6話 お願いだから、キスする時は言ってよ!
「オーティ先生?」
魔女の丘の最深部から無事に脱出できた私達の前には、オーティ先生が待ち構えていた。
「うわっ、本当に最深部に行ってたの!? えーっと、大丈夫そ?」
ボロボロの私達、おもに服がボロボロなのはターシャだけだったんだけど、それを見たオーティ先生が頭を抱えて言った。
「なんとか……。怪我はしてないけど」
「ほんと!? 良かった〜☆ いやぁ、でもヤッバいなぁ〜、クビ……は全員無事みたいだし無いと思うけど、減給? やっちゃったなぁ……」
ぶつぶつと呟くオーティ先生に、フリーニャが険しい表情で詰め寄った。
「いきなり保身ですか? その前に、私達に何が起こったのか、説明する義務があると思いますけど」
「あー……、本当にごめんっ! 戻って来てくれたってことは薄々わかってると思うけど、魔女の丘は魔力量に反応して最深部の扉が繋がっちゃうんだよね」
「やっぱり、そうだったんですね……」
「多分、フリーニャの魔力が反応しちゃったんだと思う。あたしは教師として、先にその可能性を考えて同行するべきだった。これはあたしのミスだから、本当にごめんっ!」
「……反省点が分かっているならいいんです。普通は生徒だけの魔力に反応することは、ないでしょうから」
あれじゃあ、どっちが教師か分からないなぁ……。冷静に反省を促して、それ以上は責め立てない。フリーニャの気高さを垣間見た気がする。
遠征の授業は中止になって、最深部にいた私達以外はとっくに帰っているらしい。
オーティ先生の転移魔法で学園まで帰ると、そのまま理事長室に呼び出された。
「この度はよくぞ無事に戻ってきてくれた。我々の監督不行で危険な目に合わせてすまなかった。このとおりだ」
「理事長! 顔を上げてくださいっ!」
あ、大人ってズルい。
大人に頭を下げて謝られたら、私達子どもは許さなくちゃいけない。あんなに、怖い思いをしたとしても。
慌てて理事長をフォローしようとするいい子ちゃんなフリーニャを横目に、私は理事長を睨みつけた。
「君たちの機転と、ドラゴンを倒す実力。見事だった。よって、君たち四人へ星証を贈呈する」
「星証?」
なんだそれ。そんなよく分からないもので、うやむやにしようっていうのか。
「カナメさん……っ、星証は滅多に貰えることはありません。優れた成績をおさめた際に授与される星証を三つ集めると、私の制服につけている、首席の冠星証と同等の意味を持つんです。それも聞いてなかったんですか……っ」
「……知らないよっ! そんなもの貰ってどうするのさ!」
「そんなものとは何ですか! 名誉あることなんですよ! 私の尊敬するお祖母様と同じ、生徒会へ加入する資格が手に入りますし、一般生徒が入れない学園内の施設も使用許可が出るんですから……っ!」
ひそひそと熱弁するフリーニャに、私はいまいち白けてしまう。フリーニャと同じ首席を目指す、そう決めたけど……、大人の都合で決められるのは、なんか好きじゃない。
「疲れただろう。今日はもう寮へ帰って、今後も励みなさい」
理事長から星証を受け取って上機嫌なフリーニャを見て、私はそれ以上余計なことを言うのはやめた。
◇ ◇ ◇
「はーぁ、つっかれたー!」
「カナメさん、帰ってきてすぐにベットに飛び込むのはやめて下さい」
「いーじゃん、私達すっごく頑張ったんだからー!」
「……はぁ。今日だけですよ。……確かに魔女の丘でのカナメさんは、少しだけ……かっこよかったですから」
えっ!?
唐突なフリーニャのデレに思わず飛び起きてしまう。
フリーニャは、私が脱ぎ捨てた靴をキッチリと並べていた。
「そうでした! カナメさんっ!」
「なっ、何?」
「星証は、一つでも獲得すると特典が受けられるんですよ。食堂の星証メニュー、一緒に食べに行きませんか? デザートが格別に美味しいと評判なんです」
「うんっ! 行く行く! 楽しみ〜!」
なんだ、星証も案外いいな!
あっさりと手のひら返しをして、私はスキップをしながら食堂へと向かった。
協力して命の危機を一緒に乗り越えたからか、気難しさんなフリーニャとも、なかなかいい感じな気がする。
「楽しみですねっ、カナメさん! 今だとイチゴのデザートが豊富なんでしょうか? 私、イチゴが一番大好きなんですっ!」
うん。デザートが楽しみすぎてルンルンしてるフリーニャは、年相応でなんか可愛い。名誉ある星証なんて言ってたけど、実は美味しいデザートが食べたかっただけなんじゃない?
それにしても……、地元のじじばばの顔ばかり見ていた時とは比にならない、とんでもない美少女の横顔の美しさに、気を抜くと見惚れてしまう。
「カナメさん?」
顔を覗き込まれて、うっかりドキドキしてしまう。やめてよ! 私だって女の子同士で恋愛するつもりなんて無いんだから……っ!
いやでも、本当に綺麗な顔だよなぁ……。って、んん!? なんか、近くない?
あ、デジャヴ。キスされるかも。
「待って待って待って、何!? 近いってばっ! ……んむぅ……っ!」
ぼんやりしてる間に目の前に迫ってきていたフリーニャに慌てる間もなく、またしても私の唇が奪われてしまった。
「……っふ、…………っぷは……!」
わけも分からず、魔法が反応するまで長いキスをされた私は、息ができずに解放された途端、慌てて空気を吸った。
パァァ、と魔法の光が光ると、星証メニュー受付から自動音声が聞こえる。
「星証所有者ヲ確認シマシタ。ゴ注文ヲドウゾ」
星証メニューの受付が、一般生徒が入れない場所で本当によかった。
フリーニャの顔に見惚れてしまった流れでキスされてしまった私の顔は、たぶん真っ赤になってると思う。いや、照れくさいっていうか、ちょっと気まずいくらいだ。触れるだけのキスじゃなくて、長いキスだったのも悪い。
「ほら、カナメさんはどれにしますか? チョコレートケーキも美味しそうですし、イチゴパフェは旬ですから間違いないと思いますよ!」
通常よりもテンションの高いフリーニャが、キスしたことを気にする素振りもなく、さっと私から離れてウキウキと注文しているのが……、なんか悔しい。
「……フリーニャがそんなに甘いもの好きだったなんて、知らなかったよ」
「まだ、カナメさんとは出会ったばかりですからね」
そうだ。部屋に入ったらいきなりキスされて、ドラゴンに襲われて、フリーニャに追いつくぞって覚悟を決めて……。濃すぎる時間を過ごしたせいでマヒしてるけど、まだ学園生活も二日目なんだよなぁ……。
キスの恥じらいよりも、デザートの注文を優先したフリーニャにじっとりした目を向けて、私もフリーニャと同じイチゴのパフェを頼んだ。
「あのね、入学式聞いてなかった私が悪いのは分かってるよ……!? きっと、パートナーと星証の認証しないと使えないとかそんなんだよね! だけどさ……っ」
嬉しそうにパフェを受け取るフリーニャに、一言くらい物申したい。
「お願いだから、キスする時は言ってよ!」
私の渾身の叫びが炸裂した。




