25話 傀儡の魔女は、私たちが殺したわ
「さて、役者も揃ったことじゃ。魔王の復活の可能性について、話を聞かせて欲しいのじゃ」
理事長の言葉に、全員の視線が私とフリーニャに集まった。私とフリーニャは、封印を解いてしまったこと、私の新しい魔法で浄化したことを話した。
「そうか! カナメは魔王の配下を浄化出来たのか……! ますます、ほむらに似てきたようじゃな」
「そんな火事場の馬鹿力で発動した魔法など、実力のうちに入りません。彼女とは、似ても似つきませんよ」
理事長がそう言うと、すかさずフリーニャのお祖母様が口を出した。私のこと、すっごい目の敵にしてくる……。やっぱり、おばあちゃんと仲悪かったのかな。っていうか、フリーニャのお祖母様って呼ぶの、いちいち長いな。もう、お祖母様って呼ぼう。
「まぐれだと思っておるのか?」
「えぇ。『浄花の焔』を使えるというのなら、この場で証明しなさい」
「浄花の焔……?」
「……彼女、紅蓮の魔女は魔王を払う特別な魔法をそう呼んでいました」
『紅蓮の魔女の、浄花の焔』
おばあちゃんの特別な魔法……。
私は言われたとおり、あの時のように舞を踊った。けれど……、あの時、私の周りに咲いた焔の花は現れることはなかった。
「カナメさん……。どうして、あの時は確かに……」
「魔法は感情に左右されやすい。凪いだ心で安定して出力出来るのが、その人の本当の実力です」
「…………そんな」
「……才能に溢れていた彼女ですら、血のにじむ努力で開花させた力ですよ。あまり、ご自分を過信なさらないほうが良いですね」
お祖母様の正論が胸に刺さる。図星だから、尚更だ。
少しだけ調子に乗っていた私の鼻をポッキリと折るように、自分がまだろくに魔法を使えない落ちこぼれ魔女だということを自覚させられた。……恥ずかしい。
「こらこら☆ マーヴィーの言いたいことは、自分の力を過信せずに努力を怠るな〜ってことでしょ。そんな言葉じゃ、絶対に勘違いされちゃうよ?」
「ふんっ、言葉の意図も読み取れないのなら、そこまでということです」
「そんな言い方ばかりしてると、お孫ちゃんたちに嫌われちゃってもしりませんよ? 貴女の難解なツンデレ言葉を翻訳出来るのは、ほむらだけ。カナメは、ほむらじゃないんだからねぇ☆」
「……そんなこと、貴女に言われなくても分かっています」
オーティ先生がツンツンと頬をつつく。お祖母様はそれを鬱陶しそうに振り払うと、そっぽを向いた。分かりにくいけど……、私のこと、心配してくれたのかな……? いや、オーティ先生の方こそ勘違いじゃない?
もんもんとしていると、「大丈夫、カナメが嫌われてるわけじゃないよ。マーヴィーは、ほむらの厄介オタクなんだよねぇ☆」とオーティ先生がこっそりと私に耳打ちした。それが聞こえていたのか、お祖母様にまた叩かれていたけれど。
「ところで……、いつまでその妙な喋り方でいるつもりなのじゃ、オーディン」
「それなんですけどねぇ、あたしもこれが板に付いてきたっていうか、生徒たちの前だと元の性格とこっちの性格が混ざっちゃうから、こっちにしちゃったほうが喋りやすいんですよねぇ☆」
「うぅむ……。そうか、仕方がない。慣れないこの違和感に、わしとマーヴィーが目を瞑ればよいだけなのじゃな……」
そう言うと、理事長はため息をついた。
「……つまり、カナメの話をまとめると……、わしらが施した魔王の力の封印が解けて、魔王の配下が復活した……、ということなんじゃな。考えたくもないが、封印が解かれた瞬間、肌がざわついた。あの胸騒ぎ……、わしらは魔王を倒しきってはいないのかもしれん」
理事長の言葉に、お祖母様が何かを言いたげな様子で俯いた。
「オーディンの報告にもあった、街がゴーレムに襲われた件も恐らくは魔王復活を目論む者が手引きしておると考えているのじゃ」
「それって、ラルカは……、魔王を復活させようとしている誰かに操られてるってことですか……?」
「そうじゃな。傀儡の魔女を名乗るラルカ……。この少女が何者なのか、心当たりがあるんじゃろう。なぁ、マーヴィー?」
『私のおばあちゃんと、フリーニャのお祖母様が、仲間だったはずの傀儡の魔女を殺した』
嘘だと思いたかった。
きっと、フリーニャも同じ気持ちだ。
でも……、お祖母様のこの表情……。まさか、本当にラルカの敵はおばあちゃん達なの……?
全員の視線が、お祖母様に集まった。
「ねぇ、マーヴィー。あたしと先生がいない間に、傀儡の魔女は魔王の残党に殺されたんだって言ってたよね。あれ……、嘘じゃないよねぇ?」
オーティ先生の丸メガネが鈍く光った。
「ねぇ……。マーヴィーとほむらが、傀儡の魔女を殺したって本当なの……?」
張り詰めた空気が流れる。
「……えぇ。傀儡の魔女は、私たちが殺したわ」
お祖母様はそう言って、目を伏せた。
「貴女たちにも、いつかは話さなければと思っていたわ……。けれど、彼女が居なくなってしまって……、私は進むべき指標を失ってしまった。……いえ、こんなことは言い訳になりません。……少し、昔話をしましょうか」
◇ ◇ ◇
魔王を倒して、残党狩りをしていた頃。
私と彼女に、傀儡の魔女から手紙が届きました。
あの頃のダルは、突然やることが出来たからと言って、私たちから距離を置いて村外れの家に篭もりきりでした。
そんなダルから、『大切な話があるの、助けて』と書かれた手紙が届いたの。私たちは、先生とオーディンに連絡する間もなく駆けつけました。
――その浅はかな選択が、悲劇の始まりだったんですけどね。
久しぶりに会ったダルは、幼い少女を育てていました。
その子の名前は『ラルカ』、魔王に名を連ねる者しか使えないはずの闇魔法を、生まれつき使える少女でした。
闇魔法は魔王の象徴。
悪魔の子と呼ばれて捨てられていた赤ん坊だったラルカを、ダルは拾って秘密裏に育てて居たんだそうです。闇魔法の影響か、ラルカの成長はとても早かったそうです。
ラルカは魔王ではありません。
ですが、魔王は近くにいた村娘のお腹の中にいたラルカに取り憑いて、復活の期を企んでいたのです。
数年、ラルカと共に暮らしていたダルは、絶好の的だったのでしょうね。ラルカに気を許したダルは、知らず知らずのうちに魔王に寄生されていました。
そして、私たちに頼んだのです。
『魔王に乗っ取られる前に、ラルカに気づかれてしまう前に、自分を殺して』と。
魔王はラルカから、ダルへと乗り移った。
ラルカが自分を責めることがないようにと、ダルは沈黙することを選んだのです。そして、私と彼女はダルの最期の願いに加担した。
私たちの誤算は、友人をこの手にかける時に冷静でいられるはずがなかったということ。
私たちがダルを殺すところをラルカに見られてしまいました。
そして、死の淵に立ったダルは、泣き叫ぶラルカに永い眠りにつく魔法をかけました。そして、ダルは死に私たちが正気に戻った時には、ラルカの姿はありませんでした。
ですから、ラルカが幼い姿で生きているのなら、永い眠りから目覚めたばかり。
ラルカにとって、ダルはまだ殺されたばかりということ。
その憎しみを利用して、何者かが魔王復活の手引きをしているのです。
魔王は必ず、生きている。
息を潜めて復活の時を待っているんですよ。




