File011 ヴィクターの苦手な
レックス・ヴィクター少佐。
敵国の助っ人軍人で、World's End Line探索にも参加した男だ。
頭脳明晰、高学歴でエリート街道を歩み昇進してきた。
特技は計算、論理、記憶、記録。どちらかと言うと理数系を得意としている。
メガネがトレードマークで、南半球に住む、半竜人をドラゴノイドと名付けて、結果的ではあるが後世にその呼び名を浸透させた功績を持つ。
そんな彼にも苦手なものがある……
苦手なもの。 者。
同僚のアルベルト・ハインリヒ少佐が苦手だ。
今回は、そんなエピソードをお話しする。
……とある、戦地の作戦会議で。
ヴィクターは、会議の司会進行を務めていた。
「私の計算では、ここから10km地点に5名。そこから2km置きに5名ずつ。各装備は持ち運び式マシンガンと手持ちのリボルバーを1人一丁。 それを30分置きにですねA地点からB、C、Dの順番で…… 」
「あーー、ちょっと待て待てヴィクター。 みんな良いか?通常装備の他にマシンガンを持て。 後は各自の判断基準に任せる。不安があるやつは俺に聞け。以上」
「Yes sir!」
ヴィクターが昨日から、ノートいっぱいに書き出して綿密に計算してきた作戦をアルベルトが中断させて、その場の兵もそれに従う。
(うぐぐ、そんな乱雑な作戦で上手くいく物か…後悔するなよ)
しかし、現場経験の多いアルベルトが出した指示は簡潔で無駄がない。 それで上手くいってしまう。
そんな事が今までに何度もあった。
___大きなミッションが終わり、長めの休暇とボーナスが出た事があった。
ヴィクターは、スーツを新調して街へ出た。
「ふふふ。奮発してしまった。これでBARに行ったらモテてしまうな。 困るな」
ギィィーーー…
「いらっしゃい。1人かい?」
BARのマスターの問いかけに、ヴィクターは応える。
「あぁ、1人だ。ビールをくれ。」
(ふふふふ。これはかっこいいぞ。困ったな)
「あ、ヴィクターじゃねーか!お前も来てたのか」
聞き覚えある、苦手な声がする。
メガネを整えて、恐る恐る見てみると……
うんまぁ、そうよね。アルベルトがいた。
「あ、あぁアルベルト偶然だな」
(なんだ?コイツの服装はティシャツにボロボロのデニム。ヒゲも剃ってない。汚らしい)
「なんだヴィクター?そのスーツ買ったのか?めちゃくちゃ似合ってるなー。」(本音)
ヴィクターは、ビールを一気に飲み干して答えた。
「ま、まぁね。たまにはお洒落をしないとな」
(むぅ……コイツ心にも無いことを)
「あのぅすみませんお兄さん、お1人ですかぁ?」
若い女性の声がしたために、ヴィクターが平静を装って振り向いたら、自分ではなくアルベルトに声を掛けていた。
「え?あぁ、悪いな。あそこの奴と同僚なんだ。他を当たってくれ」
ヴィクターは、額にシワが寄るほど目を大きく開けて驚いた。
(しかも、なんの躊躇もなく断ってやがる。なんて鼻につくやつだ……)
しかしだ。
1913年。少しだけ未来の話。
ヴィクターの結婚式。
軍の階級の関係で、アルベルトが挨拶をする事になった。
「よりによって、何故アイツが……」
ヴィクターの奥さんとなる女性はマリアと言う名の温厚なお嬢様だ。
マリア「良いじゃないのー?アルベルトさん良い人でしょう?」
「アイツが?良い人?今までに何度煮え湯を飲まされてきたか…ぐぬぬ」
マリアは気にした様子もなくニコニコと聞いていた。
そして、式が始まりアルベルトの挨拶の時が来た。
「新郎の同僚で、アルベルト・ハインリヒ少佐から挨拶があります。ハインリヒ少佐前へお願いします」
アルベルトは、珍しく緊張した面持ちで前へ出た。
「えーー。ご紹介に預かりました。アルベルト・ハインリヒです。階級は少佐です。ヴィクター、マリアさん。今日は本当におめでとう。」
ヴィクターは、内心まだご機嫌ナナメだった。
(ふん。心にも無いことを)
「かしこまった話かたが苦手なので、ヴィクターに話す様に話させてもらいます。 ヴィクターと初めて会ったのは15〜6年程前で、彼か軍に入って来た時の事だった。 勉強だけしてきた小僧が何しに来たと思ったよ。」
(あぁ、それだずっと見下されてる感じがするんだ)
「しかしヴィクターは、実に勉強熱心で頭も良い。俺が出来ない事をたくさん出来る。あっという間に非常に頼りになる奴に成長してくれた。 俺が現場で、無茶出来るのもヴィクターのおかげと言っても過言では無い。 俺より少し歳下だけど、俺はコイツを尊敬している。 マリアさん、良い奴を捕まえたね。おめでとう。」
マリアは、にこやかに大きく頷いた。
「簡単では、ありますが、以上で挨拶とさせていただきます」
アルベルトは、会場に一礼した。
「おまっ…ある、アルベルト何を……」
マリアが、ヴィクターの顔を見ると涙と鼻水でぐっちゃぐちゃに泣くヴィクターの顔。
ぶっきらぼうな男から出た初めて聞く本音。知らなかった評価。
嬉しいと言う言葉で括って良いかは、わからないが感情が溢れ出たのだ。
その顔を、少しもらい泣きをしながらも笑顔でハンカチで拭くマリア。 会場は拍手に包まれた。
……が、この2人がプライベートで遊ぶ様になるのは、退役後。元気な爺同士になってからである。




