22話 ……っ、ふざけないでっ!
「お疲れ様でした。こちら、試験合格の星証です」
学園に戻った途端、事務員さんから星証が渡された。やった! 私たち、本当に合格なんだ!
受領のサインを、と言われてサインを済ませると、キラキラと輝く星証をフリーニャの制服の肩につけた。
「ほらっ! フリーニャも私のつけてよ!」
「いいですよ」
二人揃って鏡の前に立つと、二つ目の星証が肩に輝いている。なんだか、こうして見ると、確かに星証の獲得ってテンションが上がる。
「うん、なんかこれ付けてると凄い人になった気分になるね!」
「ふふっ、実際に二つ持っているというのは、とても凄いことなんですよ。前回、星証を頂いたのはハプニングの末……ですから、本来ならこの試験でやっと一つ目を獲得出来るんですから」
「なるほど……。でも、オーティ先生が話してたみたいにムアンが渡してくれたってことは、ムアンやターシャ、ラルカも合格してるってことだよね!?」
それって、かなり凄いことなんじゃない!?
「恐らく、そうでしょうね」
「それって、すっごいね! ラルカは転入生だけど、私たち四人みんな二つ星なんでしょ!?」
「そうですよ。ですから、二つ星に恥じない態度でいたいものですね」
そう言ったフリーニャは、きっと、ムアンのことを思い浮かべているんだろう。私だって、何であんなことをしたのか気になっている。
まずは、本人の口から聞かなくちゃ! そうしなきゃ、先生たちに報告だって出来っこない。
「……フリーニャ。ムアンのところに行こう。覚悟は大丈夫?」
「……大丈夫です。行きましょう」
私たちは、直接ターシャとムアンの寮室を訪ねた。
コンコンとノックをして声をかけると、ターシャが慌てて部屋の中で転ける音がした。
「カナメちゃんっ! フリーニャちゃんっ! 本当に無事で良かったぁ。怪我は? してないっ?」
ターシャの様子から、ムアンがした事を何も知らないらしい。
「大丈夫っ! 心配してくれてありがとね! それより、ターシャとラルカの方こそ、大丈夫だったの?」
「う、うん。わたしも何が起こったのか、よく分かっていなくて……、あの時、変な影に捕まったと思ったら、地面に転がされたあとは何もされなかったんですぅ」
「何も?」
「はいぃ……。ラルカちゃんと皆のところに戻ろうとしていたら、ムアンちゃんがやってきて……、カナメちゃんたち二人もわたしと同じ影に捕まって、どこかに連れていかれちゃったって……」
「確かに、辻褄はあっていますね」
「辻褄? 助けにいこうと思ったんですけど、場所も分からないし、箒やチョーカーも落としたって聞いて……、わたしたちに何も無かったみたいに、きっと戻ってくるだろうって、あの洞窟に戻って待ってたんですぅ」
そういう話にされていたのか。自分たちも何かをされたわけじゃなかったから、ターシャはその話を信じてしまったんだ。
話をしていると、部屋の奥から神妙な顔つきのムアンが無言でこちらに近づいてきた。
「二人とも、どうしたの……?」
思わず、ムアンを睨みつけてしまった私とフリーニャ。そして、ずっと無言のムアンに違和感を感じたのか、ターシャがムアンに問いかけた。
「どうして、三人とも様子がおかしいの……? もしかして、試験の時、わたしがいなかったあの時に何かあったの……?」
ムアンの沈黙を肯定と捉えたのか、ターシャがムアンに問いかけた。
「……ねぇ、ムアンちゃん。わたし、一つ引っかかっていたことがあるんです。試験でオーティ先生から逃げる時、どうしてあっちに逃げよう、なんて言ったの?」
「別に。あの時は夢中で、先生から離れることだけ考えていたから……」
「それ、嘘だよね。だって、わたしが探索魔法を使った時、ムアンちゃん言ってたもん」
一息ついて、ターシャがムアンの目を真っ直ぐ見つめて言い放つ。
「ここから先は試験会場外だから、はみ出さないように気をつけないといけないね、って。二人を連れて逃げた場所、試験会場からはみだしてた……よね?」
ムアンが初めて、狼狽えた表情をした。
きっと、私たちから問い詰めても沈黙するつもりだったんだろう。だけど、ムアンの弱点……。ターシャに見つめられてしまえば、ムアンはそれを無視することは出来ないはずだ。
「ねぇ、ムアンちゃんは気づいていたんだよね?」
念を押すターシャに、反射的にムアンが答える。
「……気づいていたよ」
「じゃあ、どうしてそんなところに誘導したりしたの? 試験が中断されて、先生たちが探し始めてからも二人が行方不明だったことと、何か関係があるの?」
「…………あの場所に、二人を誘導させる必要があったからだ」
ムアンは罪悪感か、目も合わせたくないだけなのか、決して私たちを見ようとはしなかった。
「それって、魔王を復活させる為に、私たちを神殿があったあの場所に誘導したってこと?」
「…………っ、」
あぁ、正解だ。
ムアンはあの下に神殿があることも、魔王が封印されてたことも、私たちがその封印を解けることも知っていたんだ。胸が、苦しくなった。
「魔王……? 封印……? なんのこと……っ!? ねぇ、ムアンちゃん! 悪いこと、してたわけじゃないんだよね!?」
このままじゃダメだ。
そう思った私は、静かに告げた。
「ターシャ。私たちは影に攫われてなんかいないよ。あの時、私たちはムアンに箒とチョーカーを奪われて、突き落とされたんだ」
「…………え? うそ、だよね……?」
「嘘じゃないよ。ムアンは魔王の手先かもしれないんだ」
「違う……っ! あそこに誘導しろとは言われてた、だけどっ! 魔王が封印されてるなんて……、二人にそれを解くことが出来るなんて、そんなこと、ウチは知らなかった……っ!」
ムアンが叫ぶ。
そして、ハッ、と自分の口を手で塞いだ。自白してしまったムアンを、ターシャが真っ直ぐ見つめている。
「……ぁ、……あぁっ……、これは……、その……」
「ムアンちゃん。誘導しろ、なんて誰に言われたの……? 危険な目に遭うかもしれないって分かってて、友達のことを売ったの……? どうして、そんなことをしたの……? 黙ってないで、ちゃんと答えて……っ!」
珍しくターシャが声を荒らげた。
それに、ムアンがビクリと肩を竦めた。
「それは……、その……」
「ムアンちゃんっ!」
「ご、ごめ……っ、その……、ターシャを……人質にとられてたんだ……。魔王を復活させる、とか言われて……最初は半信半疑だったけど……、その力を見せつけられて、例え魔王じゃなくても……、叶いっこないって思った。ウチがやらなければ、ターシャを魔王の餌食にするって言われて……、断ることは、出来なかった……、ほんと、本当に、ごめ……っ、ごめん、なさい……」
震えながら、ムアンが私たちに土下座をした。
ターシャを人質に……。それは、ムアンを手に入れる上で最強のカードに違いない。私もフリーニャも怪我はなかった、だからこんなに冷静でいられるのか、少しだけ同情の気持ちが湧き上がってくる。
土下座を止めさせようと声をかけようとした、その時。
――バチン……ッ!
と、鈍い音が部屋の中に響き渡った。
ターシャが、土下座するムアンの顔をあげさせて、両頬を思いっきり叩いた音だった。
猫耳をぷるぷる震わせて、しっぽの毛を逆撫でて、涙がにじんだ瞳で訴えた。
「……っ、ムアンちゃんのバカ! わたしが人質……? わたしの為にそんな事するなんて、この……っ、バカッ! わたしの為にムアンちゃんが手を汚す必要なんてないんですぅっ! ……っ、ふざけないで!」
フー、フーと唸り声も聞こえてくる。
「足手まといだって、わたしが一番実力がないのなんて分かってるよ……っ! だけど、魔王が復活するなら、わたしだって、わたしだって……、皆と一緒に戦うよ……っ! 勝手に一人で諦めて、勝手にわたしのことを守らないで……っ!」
普段はおっとりしているターシャの剣幕に、その場にいる全員が圧倒された。




