31話 信じる心が奇跡を起こす魔法なんだってさ!
『ラルカ、奴らを壊せ』
魔王の言葉に、正気を失っているラルカが反応して魔法を使う。
大量のゴーレムだけでも厳しいのに、今は地面を揺らしたり、地面の土を変形させて攻撃に使ってきたり、時々闇魔法まで使い出すから手がつけられない。
ラルカって、こんなに強かったんだ……。
クラスメイトの戦える人たちや、フリーニャとムアンが必死にゴーレムをさばいているけど、足場も不安定にされて、こんなの続けられっこない。
「フリーニャ……ッ! 乗って……っ!」
諦めるな。
魔法は使えなくても、足場にはなれるでしょ!
私は、箒で飛ぶのだけは得意なんだから!
戦っているフリーニャの傍まで飛んでいって、その手を掴む。
私はフリーニャの手を引っ張って、箒の後ろに乗せた。
「ありがとうございますっ、カナメさん! これで魔法に集中出来ます……っ!」
「うんっ、ラルカの攻撃を避けるのは私に任せて! フリーニャ、しっかり掴まっててよねっ!」
私たちは、縦横無尽に空を飛び回って、あちこちに出現したゴーレムを無差別に壊していった。
「ダメだ……っ! いくら倒しても、また生み出される……っ!」
「そんな……っ! 私が自分の魔力じゃなくて、周囲の魔力を使っているからといっても……、このままでは先に気力が尽きてしまいます……っ!」
もう、駄目だ。
騒ぎに気づいた教師たちが戦ってるのも見えるけど、これ以上の助けは望めない。
だって、一番強いはずの五大賢者は、封じられてしまった。
諦められるわけない、だけど、このままじゃ……っ!
「せめて、ラルカだけでも正気に戻せたら……」
でも、正気に戻す方法なんて……。
おばあちゃんたちの気持ちを無駄にしちゃうけど、でも……、私にはもう、これしか方法が思いつかない。
「カナメさんっ! 行ってください! 何か、思いついたんでしょう……っ!?」
「でも、出来るかは……」
「出来るかどうかはいいんです。私は、カナメさんを信じていますからっ! 私ならまだ粘れます。さぁ、早く……っ!」
フリーニャに背中を押されて、私はフリーニャを被害の少なそうな地面に下ろすと、全速力でおばあちゃんのところに向かった。
「ねぇ、おばあちゃんっ! なんか、傀儡の魔女の最期の記憶を共有する魔法とかってないの!?」
ラルカを正気に戻す方法。
それは、ダルが自分の魔法でおばあちゃんを操って、自分にトドメを刺したこと、ダルがラルカを守ろうと最期まで秘密にしてたこと、その全ての元凶が魔王だってことを伝えることだ。
私の言葉は届かないかもしれない。
だけど……っ!
「私の記憶をカナメちゃんに共有したあげられる魔法が、あるにはあるけれど……、私は魔法が……」
「それって、私が使ってもやれる!?」
「カナメちゃん……。出来るわ。カナメちゃんが魔法を発動して、私が渡したい記憶を思い浮かべれば……」
「うんっ! それでいい。私がやる、だから呪文だけ教えて!」
思いの強さが大切だっていうのなら、私はラルカに伝えたいっ!
この魔法は絶対に成功する。
不思議と、そんな予感があった。
「カナメちゃんに、私の記憶を……っ」
『メモリア・エンビアール……!』
おばあちゃんとおでこをくっつけて、私は教わった呪文を唱えた。
すると、傀儡の魔女の最期の記憶が流れ込んできた。走馬灯ってきっと、こんな感じだ。
私は勝手に溢れた涙を拭って、箒を握りしめた。
「カナメちゃん、私の記憶をあの子に届けてあげて。……あの子はずっと怯えている。味方のいない世界で一人で生きようと、ハリネズミみたいに全身をトゲでおおって、復讐に生かされているわ」
おばあちゃんは、少しだけ何かを考えたあと、小さな声でつぶやいた。
「こうなったのは……、私のせいだわ。あの時……、たとえ真実を知らずに憎まれたとしても、復讐を目的にこの子が生き延びてくれたら……と考えてしまった。真実を伝えるという選択も出来たのに、あの子にとって何が幸せなのか分からなくて……」
「ほむらのせいじゃありません……っ!」
「……マーヴィー。また、昔みたいに名前で呼んでくれるのね」
「…………っ、そんなことはどうでも良いのです。それよりも、あれは貴女のせいじゃありません。その選択が咎だというのなら、それは私だって同じこと」
「……そうね。今更、そんなことを言っても仕方がないわよね。……カナメちゃん、私たちの代で終わらせられなくてごめんなさい。……貴女たちに、しり拭いをさせてしまってごめんね」
悲しそうなおばあちゃんなんて、見たくなくて。
私は満面の笑みで言った。
「大丈夫! 私たちに任せてよっ! 絶対、なんとかしてみせるから! だって、おばあちゃんが言ったんでしょ!」
私はくるんと身をひるがえすと、箒に飛び乗った。
「信じる心が、奇跡を起こす魔法なんだってさ!」
私は復活した魔王の肩にいるラルカを目指して、箒で飛び立った。
「いつの間にか、カナメちゃんも素敵なお姉さんになったのねぇ。……魔女になりたい。なんて、あっちの世界で言われた時には、戸惑ってしまったけれど……、本当に立派な魔女になったわね」
「……眩しくて、手が届かない太陽みたいで……、それでもきっと何とかしてくれると信じてしまう……。あの子、昔の貴女にそっくりですよ」
マーヴィーの言葉に、ほむらは嬉しそうにはにかむと、にっこりと微笑んだ。
◇ ◇ ◇
「ラルカ! 聞こえるっ!? カナメだよ、助けに来たよ!」
なかなか、魔王の傍に近づけない。私が遠くから声をかけると、「こないで!」と叫ぶラルカの声が聞こえた。
「ラルカ! 聞こえてるんだね……! お願い、話をさせてっ!」
「……っ、こないで! ラルカに、近づかないで……っ!」
ラルカの感情に反応するみたいに、土の茨が私を遠ざけようと攻撃してくる。
傀儡の魔女の最期の記憶を共有したいけど、魔法が邪魔をして思うように近づけない。それに、ラルカが落ち着いてくれなきゃ……、記憶の共有魔法だって使えない。
「ラルカ、もう、傷つくのは嫌なの……っ!」
そう言うと、ラルカは土の茨に覆われて、茨で出来た繭の中に閉じこもってしまった。
「……ごめんね、ラルカ。もう、ラルカのこと……傷つけないから……っ、ラルカを笑顔にしたいだけなの……っ!」
ここで引いたら、もう、ラルカは私たちに心を開いてくれなくなっちゃう。
私は、近づくものを無差別に攻撃する土の茨を避けながら、箒で飛んで近づいていく。茨が頬をかする。避けきれなかった茨の傷が私の身体に増えていく。それでも、私はこんなところで立ち止まるわけにはいかないんだっ!
ラルカが閉じこもる茨の繭に辿り着いた時には、私は傷だらけになっていた。
私はトゲだらけの繭を素手でこじ開けた。
繭の中には、足を抱えて小さく縮こまってたラルカが震えながら泣いていた。
「カナ、メ……? なんで? ラルカ、近づけないようにしてたのに」
「うん。来ちゃった」
「カナメ、怪我だらけ……」
「こんなの大したことないよ。それよりも、ラルカの方がずっと心が痛かったよね。黙っていて、ごめんね。私も……ラルカのこと、大好きだよ」
私は優しくラルカを抱きしめると、ぎゅっとその手に力を込めた。
「もう、大丈夫だよ……。怖かったよね……。ごめんね……、ラルカ」
私がそう言うと、ラルカは目にいっぱいの涙をためて、大きな声で泣き出した。わんわんと声を上げて泣いてしまったラルカを私は強く抱きしめた。
私は初めて見る、普通の子どもみたいなラルカの姿に胸が苦しくなった。
ラルカにこんな想いをさせた、魔王だけは……、絶対に許さない……っ!
私はラルカの肩を抱く手のひらに、ぐっと力を込めた。




