8話 フリーニャ、素直になる
「さぁ、行きましょうか」
落ち込んでる私を励まそうとしてくれてるのか、フリーニャの突然の誘いに大人しくついていく。上品な花柄のワンピースを着たフリーニャは、制服の時と違ってふんわりしていてなんか可愛い。
「カナメさん? ……そうでした。手、繋ぎますか?」
「えっ? なんで」
「デートですから」
手を繋ぐのも恥ずかしがっていたフリーニャの真意が分からずにオロオロしていると、私の手を取ってフリーニャがぐいと引っ張った。
「ほら、行きますよ。オススメのカフェがあるんです。そこのスイーツは、星証メニューと張り合えるくらい美味しいんですからっ!」
キラキラした笑顔でスイーツを語るフリーニャからは、普段の凛とした、一見冷たく感じさせる雰囲気が全くなくなっていた。
もしかして、自分がスイーツを食べてる時は幸せになれるからって、連れて行ってくれようとしてるのかな。そう思うと、なんだか微笑ましい気持ちになる。
「うんっ、楽しみ! カフェの後は、洋服も見たいなぁ。フリーニャに似合う服、選びたいっ!」
「ふふっ、カナメさんの服じゃなくていいんですか?」
「いいの、いいの! 可愛い子に服着せるだけで楽しいんだから!」
「可愛い子……。そう、可愛い子……ですか」
なんだか、フリーニャが俯いてブツブツ言ってるけど、なんか気に触ったのかな。まぁ、いっか。
いつもと違うフリーニャに戸惑ったけど、せっかく来たんだもん。今はめいっぱい楽しもうっと!
カフェに入ると、好きなものだらけだったのか、メニューが決めきれずにうんうんと唸るフリーニャがおかしくて、私は声を上げて笑った。
悩みなんて、考える暇もない。
「あははっ! おねーさん、注文いいですかっ!」
「待ってください! 私はまだ決まっていません!」
「これとこれ、気になってるんでしょ。私がこっち頼むからさ、半分こしよ。ってことで、これとこれで注文お願いしまーす!」
強引に注文を済ませちゃった私をぽかんと見つめて、フリーニャが目をぱちくりさせている。あっという間にイチゴのパフェとイチゴのショートケーキが到着した。
「……そんなこと、考えたこともありませんでした」
「そーお? 別に普通じゃない?」
「食事を共有するなんて、はしたないと教わってましたから。それに……、カナメさんも食べたいメニューはあったのではないのですか?」
「流石はお嬢様だねぇ。いーのいーの! 私はなんでも美味しいし、フリーニャが嬉しそうならそれで満足だよ」
「なっ、そんな……っ。……ズルいです」
「ズルい? 不公平だー、とか気にしてるの? 別に私は気にしてないんだけどなー。あ、じゃあさ! また来ようよ。次に来た時は私が食べたいもの一緒に食べよ。ねっ?」
「……カナメさんがそれでいいなら、ご一緒してあげてもいいですよ」
なんでか顔の赤いフリーニャを不思議に思いながら、私はイチゴを口に放り込んだ。
◇ ◇ ◇
「おぉ、流石。色白だから濃い色の無地ワンピも似合うじゃん。すっごい、大人っぽく見える!」
「そうですか?」
「うん! 制服とも今日着てた可愛い系とも違って、本当にお嬢様感出てて、ドキドキする!」
私がそう言うと、フリーニャの薄い唇が弧を描く。少しだけ妖艶に、悪戯っぽく目を細めて微笑まれると、その仕草から目が離せなくなってしまう。実は、なんか魅了の魔法でも使ってますって言われても納得しちゃいそうだ。
「ふふっ、カナメさん。私にドキドキしてしまうんですか?」
「いやっ、それは言葉のあやっていうか。褒め言葉っていうか……」
お店の更衣室に引きずり込まれると、フリーニャはカーテンを閉めた。女の子同士で更衣室に一緒に入るくらい、なんてことないはずなのに、フリーニャが思わせぶりな空気を出すから意識してしまう。
狭い空間で密着していると、心臓の音が聞こえてしまいそうな気がして、私は視線を逸らした。
すると、フリーニャが楽しそうに距離を詰めて、私を壁に押しつけた。フリーニャのやわらかい胸が当たってるし、いい匂いもするし……。なんかヤバい、クラクラする。
「ふふっ、カナメさんの鼓動が聴こえます。すごく、ドキドキしていますね」
「ねぇ。ちょっと、待って! どうしたの!? フリーニャ、様子おかしいってば、ただのパートナーなんでしょ? 恋人にはならないんじゃなかったの?」
「なりませんよ。……でも、カナメさんのこと好きですから」
ドキッ、と鼓動が早くなる。
「こう見えても私、カナメさんのこと、認めているんですよ。初めて会った時は、なんて呑気で楽観的な人なんだろうと思いましたけど……貴女の諦めない熱いところ、それに、私にはない無鉄砲さが……、見ていて羨ましくなるんです。それに、ドラゴンを倒した時の大胆さもかっこよかったですし……」
動いたら、唇が触れてしまいそうな至近距離で真っ直ぐ見つめられて、おかしくなってしまいそうだ。本当にどうしたっていうんだ、普段なら言いそうにない心の内を語り出すフリーニャに何も言い返せずにいた。
「それに、すぐに人と打ち解けるでしょう……?」
「まぁ、それだけが取り柄っていうか。楽観的なだけっていうか」
そう言うと、フリーニャが目を伏せた。
「私は真逆なんです。自分に厳しくする延長線で、他人にも厳しくし過ぎて……、煙たがられてしまうんです。言い方がキツくなっている時もあるのは自覚しています。けれど……、その場しのぎの優しさなんて、相手のためにならないでしょう? そう思っていても、気がつくと私の周りからは、人がいなくなってしまうんです」
自嘲気味に微笑むフリーニャが、ひどく寂しそうで私は強く抱きしめた。
「……カナメさんも、こんな可愛げのない私のことなんて、きっとすぐに嫌になって離れていってしまいますよ」
「そんなこと絶対ないっ! 私はフリーニャのそういう所に救われたんだ! その厳しさが、私に期待してくれてるって、信じてくれてるって分かるから……、だから私も明るい私で居られるんだから!」
「カナメさん……」
フリーニャが私の名前を呼んだ、その時。
更衣室の外がざわざわと騒がしくなった。
「お客様っ! お客様、大丈夫でしょうか!? お隣のお客様が、魅力魔法香水をこぼしてしまったそうで……っ! すぐに換気はしていますが……!」
服屋の店員の声に、私はフリーニャを凝視した。
赤く染まる頬、惚れ薬みたいな症状……。ヤバい、完全にフリーニャがかかってる。
私は慌ててフリーニャの手を振りほどくと、更衣室のカーテンを開けて叫んだ。
「すみませんっ! 友達が多分、かかってます!」
振り返ると、キョトンとした表情でフリーニャが私を見つめていた。




