4話 触手は良くないと思いますぅ!
「はいはーい☆ 遠征って言っても、ただの交流会みたいなもんだから〜。気楽に近くの人と四人組つくって、魔女の丘まで箒で行ってくること! そこにだけ生えている風鈴草をチームで二十本ずつ摘んできてね〜。説明は以上、はいっ! スタート〜!」
オーティ先生が手を叩いて注目を集めると、雑過ぎる指示で授業開始の合図をした。そんな説明でいいのか。
風鈴草と呼ばれる、リンリンと可愛い音の鳴る白くて小さな花を、初めましての四人で協力して摘んで来るのがレクリエーションらしい。
「内容は簡単ですね。この後に行われる交流パーティの飾りつけの調達を兼ねたレクリエーションです」
「ようは、わいわい協力して仲良くなってこいってことだもんね! 私とフリーニャと……、ターシャとムアンで行こっか!」
ちょうど近くにいた二人を誘って、私達四人も他のクラスメイトに続いて、魔女の丘へと向かうことにした。
「あ……、やっべ。魔物には気をつけてねって言い損ねたけど、まぁ……どうせあの辺は出ないから大丈夫でしょ☆ 新入生の魔力じゃ、魔物が出てくる最深部の扉は開かないしね〜」
私達は知るよしもない話だけど、オーティ先生が気楽な調子で生徒達への伝達不足に気がついたのは、クラス全員が飛び立ったのを見届けた後のことだった。
「膨大な魔力を鍵に開く最深部の扉……? あ、学年首席のご令嬢と紅蓮の魔女の孫……、もしかしなくても、魔力足りちゃうかも☆」
◇ ◇ ◇
「ねぇ、なんか魔女の丘……想像と全然違うんだけど。遠足っていうわりに、暗くてなんかやばい雰囲気じゃない?」
「いえ……、様子がおかしいです。通常の魔女の丘は風鈴草の咲き乱れる美しい花畑。……もっと穏やかで、美しい景色のはずなんですが……、これは……」
キラキラと可愛いお花畑に遠足! のはずが、空は曇り、風鈴草は黒い花をつけ、リーンリーンと奏でる花の音色はあまりにも寂しげだ。
「ここが魔女の丘の頂上……のはずですが」
丘の上に立つ一本の巨大樹に降り立って、フリーニャが首を傾げる。私とターシャ、ムアンも続いて降り立って、私が巨大樹に触れた瞬間……。
私とフリーニャの腕が、巨大樹に吸い込まれた。
「「え……っ?」」
キャアッ! とフリーニャが可愛い悲鳴をあげて、私の手を握った。足元が崩れる感覚がして吸い込まれていく。
私は咄嗟に隣にいたターシャの腕を掴んでしまった。
「へっ? ひゃぁぁぁ……っ!」
体勢を崩したターシャも巨大樹に吸い込まれる。その後ろで、なんの躊躇もせずにムアンが飛び込む姿が見えた。
「「「キャアアアア……ッ!」」」
謎の空間に落下していく四人。為す術もなく悲鳴をあげていると、流石のフリーニャが冷静さを取り戻して叫んだ。
「皆さん、すぐに箒を呼んで下さい……っ!」
『フリーゲン・ズブラ・ヴォラーレ!』
空を飛ぶ時の呪文を唱えると、上空からそれぞれの箒が手元に向かって飛んできた。
「……はぁ、……ふぅ。びっくりしたぁ……、ありがとう、フリーニャ」
「いえ……、それよりここは……巨大樹の中でしょうか?」
「なーんか、ヤバい香りがぷんぷんするね……」
箒で空間を下がっていくと、うねうねと曲がりくねった枯れ木が密集する怪しげな森が見えた。なんか、ファンタジー映画とかの悪い魔女が出てきそうな雰囲気……。
「あー、これは結構マズイかも」
「ムアンちゃん?」
「多分ここ、最深部ってやつ来ちゃってる。早く帰らないと魔物が出るよ」
「ひぇっ!? ま、魔物ですかっ?」
「大丈夫。ターシャはウチが絶対に守ってあげるから」
「ムアンちゃん……」
怯えるターシャにムアンが箒を寄せて寄り添う。その姿にさっきまでの余裕がなくて、私やフリーニャにも緊張がうつる。
いやいや、魔物って何!? それってやっぱり絵本に出てくるモンスターみたいなやつがいるってこと? こっちの世界にいるのは知ってるけど、そんなの見たことないってば……!
「フリーニャ、急ごう。なんか嫌な予感がする!」
「勿論です。ムアンさん、ここから出る方法は知っていますか?」
「いや、ウチも親から聞いたことあるだけだから……そこまでは知らない。けど、さっきの巨大樹が入口ってことは、こっちも同じ巨大樹に出口があるんじゃないかな」
「そうだね、私もそう思う! じゃあ……、どっちに行こう!?」
「ターシャ、あれ……出来る?」
ムアンがターシャに訊ねると、ぴるぴるとターシャが猫耳を震わせて頷いた。
「やれるよ……っ、わたしの探索魔法で巨大樹を探しますぅ……っ!」
箒の上で手を離して祈るように両手を組んだターシャを、落ちないようにムアンが支える。
『お願いっ……! 巨大樹を探して。リチェルカ!』
ターシャの身体を魔法の光が包み込む。
「見えました! あっちですぅ。わたしについてきてっ!」
道案内のターシャに続いて、巨大樹を目指して真っ直ぐ進んでいく。
ザザッ……!
「危ないっ! 避けて下さいっ……!」
何かが地上から伸びて、私達に襲いかかる。いち早く気がついたフリーニャの声で慌てて避ける。長い弦のような触手が私達を捕まえようと何本も伸びてきた。
「えっ、ちょ……っ! 数が多すぎる……っ!」
一気に襲いかかってくるのを避けるので精一杯で、周りのことを見る余裕もない。いや、さっきからちょっとかすってるし、結構マズいかも……。
「ひゃぁ……っ!」
「その声っ! ターシャ、大丈夫!?」
これ以上来られたら捕まるかも、と内心焦っていると、後ろからターシャの悲鳴が聞こえた。
「つ、捕まりましたぁ……っ!」
「大丈夫ですか!? 私も避けるので手一杯で……、自分で逃げられますかっ!?」
「うぅ……っ、だ、大丈夫……だから、皆は逃げて……っ、ひゃん……っ」
捕まりながら魔法を使おうと、もがくターシャを触手が締め上げる。
「ひゃう……っ、やっぱり無理ですぅ……。んゃっ……、ど、どどどこ触ってるんですかぁ……っ」
急にターシャの艶めかしい声が聞こえて、私は思わず振り返った。すると、触手がターシャのスカートをめくりあげて、さわさわとターシャの身体を撫でていた。
え、きも……。っていうか、怪我の危険は無さそうだけど、別の意味でマズいかも……。
「……ひっ、……っあ、……や……っ!」
抵抗虚しく、触手がにゅるにゅるとターシャの服の中に侵入しようとする。
「ダメダメダメダメ……ッ! なんかっ、魔法……! はまだ習ってないし……! っていうか、そもそも私は魔法使えないんだし……っ! フリーニャ! どうにか出来ないの……っ!?」
「待って、下さい……っ! 今、やってます! でも……、避けながら魔法使うなんて、全然集中が出来ないんです……っ!」
「ああ、もう……っ!」
触手の猛攻を避けながら、試しにぶんぶん杖を振ってみるけど、うんともすんともいわない。なんとかなれ! どうにかなれ! ちょっと、ターシャがヤバいって……っ!
ゴォォォ……!
背後から強い風がふいて、かまいたちみたいに触手を切り落とした。
「……ターシャに触っていいのは、ウチだけだ……っ!」
ムアンの怒りの風魔法がバッサバッサと全ての触手を切り落とす。風でめくれ上がった前髪から、紫に光る瞳が覗いていた。
なんとか、ムアンのおかげで触手の魔物から逃げ切ると、周りに魔物がいないことを確認して、木の上に降り立った。
「はぁ……、怖かった……。ムアンの魔法凄いね! ありがとう、助かったよ!」
「ムアンちゃんは、風魔法が得意なんですぅ」
何故かターシャが自慢げに言う。ねぇ、やっぱ二人って普通に仲良いよね?
実は付き合うのも意外と秒読みなんじゃないのか、と勘ぐってしまう。
「ムアンさん、本当にありがとうございました。皆さんが無事で良かったです。私は……、自分のことに精一杯で……」
「あの状況じゃ、誰だってそういうもんでしょ。ウチはただ、ターシャがピンチでキレただけ」
「あ、あああああの……っ!」
急に話を遮ると、ターシャが震えながら私達の後ろを指さした。
「う、うううしろにドラゴンがいますぅぅぅ……っ!」
ターシャの泣きそうな声に、私達は振り向くことが出来なかった。




