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契約のキスでツンデレお嬢様とパートナーになったけど百合展開になるつもりはありません!  作者: 日華てまり


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34話 浄花の魔女

 


 ラルカの土の茨を触媒(しょくばい)にして、巨大な焔の花が咲き誇る。地面から天に向けて伸びる姿が、おばあちゃんの魔法と同じ、蓮の花のようだった。


「……っ、出来た……っ!」


 思わず、声が漏れた。


 焔の花が魔王を包み込み、魔王の悲鳴が聞こえた。

 焔の花はムアンの風魔法を取り込んで、竜巻の力を借りてより強大になっていく。

 そして、浄化の焔で魔王を焼き尽くした。


 大輪の焔の花はすぐには消えず、夕日を背負って輝いていた。

 その光景は、儚くて、力強くて、酷く美しかった。



 ◇ ◇ ◇



「カナメちゃん……っ!」

「おばあちゃん!」


「……っ! フリーニャ、良くやりましたね」

「……っ、お祖母様……!」


 魔王との戦いを終えて、五大賢者が待つ地上へと降り立つと、私のおばあちゃんとフリーニャのお祖母様が駆け寄ってきて、私たちを優しく抱きとめてくれた。


「わしら大人が不甲斐なくてすまなかったのぅ。……魔王を倒してくれて、ありがとう。感謝してもしきれないのじゃ」


 理事長が私たちに頭を下げた。

 隣にいたオーティ先生も、静かに頭を下げた。


「やっと、終わったんじゃな……」

「そうですね、先生。これでダルも……、浮かばれます。ただ、気がかりなのは……」


 オーティ先生の視線の先には、耳のちぎれてしまったボロボロのぬいぐるみを大切そうに抱き抱える、ラルカの姿だった。


「ラルカ……」


 ターシャたちと共に、ラルカが私たちのところへ足を運ぶ。傀儡の魔女(ダル)のこと、受け入れなければいけないと思っているんだろう。

 ラルカは、悲しそうに眉をひそめると弱々しく笑ってみせた。


「ラルカは、大丈夫。ダルがラルカのこと、最期までしんぱいしてたこと、わかったから」


 ぎゅっ、とぬいぐるみを握る手に力が入るのがわかった。すると、オーティ先生がいつもみたいに気楽な調子で言った。


「ねぇ、そのぬいぐるみ。あたしに預けてくれないかなぁ☆ こう見えて、そういうの直すの得意なんだよねぇ。ダルに裁縫教えたのもさ、あたしなんだよねぇ☆」


 ラルカの瞳が輝いた。


「治して、くれるの……?」

「うんっ。それに、あたしの知らないダルのこと、もっと教えて欲しいなぁ☆」

「……うんっ! いいよ! 教えてあげる。……だから、ラルカの知らないダルのこと、もっと、おしえて」


 良かった。

 オーティ先生とラルカのやり取りを私たちは静かに見つめていた。おばあちゃんとお祖母様は、決して近寄ろうとせず、遠目で見守っていたけれど、きっと二人の心も軽くなったんじゃないかな。


「おばあちゃんは、もう魔法は使えないの?」

「それがねぇ、カナメちゃん達が魔王を倒してくれたあと、魔力が戻ってきたような気がしたのよね」

「そうなの?」


 理事長に視線を送ると、頷いて、手のひらに小さな竜巻を出してみせた。


「カナメちゃん……、本当に大きくなったねぇ」


 おばあちゃんに頭を撫でられると、なんだか少しだけ泣きたい気持ちになった。

 フリーニャとお祖母様は事務的に後処理の話をしているみたいだけど、二人の雰囲気も柔らかくなったような気がする。


「カナメちゃんっ、フリーニャちゃん! 本当にっ、無事で良かったですぅぅ……っ!」

「ターシャ、ムアン! ラルカ! みんな、本当に凄いよっ! 本当に私たちだけで魔王を倒しちゃったよ!」


「今もまだ、信じられません……。(わたくし)たち、皆で同じ夢を見てるなんてことは……」

「そんなこと、ありっこないでしょ!」


 そう言って、フリーニャの頬をつねってやると、フリーニャはへにゃりと笑った。


「ウチ……、まだ、手が震えてるよ」

「ムアンちゃん……」

「…………ラルカが、あたためてあげる」


 私たち五人が喜んでいると、理事長代理を縛り上げ終わった理事長が、私たちのところへと戻ってきた。

 その手には、光り輝く星証(ステラ)が五つ並べられた箱を持っていた。


「これ…………」


「魔王を倒した功績を、星証(ステラ)一つで(たた)えきれるとは思っていないのじゃが……、わしが贈れるものはこんなものしかないからのぅ。受け取って欲しいのじゃ」


 理事長が一人ずつ、星証(ステラ)を手渡していく。


 全校生徒の前でやる授与式みたいな立派なものではなくて、魔王との戦いでボロボロになった校庭で渡される星証(ステラ)。それは、本当に魔王との戦いの終わりを表しているようで、ストンと心の中で終わりを告げる音がした。


「うむっ! 皆の者、似合っておるぞっ!」


「「「「「ありがとうございます!」」」」」


 私たちは顔を見合せて、肩で輝く星証を見つめると、理事長に頭を下げた。


「もしかして、これで私たち……、星証(ステラ)が三個集まった……?」


 転入生だったラルカを除いて、私たち四人は同じタイミングで星証を貰っていた。


「ってことは……、これで首席のフリーニャと私も肩を並べられたってこと!?」

「ふふっ、そうですね。本当に追いついてくれるとは、出会った頃は思ってもいませんでしたけど」


「……いや、フリーニャも三個手に入れてるんだから、そうはならないんじゃ……」

「しぃっ! ムアンちゃん、それは野暮って言うんですよ……! カナメちゃんはそれを目指していたんですからっ」

「まぁ、肩を並べるって意味なら合ってるか」


 あんなに最初は星証(ステラ)なんてどうでも良かったのに、今はすごく嬉しかった。


「一年生で星証(ステラ)を三つ集めたおぬしたちは、これで名実ともに優れた魔女だと証明されたのじゃ。その星証(ステラ)に恥じないように、今後は生徒会の一員として学園を導いていってもらいたいのじゃ!」


「へ? 生徒会……?」

「カナメさんっ、また、話を聞いてなかったんですか!? 首席と同等の資格を所有する……、つまり、二年生からの生徒会入りが認められるんです。……てっきり、(わたくし)と肩を並べる……とは、一緒に生徒会に入るのを目指してくれてるのかと……」

「ごめんごめんっ! それは初耳だったの! でも、フリーニャをそばで支えるんだっ、って決意だけは変わらないから! ねっ?」


 慌てて取り繕う私をフリーニャは頬を膨らめて睨みつける。が、すぐに噴き出して、「そんなことだと思ってました」と言って笑った。


「カナメの二つ名は決まったも同然じゃな」

「二つ名……?」

「ほれ、魔王が復活したと聞いて、すぐに街は大騒ぎになる。そして、それを鎮めた者の名を語り継いでいくじゃろう。新たな五人の魔女が、魔王を倒したのだとな」



 ◇ ◇ ◇



 理事長の言う通り、夜になった頃には街でお祭り騒ぎが始まっていた。つくづく、行動力があるっていうか、商売根性たくましいっていうか……。


 私たちは、宴の主役として広場の真ん中で街の人たちに捕まっていた。流石に疲れてきていた私たちを助けてくれたのは、私がゴーレムを倒した時に出会った女将さんだった。


「あの時のアンタが魔王を倒す救世主になっちまうとはね! あっはっは! この街のシンボルにも箔が付くよ! あの、『浄花の魔女』が咲かせた消えない焔の花だってね!」


「浄花の魔女……? って、まさか私のこと!?」

「他に何があるってんだい。五大賢者になぞらえて、お仲間の四人の名前も考えなきゃって、躍起(やっき)になってるところさ!」


 なるほど、こうやって仰々しい二つ名がつけられていくんだなぁ。

 もう、二つ名が決まってしまった私は、高みの見物気分で皆の二つ名の案を酔っ払いたちが叫ぶのを眺めていた。

 ターシャやムアンは賑やかなのが苦手だと、隅っこの方へと逃げていってしまったし、ラルカはオーティ先生にくっついて美味しそうに食べ物を頬張っている。


「平和だなぁ…………」


 魔王が復活してたことなんて、夢だったみたいに煌びやかな夜の街の賑わいが、心地よかった。

 これを、私たちが守ったんだ。


「……カナメさん。少しだけ、二人で抜けませんか?」


 街を眺める私の手に、フリーニャが自分の手を重ねた。


「……うん。私も、同じこと言おうと思ってた」


 あちこちに、私の魔法を模した光り輝く焔の花や、幻想的に光る蝶々や動物が駆け回っている。

 オーティ先生の幻影魔法が、キラキラと夢の世界みたいに街を彩っていた。



 ◇ ◇ ◇




「マーヴィーは……、相変わらず綺麗だねぇ。私なんて、しわくちゃのおばあちゃんになっちゃった」


 祭りの雰囲気の中、カナメの祖母のほむらが話しかけても、久しぶりに再会したフリーニャの祖母のマーヴィーは沈黙したままだった。

 それもそのはずで、ほむらが黙ってあっちの世界へ行ってしまってから、これまで意図的に会うことを避けてきていたからだ。


 気まずい雰囲気にほむらが席を立とうとすると、マーヴィーがそっぽを向いたまま、ぽつりと呟いた。


「……どうして、あの時、(わたくし)も連れて行ってくれなかったんですか……」


 そんなことを言われるなんて思ってもいなかったのか、ほむらが目を見開いた。そして、困ったように頬をかいた。


「……だって、貴女は貴族のお嬢様で、とびきり優秀で、みんなの憧れだったでしょう? お家の為に努力している貴女と違って、あの頃の私は自由気ままで楽観的で……、こっちの世界に迷い込んできたおじいさんと恋に落ちて……。五大賢者だとか救世主だとか何も無い、ただのほむらでいたいなんて……、魔女の世界を出ていくなんて、貴女には言えなかったわ……」

(わたくし)は、もう貴女に必要なくなったんですか……?」

「そうじゃないわ……っ! 貴女は私の憧れで、ずっと私の一番で、一番大切な友達だったから……、本当は一緒にいて欲しかった。あっちで心細くなった時も、貴女がそばに居てくれたらって勝手なことばかり考えていたわ」


 ほむらの言葉に、マーヴィーは消え入りそうな、か細い声で呟いた。


「……(わたくし)は、貴女が来てくれと一言言ってくださったら、何を差し置いてでもついていきましたよ。(わたくし)の一番は、ほむら。貴女でしたから……」

「そう言ってくれるような気がしてた。……だけど、マーヴィーは優しいから、この世界を捨てられないよ。思い上がりかもしれないけれど、貴女を悩ませたくなかったの」


(そんなこと、なかったのに。貴女の為なら、私は……、家もこの世界も、全てを捨てても構わなかったのに……)


 マーヴィーはそっと目を伏せて、決して伝えてはいけない言葉を飲み込んだ。


「……そう、だったかもしれませんね」

「ごめんね、マーヴィー」

「もう、良いです。……今度、(わたくし)の家へいらっしゃって。これまでのこと、聞かせてほしいわ」

「……っ! えぇ、もちろんっ! たくさん、聞いてもらいたいことがあるのっ!」


 あの頃みたいに無邪気に笑うほむらに、マーヴィーは優しく微笑みかけた。

 ――淡い想いは、心に秘めたまま。


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