5話 ドラゴンだ!絶体絶命!
「に、逃げて……っ!」
私は箒に手を伸ばして必死に叫んだ。
ドラゴンの咆哮を合図にして、私達は一目散に飛び立った。これは、やばい。私の本能が逃げろと叫んでいる。
「ど、どこまで逃げればいいですかぁ……っ」
「いいから飛んで! 巨大樹まで行こう、絶対に振り返らないで!」
絶体絶命のピンチ。
私はターシャを先頭に、探索魔法で見つけた巨大樹を目指した。後ろにはフリーニャとムアン、そして……ドラゴンの気配が追いかけてくる。
「巨大樹はあそこですぅ……!」
「ドラゴンはどうする!? このままだと、連れて行っちゃうよ!」
「どうするも何も……、箒を止めたら捕まります! 全速力で連れていくしかないでしょう……!」
「連れてくって言ったって、その後のことは!?」
「わ、私にばかり聞かないで下さいっ……! ドラゴンなんて、どうする事も出来ませんよ……!」
目の前には巨大樹、後ろにはドラゴン。
極限状態で、フリーニャも私も余裕なんてない。
「よし、決めた! さっき、こっち側に来る時、巨大樹に触れたらそのまま木の中に入っちゃったんだから、今度も同じことしよう!」
「同じことって、巨大樹に触れるということですか……!? それでもし、あちらの扉が開かなかったら……」
「その時はその時! 今はやるしかないでしょ! 行くよ、みんなっ!」
ドラゴンを引き連れたまま、箒を加速させる。そうして、ドラゴンを引き離した私達は、突っ込むように巨大樹に到着すると手で触れる。
が、何も起こらなかった。
「なんで……っ!? どうしろって言うの……!」
「だから言ったじゃないですか! もう、後ろにはドラゴンが追いついてきてるんですよ……!」
「ドラゴン相手じゃ、考える時間も貰えないんだから仕方ないじゃん! えっとえっと、どうしよう……、考えろ……。触れただけじゃ意味ないなら、どうやって反応したんだろ……」
最深部には誰でも入れるわけじゃないんだよね。だったら、入る為の鍵があるはず。それが膨大な魔力に反応してる……ってことなら、もしかして、フリーニャの魔力に反応していた……?
「ねぇっ、フリーニャの魔力に反応してたのかも! それなら、なんか大きな魔法使ったら開くかもしれないんじゃない!?」
私が叫ぶと、フリーニャが顔を青ざめさせて首を振った。
「私には、無理です……」
「いや、そんなの分からないじゃん! っていうか、私なんか魔法使ったこともないし……、首席のフリーニャがやれなきゃ、私達じゃどうにもできないよ! 怖いのもわかる、けど……、ちゃんとそばに居るから、お願いっ! 今だけ頑張って欲しいの!」
「そうじゃなくて……! 魔力が鍵なら、絶対に私じゃないんです。だって、私の魔力量は少ないんですから……っ!」
「そんなことないでしょ。触手の魔物を魔法で倒しながら避けてたじゃん」
「そ、そうですよぅ……。フリーニャちゃんは、初等部の頃から魔法が得意で、威力だって凄かったじゃないですかぁ」
幼なじみのターシャの証言に、フリーニャが目を伏せた。
「私は生まれつき魔力量がとても少ないんです。魔法を使えているのは、周囲に漂っている魔力を利用して魔法を使っていたんです」
「本当に……?」
ムアンが信じられない、という目でフリーニャを見つめている。
「よく分からないんだけど、魔力が少なくても、そこら辺にある魔力を利用すれば普通に使えるってこと?」
「いや、普通はそうはいかないよ。魔法は本人の魔力に依存する。フリーニャが言っている方法は不可能では無い……けど、とてつもなく高度な技術をやっていたということだ」
「つまり……、フリーニャは天才じゃなくて、超努力型の秀才……ってこと!?」
「努力とは思っていません。首席になるために、当たり前のことをしただけですから」
「なんで、そこまで……」
「それは……、首席で卒業なさったお祖母様に憧れているんです。いつか、私も、お祖母様のように……」
フリーニャが人にも自分にも厳しいのは、おばあちゃんに追いつきたいからだったんだ。
「……フリーニャじゃない。ってことは……、誰の魔力に反応して最深部への扉が開いたんだ?」
ムアンの言葉に、フリーニャが私を真っ直ぐ見つめた。
「え? ……私?」
ないないない。
箒は運良く得意だったみたいだけど、教科書に載ってた魔法を使ってみようとしても、うんともすんともしなかった。認めたくはないけれど、正真正銘、クラスで一番の落ちこぼれである自覚はあるよ。
「ターシャさんとムアンさんとは、初等部からの付き合いでだいたいの魔力量は分かっています。この中で未知数なのは……、カナメさんだけなんです」
「いや……、でも、私はまだ魔法も全然使えないし!」
「魔力量というのは、本人が生まれ持った才能です。魔法が使えなくても、潜在能力として変わらず貴女の中にあるはずなんです」
そんなこと言われても、どうすれば……。
「これ、つけてみて。魔法になる前の魔力を出力するだけなら、この魔導具が使えるかもしれない」
ムアンに手渡されたブレスレットを身につけると、私から真っ赤なオーラがどっと溢れ出した。
「何これ!?」
「この魔力量は……っ、なんですか、これは……っ」
「何!? これ、やばいの?」
「端的に言えば、とてもやばいです。こんな魔力量はお祖母様と同じ、賢者クラスです。魔法を使ったことのないあちら側の人間から出る量じゃない……。ですが、今はとても良いです」
賢者クラス? フリーニャの尊敬するお祖母様と同じ……って、それは、めちゃくちゃ凄いんじゃない?
「カナメさんの魔力を使って、私が大規模魔法を構築します。この魔力量があれば……、ドラゴンも倒せるかもしれません」
「それがいい。それに、その魔法が発動すれば扉も開くかもしれない。構築にどれくらい時間がかかる? ウチとターシャで時間稼ぎしても、そんなに長い時間は耐えられない」
「集中するのに五分……、いえ、せめて三分は欲しいです」
「それは…………」
ムアンの表情が、難しいことを物語っている。
「時間は私が稼ぐよ!」
「何言っているんですか! カナメさんは魔法を使えないでしょう!?」
「ふふんっ! 私の箒さばき、フリーニャも見てたでしょ! 私が囮になって、ドラゴンをひきつけるよ」
「そんなの無茶ですよ……!」
「無茶でも、やらなきゃみんな助からない。でしょ? じゃ、任せたよ!」
それだけ言って、私は躊躇うことなく、みんなと反対のドラゴンに向かって飛び出した。
「カナメさん……っ!」
「フリーニャ、やるしかない。ウチとターシャはサポートする」
「フリーニャちゃん。大丈夫ですぅ、わたし達が守ります。だから……、お願い。頑張って」
「……っ、もう! どうなっても知りませんからね。カナメさん、恨みますよ……っ!」
ドラゴンの眼前で、私はくるくると飛び回る。
ギリギリのところで襲いかかられると、ムアンの風魔法がドラゴンの攻撃を逸らしてくれてるようだった。
「フリーニャは……」
一瞬、振り返ると、ターシャがフリーニャの前に立って、祈りのポーズをしている。たぶん、防御魔法かなんかだろう。ドラゴンの息吹を跳ね返しているのが見える。
「よし、こっちにおいで! 私が遊んであげるから!」
フリーニャ達から意識をそらせる為に、わざと挑発的にドラゴンの目の前をアクロバティックに飛んでみせる。当たるか当たらないか、ギリギリでドラゴンをひきつけるのは、正直かなりきつい。だけど、私がひきつけておかないと、フリーニャの魔法が私達の命綱なんだから!
「……っ、いけます! 皆さん、ドラゴンから離れて下さいっ!」
フリーニャの声で、私はドラゴンを引き連れたまま空高く舞い上がった。そして、一気に急降下してドラゴンとの距離を引き剥がす。
『トルナド・ヴォダ・ヴィーズ!』
フリーニャが叫ぶと、巨大な水の竜巻が現れて、ドラゴンをのみ込んだ。
「「「「やった……っ!」」」」
水の竜巻の中をドラゴンが駆け上がり、そしてそのまま地上へと落下していくのが見えた。
私達の勝ちだ!
ドラゴンを倒すと、フリーニャの放った大規模魔法に反応したのか、巨大樹が光った。
「皆さんっ! 中に入れます……っ!」
叫ぶフリーニャの腕が、巨大樹をすり抜けてる。
帰れる、出口だ!
私が箒から巨大樹に降りると、待っていてくれたフリーニャがパンッ、と私の頬を叩いて、泣きながら抱きついてきた。
「か、勝手に危ないことしないで下さい……っ! あんな……、あんなやり方、命がいくつあっても足りません……!」
「いったた……、上手くいったんだから、何も叩くことないじゃ……っ」
「もうっ……! 次は絶対にあんなことしないで……。カナメさん……無事で、良かったです……」
「……うん、心配かけてごめん。フリーニャ。それに……、みんなの命を背負わせるみたいな、怖い思いさせた。ごめんね」
私の力不足で、魔法が使えないからなんていうのは、事実であってもただの言い訳だ。みんなの命をフリーニャの魔法に賭けさせた。一番、重たいところをやらせてしまった。だけど、それでもフリーニャはやり遂げてくれたんだ。
私は、安心させるように震えるフリーニャを抱きしめ返した。
「フリーニャ。私、首席を目指すよ。次は一人で背負わせたりしない。……絶対に、フリーニャの隣に立つよ」
「…………はい」
自分が何も出来ないって、もう後悔したくない。
ぎゅっ、とフリーニャを抱きしめる腕に力を込めた。




