員達の乱れた息だけが聞こえる。
「よし!戻るぞ!持ち上げろ!……はじめ!」
今度はヴィンスは、麻袋を持ち上げたまま、その場で立ち止まった。
「ぐっうっ……ぐ」
ドサッ
脱落者が出始めた。
ヴィンス「まだだ!!何回落としても構わん!!やり切れ!」
1度完全に負荷を無くしてしまうと、逆に力が入らない。
脱落者が出始める事をヴィンスはわかっていた。
「うらららぁーーーー!」
そんな中、レオンはクリア。
「あぁ、クソ重い!!」
ルーシーもクリア。
1度も落とさずにクリアしたのは、2人を含めいきなり半分になっていた。
「今落としたヤツは、持ち方を変えろとにかく完走するんだ。 次!行くぞ!」
ヴィンスは休ませる事なく、3本目を開始。
気付くと先頭がレオンになっていた。
「ぐわーー死ぬーーいてぇ」
その後ろをルーシーが懸命に追い掛ける。
「うぐっ、ダ、ダメだ……」
次々と脱落していく隊員達。
朝から続く訓練で、足腰が限界だった。肩や前腕は悲鳴を上げ握力など残っていなかった。
「おっし」
ドサッ
レオン完走。
「いたたたたーーい!」
ドサッ
ルーシー完走。
三本目の今回で、元の持ち方を維持してるのは、数名まで減っていた。
……そして。
「わーーー、もうダメだぁ」
ルーシーが5本目で脱落。
レオン以外が全て脱落して、袋を抱き抱えながらも懸命に脚は止めなかった。
「うおぉぉぉらぁーー! よしっ」なんとレオンは、10本目を完走した。
「よし、良いだろう。全員ゴールしたら昼飯にしよう。レオン、大したもんだな。よく頑張った」
ヴィンスが、そう告げると気が抜けたレオンは崩れる様に座りんだ。
「いえ、ありがとうございます!気合いです。はぁはぁ」
皆、自分に必死で気づかなかったがヴィンスは、この間一度も袋を置かなかった。




