銀河やきにくの夜
細野晴臣のテーマ音楽から始めていただけるとありがたいです。
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しいな ここみ様 『焼肉短編料理企画』参加作品
「ジョバンニ、もう焼けているよ」
カンパネルラが、箸の先で小さな肉をつまみあげた。肉は網の上で、まるで赤い星のかけらみたいに、じゅうじゅうと音を立てていた。
「うん。でも、もう少しだけ待つんだ」
ジョバンニは煙の向こうを見ていた。煙は天井へ昇って、それからどこまでも遠い夜の方へ流れていくようだった。
「焦げてしまうよ」
「焦げたっていいんだ。ぼくは、よく焼けたほうが好きなんだ」
カンパネルラは少し笑った。
「ジョバンニは、いつもそうだね」
「そうかな」
「うん。なんでも、少し待ちすぎる」
網の上で脂が落ちた。ぱっと青い火が立って、二人の顔を一瞬だけ明るくした。
「カンパネルラ」
「なに」
「ぼくら、どこまで行くんだろう」
カンパネルラは答えなかった。ただ、肉を一枚、ジョバンニの皿に置いた。
「まず食べなよ。冷めるから」
ジョバンニはその肉を見た。たれが皿の上に丸く広がって、小さな銀河のように光っていた。
「カンパネルラも食べなよ」
「うん」
けれど、カンパネルラは箸を持ったまま、網の向こうの暗い窓を見ていた。
「ジョバンニ」
「なに」
「ほんとうのやきにくって、なんだと思う」
ジョバンニは困って、肉を口に入れた。熱くて、少し甘くて、少し苦かった。
「みんなで食べることかな」
「みんなって、誰」
「父さんとか、母さんとか、ザネリとか、きみとか」
カンパネルラは、また少し笑った。
「じゃあ、ひとりで食べるやきにくは、ほんとうじゃないの」
ジョバンニは黙った。網の上には、もう一枚だけ肉が残っていた。それはなかなか焼けず、赤いまま、夜の底に沈んでいるようだった。
「わからないよ」
「ぼくも、わからない」
カンパネルラはそう言って、その最後の肉を裏返した。
そのとき、煙がふいに濃くなった。店の灯りも、七輪の火も、遠くの星のようににじんだ。
「でもね、ジョバンニ」
「うん」
「だれかのために、いちばんいいところで肉を返してあげることは、たぶん、ほんとうに近いと思う」
ジョバンニは顔を上げた。
「じゃあ、ぼく、きみのぶんを焼くよ」
「ありがとう」
「ずっと焼くよ。どこまでも」
カンパネルラは、今度は笑わなかった。ただ静かに、ジョバンニの皿へ、焼けた肉をのせた。
「ジョバンニ、それはもう、焼けているんだよ」
窓の外では、銀河がしずかに流れていた。
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