23話 ツンデレのデレって、破壊力抜群だよね
「タ、ターシャ……、落ち着いて……っ」
あまりの剣幕に私が止めに入ると、ムアンがぺたんとその場にしゃがみこんだ。
「ターシャ、ごめ……、ごめん、なさ……。……ぅ、っく……、ウチが、悪かった……から、お願い……っ、ウチのこと、……っ、嫌いにならないで……っ」
ボロボロと子供みたいに涙をこぼして、ムアンが泣きじゃくった。普段の大人っぽい様子からは想像出来ないその姿に、私とフリーニャが呆けていると……、ターシャが包み込むように抱きしめた。
「……ムアンちゃんは、ほんとにバカだねぇ……。わたしが、ムアンちゃんのこと、嫌いになるわけないでしょ……?」
「……っく、……っひ、ぅ、うぁぁあああんっ!」
抱きついて泣きじゃくるムアンを、ターシャは優しく抱きしめて、その背中をポンポンとあやした。
「…………ムアンちゃん、もう……、絶対にこんなことしたらダメだからね……? 立ち向かう時は一緒に、だよ?」
「……っ、うん……っ、もう、……しない……っ」
「…………まったく。こんなに泣いちゃって……、わたしがムアンちゃんを励ますなんて、小さな頃に戻っちゃったみたい。泣き虫、治ってなかったの?」
ムアン、泣き虫だったのかぁ。それはちょっと意外かも……。
私とフリーニャが怒るまでもなく、ターシャが一番怒ってくれたことで、私たちの怒りは完全に収まっていた。私たちは、ターシャに部屋の中へと招き入れられると、ムアンが落ち着くのを待つことにした。
「えーっと、それ……、落ち着いた……?」
私はターシャの後ろにベッタリと抱きついたまま、離れようとしないムアンを指さした。ぐずぐずと鼻をすすりながらも、絡みついた腕を離すつもりはないらしい。
いつもだったら、「人前でやめてくださいよぅ」って拒否するはずのターシャも、なぜか嬉しそうにムアンの頭を撫でている。
「えへへ……。昔に戻ったみたいで、ムアンちゃん、可愛いね」
ん?
なんか、立場逆転していない?
いつもの冷静で大人びた振る舞いはどこへやら。
ムアンはおずおずとターシャの後ろから顔を覗かせると、「ごめんなさい」と小さな声で私たちに謝った。罪悪感でいっぱいなのか、もう、視線すら合わなかった。
なんて答えたらいいのかな、と私が迷っていると、先に答えたのはフリーニャだった。
「…………はぁ。もう、怒ってませんよ。私達を箒から突き落としたあと……、ムアンさん、私たちに魔法をかけたでしょう」
あの時、フリーニャの魔法に助けられたと思っていたけど、確かにフリーニャが魔法を唱える前に一瞬身体が浮き上がったような気がする。そっか、あれ。ムアンだったんだ!
「ムアンさんが、私たちを傷つけたくてやった訳じゃないことは、分かっています。…………それでも、腹が立つことには変わりありませんけどね」
チクリ、と言葉で指す当たりがフリーニャらしい。それに対して、ムアンはびくりと肩をすくませた。
「……ごめん、なさい」
「……っ、まったく! 本当に、どうしてっ、実行する前に相談しなかったんですか!」
「……え?」
「人質にされているターシャさんには言いにくかったとしても、私に一言相談してもいいでしょう!? …………友達、なんですから」
ツン、とそっぽを向いたフリーニャは、拗ねたようにほっぺを膨らませた。なんだ、そこに怒っていたのか。それが可愛くて、私は思わず、声を殺して笑ってしまった。
ムアンも、そんなことを言われるなんて思ってもいなかったみたいで、目をまん丸くして驚いている。だけど、嬉しそうにまた、その瞳に涙をにじませた。
「……うん、ごめん……。ありがとう、フリーニャ……っ」
「次は許しませんからねっ!」
「うん。……あの、カナメも……、本当にごめんなさい」
「もう、いいよ。何もなかったんだしさ。私の分まで二人が怒ってくれたしね!」
私がにやりと笑いかけると、ムアンは困ったように眉を下げると、そそくさと前髪で表情を隠そうとした。
◇ ◇ ◇
ムアンの事情聴取を終えた私たちは、魔女の森から戻ってきたオーティ先生に、試験中の出来事を報告した。
すると、オーティ先生は「詳しい話は、明日話そっか☆」と言って、そのまま姿を消してしまった。
そして、次の日。
私たちはその件で理事長室に呼び出されていた。一年生として入学したばかりだというのに、理事長室に呼び出されるのも二回目だ。
自分たちで問題を起こしている……、つもりはないんだけど、流石に呼び出されるの間隔が早すぎる気がする。
呼び出されたラルカ以外の四人で、理事長室を訪れると私はコンコンとノックをした。
「失礼しま〜す……」
そっと理事長室の扉を開けると、理事長の席の横には既にオーティ先生が佇んでいた。
私に気づいたオーティ先生が、ひらひらと手を振った。
「待っていたのじゃ、偉大なる賢者の子孫たちよ」
「「「「え…………?」」」」
そう言ったのは、この前の貫禄ある声ではなくて、随分と可愛らしい幼い女の子の声だった。
くるん、と理事長の椅子が回転すると、そこには金髪で白いワンピースを着た幼い少女が、堂々とした振る舞いで座っていた。
「……先生、まずは名乗らないと分かりませんよ」
いつもと違う落ち着きのある声で、オーティ先生が促すと、「そうじゃった、そうじゃった!」と少女は愉快そうに笑って、椅子を立ち上がった。
「わしこそが、この学園の本当の理事長。トゥルビネ・アネモイラなのじゃ! こう見えても、とうに二千歳は超えておるからな。幼子と間違うでないぞっ!」
「に、二千歳……っ!? それって、年齢ですか!?」
「他に何があるのじゃ? それにしても……、カナメといったか。その顔……、ほむらの若い頃にそっくりではないか」
理事長は椅子を飛び降りて近づいてくると、私を屈ませ、私の顔を両手で引き寄せて、懐かしむように目を細めた。なんか、本当に仕草がおばあちゃんみたいだ。
「ほむら、って……、おばあちゃんの名前……。おばあちゃんを、知ってるんですか……? やっぱり、おばあちゃんが……、紅蓮の魔女……?」
私が訊ねると、理事長は小さく頷いた。
「……そうか。ほむらは、孫には何も伝えておらぬのじゃな……。知ってるも何も、ほむらはわしの生徒じゃった」
「生徒!?」
「あぁ。そして、ほむらは後に紅蓮の魔女と呼ばれた。このわし、旋風の魔女トゥルビネ・アネモイラと共に五大賢者に名を連ねてな」
そう言うと、理事長は小さな胸をはって、仁王立ちした。




