29話 魔王復活
「何これ……っ! ラルカ! ラルカってば……っ!」
声をかけるが反応がない。
すると、突然、私たちの目の前にフリーニャのお祖母様が現れた。
「お祖母様……っ!? どうして、ここに……っ!」
フリーニャが声を上げると、お祖母様は神妙な顔つきで闇に飲まれるラルカを見つめた。
「…………貴女。本当にあの時の姿のままなのね」
お祖母様の言葉に、ラルカが反応した。
「……どうして、ラルカを知ってるの?」
「貴女、傀儡の魔女の傍に居たでしょう」
「まさか、……お前が、……蒼龍の魔女……?」
「そうですよ」
「……っ! ダルを殺したお前たちを、ラルカは絶対にゆるさない……っ!」
なんで、こういう時ばっかり素直に言っちゃうかなぁ……! お祖母様が蒼龍の魔女だと気づいてしまったラルカが、両手を突き出すと真っ黒な魔力が溢れ出した。
「ねぇっ、なんで……っ!? ラルカの得意魔法は、土魔法なんじゃなかったの……っ!?」
「あの魔力は闇の魔力……、この力を彼女が使っているということは……、私たちは本当に魔王を倒しきって居なかったのですね。……ほむら」
お祖母様が悔しそうに顔をゆがめた。
そうか。
これじゃあ……、ラルカの大切な人、傀儡の魔女に手をかけたお祖母様たちは、むくわれない……。
「ぁぁぁああああ……っ!」
ラルカが叫ぶと、ラルカの影が拡がって、その影の中から魔王の配下がわらわらと現れた。
こんな数っ、フリーニャのお祖母様だけじゃ浄化しきれない……っ!
颯爽と舞うように魔王の配下を浄化していくお祖母様を横目に、私は逃げ惑うクラスメイトたちの姿に目を奪われた。
避難誘導をするターシャとムアン。
オーティ先生も本来の姿で、遠くの方に現れた魔王の配下を浄化していく。
だけど、魔王の配下を浄化出来るのは、五大賢者であるその二人だけだ。フリーニャも戦ってはいるけれど、いくら倒してもすぐに起き上がってくるから、あれじゃあ、こっちがもたない。
このままじゃ、怪我人が出ちゃう……っ!
私が、何とかしなくちゃ……っ!
『浄花の焔よ、咲き誇れ……っ!』
何も、起こらない。
「……っ、どうして……っ!? あの時は出来たじゃん! 一晩中、浄化の魔法を発動出来たでしょ! なのに、なんで……っ、出来ないの……っ!?」
何が違うの?
舞い方が違う?
それとも、あの場所だったから?
「……っく、数が……多過ぎますね。オーディンは……、流石はハーフエルフ、身軽なものですね」
「お祖母様……っ!」
「……貴女のお祖母様ではありません」
「そんなこと言ってる場合ですか! ここは一旦、退いて……っ!」
「どこへ退くというのです?」
「……えっ?」
「私が退けば、被害は拡がるだけ。退路など、私にはありませんわ」
「そんなの、お祖母様が死んじゃう……っ!」
「死んだとしても、ここを退くわけにはならないのです。私は、五大賢者なのですから……っ」
なんなの、それ。
死んじゃったら、それで終わりじゃん。
でも、お祖母様が退いたら、怪我をするのは、死んでしまうのは力のない人たちだ。退けるわけがない。だって、この人はフリーニャが尊敬する、気高きお祖母様なんだもん。
なんで、私には出来ないの……っ。
なんで、見てることしか出来ないの。
お祖母様が息切れしていくのを、私は後ろに庇われながら見ているしかなかった。
「……くっ。やはり、もう……私の力では……。……まったく、歳なんて、とりたくないわ……」
息も絶え絶えでその場にへたりこんだお祖母様に、魔王の配下が襲いかかった。
「……っ、駄目ぇ……っ!」
私は後ろから手を伸ばした。
だけど、その手は届かない。
『浄花の焔よ……っ! フルール・プリフィケーション……ッ!』
蓮の花が地面から芽吹くように、炎の花が一斉に咲き誇り、魔王の配下を一瞬で消滅させた。
「……この、魔法は……っ」
背中に炎の蓮の花を背負って、その人は困ったように眉を下げて微笑んだ。
「待たせてごめんね、マーヴィー。……あの時、二人で決めたことだったのに、貴女一人で背負わせてしまったねぇ」
「………………ほむら」
そう言って、少し曲がった腰に手を当てた、私のおばあちゃんがフリーニャのお祖母様に手を差し伸べた。
「……ほんとに、おばあ、ちゃん……なの……?」
「そうよぉ。カナメちゃんも、助けに来るのが遅くなってごめんねぇ……」
あっちの世界でいつも見た、おばあちゃんの優しい笑顔。それを見てほっとしてしまったのか、私はおばあちゃんに駆け寄ると、一筋の涙が溢れた。
「お祖母様……っ! 大丈夫ですか!」
遠くにいたフリーニャもお祖母様のピンチに気がついたようで駆けつけた。
「蒼龍の魔女……、それに、この炎魔法。あなた、紅蓮の魔女……?」
ラルカがつぶやくと、おばあちゃんは哀しそうに目を伏せた。傀儡の魔女に手をかけた時のことを、思い出しているんだろうか。
「……私たちを憎んだまま、時間が止まってしまったのね。ダル……、私たちは、どうすれば良かったんだろうねぇ……」
ラルカに向ける眼差しは、憐れみと罪悪感だ。
「ねぇ、カナメ。フリーニャ……。おばあさまって、なに? おばあちゃんって、なに?」
ぞっとするほどの濁った瞳で、じっ、と私たちを見つめている。
「「待って、ラルカ(さん)……っ! 私たちは、騙すつもりじゃ……っ!」」
そう叫んでも、もう遅い。
おばあちゃんたちと私たちを交互に見比べて、ラルカはぶつぶつと呟いた。
「フリーニャは、蒼龍の魔女にそっくり……。カナメの魔法は、紅蓮の魔女にそっくり……。じゃあ、二人は……」
『ほぅら、お前は騙されていたんだよ』
「……そっか。二人とも、本当にラルカのこと、だましてたんだね。あの子のいってたとおり」
『お前の友達は僕だけ、そうだよね?』
「ねぇ、ラルカのことだまして、友達のフリをするの、楽しかった……?」
つぅ、とラルカの頬を涙が流れ落ちた。
「「…………っ、!」」
「……カナメも、フリーニャも、好きだったのに。……ラルカ、しんじてたのに。嘘つき、嘘つき嘘つき……っ! みんな、嘘つき! きらいきらいっ、カナメもフリーニャもだいっきらい!」
「ラルカ、待って……っ! お願い、聞いて!」
「ラルカさん、違うんです……っ! これは……」
私たちの言葉なんて、もう聞いてくれるはずもない。
ラルカは溢れ出る闇の魔力をその手に宿して、空に向かって両手を掲げた。
「……みんなみんな、ゆるさない……っ! もう、いい……。一緒にやろ」
『さぁ、僕を呼んでっ! 唱えるんだっ!』
「――ラルカが、世界を壊してあげる」
『アルヴァ・ツィオーネ・レイン――魔王、召喚』




