7話 私とデートしませんか?
「おっはよーう! ターシャ! ムアン!」
「カナメちゃんは、朝から元気だねぇ」
「フリーニャは……、相変わらず朝から隙がないな」
正反対の私達を見比べて、ターシャとムアンが言った。大きな口を開けてあくびをする私のリボンをフリーニャがさっと直していた。ありがとう。
「カナメちゃんは高等部からの編入なんだよね? 昨日、魔法がまだ一つも使えないって言ってましたけど……」
「うん! 何も使えない! っていうか、教科書読んだ時もフリーニャに教わった時も、発動すらしなかったよー! 箒はあんなに簡単に乗れたのになぁ」
口を尖らせる私に、フリーニャが呆れたように言った。
「箒を初めてで乗りこなしただけでも、カナメさんは凄いんですよ。普通は何度も失敗して、やっと飛べるようになるんです」
「そういうもんなの?」
「そうです。ですから、発動までいかなくても、魔法も何度も練習して……、失敗してもめげないことが大切なんです!」
あまりにも、フリーニャが簡単そうに魔法を使うから、私もパパッとやれると思ったのに。そういうことでもないみたいだ。
「は〜い☆ 三ヶ月の減給が決まったオーティ先生だよ〜! …………はぁ。っと、イケない。今日の授業は、植物を成長させる魔法だよ〜! さぁ、張りきっていってみようか!」
テンションの浮き沈みが激しいオーティ先生の挨拶で魔法の初授業が始まった。
魔力の質や量によって、違う花を咲かせるという種を渡される。
「これは……魔花の種ですね。最初の授業に相応しいです」
「そうなの?」
「はい。単純に魔力を注いで魔法を発動すれば咲きますし、一人一人違った美しい花を咲かせるので、ほら」
フリーニャに言われて周りを見渡すと、クラスメイト達がわいわいと花を咲かせて見せあっている。
「ターシャは黄色の可愛い花! ムアンは紫の小さな花が沢山ついてておしゃれ! 個性でるね! フリーニャもやっちゃって!」
「やっちゃってって……」
「手を抜いちゃダメだよ! 本気のフリーニャが咲かせた花が見たいんだもん!」
フリーニャが目を閉じて集中すると、周りの空気が変わる。なんだか、肌がビリビリするのは、フリーニャが魔力を集めているからだろうか。
『咲きなさい。フローラ・フローリー』
種を植えた鉢を両手で包み込んで、凛とした声で静かに告げる。
その真剣な眼差しに、私は目が離せなくて息を呑んだ。
「カナメさん……、カナメさん? 出来ましたよ」
「えっ? あっ、うわ……っ! すっご……!」
やっぱり、フリーニャって凄いんだ。凛としたフリーニャの姿に見惚れていると、あっという間に魔法が成功して、鉢から真っ白で大きな美しい花が咲き誇った。凛と伸びた百合のような、デンドロビウムのような優雅さがフリーニャみたいで凄く綺麗だ。
「よしっ! なんか、私もやれる気がしてきた! いっくよー!」
天高く杖を振り上げて、私は元気に詠唱した。
『咲け! フローラ・フローリーッ!』
……しん、と教室が静まり返る。何も起こらない。
『咲け! フローラ・フローリーッ!』
……。
『フローラ・フローリーッ! フローラ・フローリーッ! フローラ・フローリーだってばッ!』
…………。
『咲けっ! 咲けっ! 咲けってば……っ! ……っ、なんで……っ!』
いや、そんなの分かってる。
私が、魔法の世界の住人じゃないから。
そんなこと、入学する前から分かってたじゃないか。クラスの皆があっさり咲かせて、きゃっきゃと花を見せあっている。それが羨ましくて、でも、きっと過ごしてきた時間っていうのはどうしても埋まらないって分かってるから、……悔しい。
「カナメちゃんっ! し、仕方ないですよぅ! だって、カナメちゃんはあっち側の人なんですから。わたし達は子供の頃から魔法に馴染んでただけで、特別なことじゃないから、カナメちゃんもすぐに出来ますよ! 大丈夫です。これから、覚えていけばいいんですぅ」
「そうだな。箒はあれだけ乗れるんだから、すぐ使えるようになる。ウチも落ち込む必要はないと思うよ」
「あ、ははっ。そうだよね! 初めてだもん。使えないのが当たり前っていうか、分かりきってたっていうか! よしっ、これからもっともっと頑張って練習するよ!」
空元気で取りつくろって、ワイワイと二人と話していると、フリーニャが神妙な表情で近づいてくる。
「…………カナメさん……」
あ、やば。多分、気を使われる。……嫌だ、なんでか分からないけど、フリーニャにだけは同情なんかされたくない。仕方ないなんて、思われたくない……っ!
なんて声をかけられるんだろう。私は身構えてしまい、思わず、ぎゅっと目を瞑った。
「カナメさん、甘えないで下さい。貴女は私のパートナーなんですよ。あちら側とかは関係ありません、この学園に入学した以上、私もカナメさんも同じです。使えるようになるまで、やりますよ」
……なに、それ。
どうしてフリーニャは、私が欲しかった言葉をくれるの。
自分でもわけがわからず、涙がこぼれそうになって俯いた。
「フ、フリーニャちゃんっ。それは、ちょっとスパルタ過ぎるんじゃ……」
「ううん! 大丈夫! ありがとう、フリーニャ。私、目が覚めた! そうだよ。使えるようになるまで、やればいいだけだもんね。私、そういうの得意なんだよね! 燃えてくる……!」
「ふふんっ、そう来なくては困ります。カナメさんが出来るようになるまで、付き合いますよ! 言っておきますが、私は優しくありませんからね」
「望むところ! そんなの分かってるよ!」
授業が終わったあとも、休み時間も、放課後も。食事中もコツを教えて貰ったり、フリーニャのスパルタ特訓に励んだ。
それでも、全然、使える気配がしなかった。
なんで?
なんで、出来ないの? もしかして、あっち側の人間に魔法は使えないんじゃ……。いやいや、違うでしょ! 前例がないだけ。私が証明すれば良いだけでしょ!
弱気になるな。
これだけ付き合わせているのに、フリーニャは呆れた顔も諦めた顔もしていない。私が成功させるって、信じてくれてるんだ。
「カナメさん……、暗くなってきました。続きは明日にしましょう」
「嫌っ! まだ鉢は見える、まだ大丈夫!」
「嫌ではありません。呪文を叫び過ぎて、声も枯れてるじゃないですか。そんな状態で惰性で特訓をしても意味がありませんよ」
「でも……っ!」
フリーニャが言ってることが正しいって、本当は分かってる。
私は少しだけ渋ってから頷くと、特訓をやめた。フリーニャに気を使わせたくなくて、明るく振舞っているけれど、きっとフリーニャにはお見通しだと思う。それなのに、何も言ってこないフリーニャの不器用な優しさに目頭が熱くなる。
すると、フリーニャがくるりと振り返って言った。
「カナメさん。明日、私とデート、しませんか?」
「え?」
「……そうですね。せっかくのデートですから……、手、繋いであげてもいいですよ?」
そう言って首を傾げると、フリーニャは少し悪戯っぽく微笑んだ。
落ちかけの夕日に照らされるフリーニャが、なんだか妙に可愛く見えて心臓がバクバクと高鳴った。
やっぱりズルい。
予想が出来ないことばかりするフリーニャから目が離せなくて、私は振り回されてばかりいる。




