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契約のキスでツンデレお嬢様とパートナーになったけど百合展開になるつもりはありません!  作者: 日華てまり


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32話 攻撃のカナメ

 


「ラルカ……。この記憶を見せたら、ラルカは傷つくかもしれない。だけど……、ラルカが知らない傀儡の魔女(ダル)の最期……、見たい……?」


 傀儡の魔女(ダル)は最期まで、ラルカに魔王が取り憑いていたこと、自分に魔王が乗り移ったことを隠していた。それは、ラルカが自分を責めてしまわないようにっていうダルの思いやりだ。


 そして、おばあちゃんたちは友だちのその覚悟を受け入れて、悪者になっても否定せずに憎まれ役を引き受けた。全ては、ラルカの幸せのために。


 その覚悟を私が壊していいものかは分からない。

 だけど、もしも私なら……、知らないままはもっと嫌だ。


「……見る。ラルカがしらないダルのこと、しりたいよ」

「うん、分かった。いくよ……?」


 ラルカの顔を両手で掴んで、おでこをコツン、とくっつけて呪文を唱えた。


『ラルカに記憶を渡す。メモリア・エンビアール……!』


 おばあちゃんから渡された記憶が、私からラルカに流れていく。そして、ラルカが涙を流した。


「ダル……。なんで、ラルカに教えてくれなかったの……? ダルが、殺してって頼んだの……? ラルカが居たから……、ラルカのせいで、ダルは魔王にとりつかれたの……?」

「違う……っ! 違うよ、ラルカ! ラルカのせいなんかじゃない! ラルカを悲しませたくなかったから、ダルさんはラルカに伝えないことを選んだの! 悪いのは……、みんなを巻き込んだ魔王だけ……っ!」

「魔王……。ぬいぐるみ(ファリス)の中に、ダルを殺したやつがいた、の……?」

「……うん。ファリスの中身は、ラルカの友だちのファリスなんかじゃない。ラルカがずっとお話していたファリスは、友だちのフリをした……魔王だったよ」

「ラルカに優しくしてくれたのも、ぜんぶ、うそ。……ラルカに召喚させるための演技……」


 傀儡の魔女(ダル)が死んだあとの心の拠り所だったぬいぐるみ(ファリス)まで偽物だったことに気がついて、俯くラルカを私はぎゅっと抱きしめた。


「ラルカのほんとうの敵は、魔王(あいつ)……。ファリスに入ってたなんて、ゆるさない。魔王(あいつ)から、ファリスをとりもどす……っ」


 魔王を召喚した時に取り込まれてしまった、ボロボロになるまで大切に持ち続けたぬいぐるみ。ファリスを取り戻す、とラルカは強い眼差しで決意した。



 ◇ ◇ ◇



「カナメさんっ! ラルカさんっ!」


 ラルカを箒の後ろに乗せて戻ると、心配したフリーニャが駆け寄ってきた。クラスメイトの避難誘導に協力していたターシャとムアンも合流していた。


「ラルカちゃん……っ! 良かった……っ」

「……カナメ、無茶しすぎ。傷だらけじゃないか」


 ターシャがラルカを抱きしめると、ラルカもおずおずとターシャの背中に腕をまわした。私は、「痛っ……」と小さな声で呟くと、ムアンにつつかれたほっぺの怪我をさすった。


「なんだか……、随分と久しぶりに集まったような気持ちになりますね」

「そんなに時間経ってないよ? フリーニャ、ボケるにはまだ早いと思うけど?」

「……っ、それくらい皆さんと離れていたような気がする、という話です……っ!」

「っはは、ごめんごめん。冗談だってば」


 私とフリーニャのやり取りを見て、三人が笑っている。確かに、こんなに心が穏やかなのも久しぶりなような気がする。


 ほんと、不思議だよね。穏やかとは程遠い、私たちの背後にはおぞましい姿の魔王が世界を滅ぼそうとしているというのにさ。


 絶体絶命の状況だ。

 それでも、この五人が揃っていて、この五人が笑っているから、なんだって出来るようなそんな気がしてならないんだ。


「ねぇ、みんな。魔王(あいつ)と戦う準備は出来てる?」


「勿論、出来ています……っ!」

「……うん。ラルカは、魔王をゆるさない」

「こ、心の準備は全然出来てないですけどっ、戦う準備は整っていますぅ……!」

「ウチも、みんなにいいとこ、見せなきゃだからね」


 バラバラな応えだけど、心強い仲間たちの返事に私は大きな声で号令をかけた。


「大丈夫っ! 私たちなら絶対にやれる! だって、私たち、最強の魔女だもんっ! いくよ、みんなっ!」



 ◇ ◇ ◇



 私たちがそれぞれ箒で魔王に向かっていくと、気がついたのかそれをはらい落とそうとして、魔王が腕を振り回した。


 私たち五人は分断されてしまった。

 けれども、誰も引いたりしなかった。フリーニャとムアンが攻撃の魔法をぶつけたり、私とターシャは魔王の攻撃を避けながら囮になった。

 一人一人の力は、魔王にとって大したことはなかっただろうけど、それは確かに隙を作り出した。


 そして、ラルカは、一人で魔王へと対峙(たいじ)した。


「…………ファリスは、ファリスじゃないんだよね。お前(魔王)が、傀儡の魔女(ダル)を殺したの……?」

「違うよ……っ! 僕じゃない! 傀儡の魔女(ダル)を殺したのは五大賢者だ! 僕と一緒に見てただろ? ラルカはカナメ(そいつ)に騙されてるんだよ……っ! ほらっ、僕がいじめられてもいいの? 早くカナメ(そいつ)を殺してよっ!」


 魔王が、まるで友だちみたいな優しい声でラルカに語りかける。ああやって、ラルカのことを操っていたんだ。


「騙してたのは魔王(お前)のほうでしょっ! ラルカの気持ちを……、ダルに貰ったぬいぐるみ(ファリス)を、大切な記憶を踏みじったお前だけは許さない……っ!」


 私は力の限り叫んだ。

 絶対に、許すわけにはいかないんだ。


「ラルカ……、ずっと一緒にいた僕よりも、カナメ(あいつ)のことを信じるの……? また、裏切られるかもしれないよ?」


 ラルカの心を乱そうと言葉を選ぶ魔王に、ラルカは静かな眼差しを向けた。それはもう、騙されるままのラルカじゃない。


「ラルカは、カナメを信じるの。魔王(お前)はファリスの偽物。だって、ラルカの大切なファリスなら、()()()なんて、たのまない」


「……っ、クソ……ッ! 操り人形は操り人形らしく言うことを聞いていればいいものを……っ!」


 揺るがないラルカの視線に、魔王が本性を現して悪態をついた。


「…………はぁ。ラルカだけは、気に入っていたのに。やっぱり人間は救えない。お前たち全てまとめて、灰に変えてやろう」


 少年のような取り繕っていた声が不気味な声に変わっていく。そして、魔王は天に両腕を掲げて、天候が変わるほどの魔力を練り始めた。


「あんな魔力が放出されたら……っ、本当に世界は滅びてしまいます……っ!」


 フリーニャが青ざめて叫んだ。


「……どうせ、魔王(あいつ)を倒さなきゃ世界は終わりなんでしょ。だったら、やってやろうじゃないか。一騎討ちってやつをさ……っ!」


 面白くなってきた。

 なんて、ただの虚勢だ。


 だけど、私はにやりと不敵に笑ってやった。


 私は、私たちの勝利を疑わない。

 私たちは、最強なんだからっ!


「ねぇ、フリーニャ。私、フリーニャに出会えて本当に良かったよ」

「なっ、何言うんですか……! そんなフラグみたいなことを言わないでくださいっ!」

「あははっ、ただ言いたくなっただけだよ。……バラバラに攻撃してちゃダメだ、私たちの攻撃じゃ、魔王に少しのダメージも与えられない」

「何か、策があるんですか?」

魔王(あいつ)が魔力を凝縮している今がラストチャンスだ。攻撃がこない今、私たちも最大の魔法を練り上げる。だから……っ!」


 私は作戦を大きな声でみんなに伝えた。


「……確かに、それがウチらの唯一の勝機かもしれないな」

「わたしも、頑張ってサポートします……っ!」

「……ターシャ、魔王を倒せたら……、いつかした告白の返事を、くれないかな」

「へぇ……っ!? な、なんで急に……っ!」

「絶対に、勝つからさ。……だから、ターシャの本当の気持ちが、知りたいんだ。どんな答えであっても、ウチは受け入れるから」

「……ムアンちゃん……、わかりました。……ずっと、逃げ続けていてごめんね。わたしももう、逃げません。だから……、絶対に魔王を倒しましょう……っ!」


 覚悟を決めた瞳で、ムアンとターシャが杖を握りしめた。


「カナメさん……。本当に、いいんですね?」


 フリーニャの言葉に、私は力強く頷いた。


「分かりました。ならばもう、(わたくし)はカナメさんのことを信じるだけです! この攻撃の(カナメ)は、カナメさんなんですから……っ!」

 

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