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契約のキスでツンデレお嬢様とパートナーになったけど百合展開になるつもりはありません!  作者: 日華てまり


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21話 五大賢者 夢幻の魔女

 


『炎の花よ、大輪の花を咲かせなさいっ! フローラ・フローリーッ!』


 私が唱えると、魔花(マカ)の種が巨大な炎の花に姿を変える。天まで届きそうな勢いで空へと伸びる枝に飛び乗ると、私たちは地上に帰還した。


「……フリーニャ、外だよっ!」


 私たちは顔を見合せて喜んだ。

 すると突然、私たちの間ににょきっとオーティ先生が生えてきた。いや、どこからともなく現れた。


「おっ、この巨大な炎の花。やっぱりカナメで正解だったね〜。おかえり、二人とも無事で良かったよ☆」


 軽い調子で現れたオーティ先生に混乱していると、オーティ先生は聞いてもいないのに、ぺらぺらと近況を話し始めた。


「いやぁ、本当はもっと早くさがしてあげたかったんだけどねぇ、あたし達も想定外なことが起きてたっていうか……、二人は知らないと思うけど、試験は昨日の夜で中断しちゃったんだよね☆」


「中断!?」

「中断ですかっ!?」


 驚く私たちにオーティ先生はてへっ、と舌を出すと、「ごめぇん☆」と謝った。いや、こっちは死ぬ思いをしてたのに、謝って許される問題じゃないでしょ!


「どういうことなのか、説明なさってください!」

「まぉまぁまぁ、そんなに焦らないでって。あたし達だって、本当に想定外っていうか、教師たちは皆その処理に追われてたっていうか……。昨日の夜、見たことない魔物が魔女の森中に発生したんだよねぇ」


 ギクリ、と背筋が凍った。


 その魔物の封印を解いたのは、他でもない。

 私たちだ。


「そんなわけで生徒は全員、学園へ強制転移させて、試験はその時点で中断になったんだけど……、カナメもフリーニャもチョーカーを落としたっていうから、回収してあげられなかったんだよねぇ☆」

「そうでしたか……」

「今まで、試験を途中で中断するなんてことはなかったみたいだから……、他の先生たちもバタバタしてる。まぁ、異例なことだけど……、試験結果は昨日までの二日間で判定するってことになると思うよ☆」


 そう言うオーティ先生は汗の一つもかいていないし……、この人、本当に仕事してるのかな。森中に現れた魔王の配下は先生たちが何とかしたって言ってるけど、オーティ先生があれをどうにかしたなんて、いまいち信用出来なかった。


「……あのっ、オーティ先生……っ!」


 フリーニャが思い詰めた表情で声を上げた。


「ん? 次はなんの質問かな?」

「いえ……、その……」


 フリーニャにしては歯切れが悪い。

 もしかして、私たちで魔王の封印を解いちゃって……、オーティ先生に言うつもりなの……?


 試験を中断するレベルで、神殿の中だけじゃなくて森の中にまで被害が拡がっていたと聞いた私は、正直なところ怖気づいていた。


 心の準備が出来てから、先生たちに話そうと思っていたけれど……、優等生のフリーニャは黙っていることすら、怖かったのかもしれない。

 私は言い出すことが出来ないフリーニャの手を、ぎゅっと握った。


「あのっ、昨日までってことは……、私たちって脱落ってことですか?」


 私はとりあえず話を逸らして、試験のことを問いただした。


「ふっふっふっ、どうだと思う?」

「いや、変に焦らさないでくださいよ! 普通に重要なことなんだから!」

「ごめん、ごめん。本当に脱落ならこんなこと言わないよ。二人は合格でいいよ、こうして自力で戻ってきてるわけだし、昨日までの間で先生に捕まらなかったって判定することになったよ☆」

「本当っ!? 良かった〜! チョーカー無くしてたし、絶対にもうダメだと思ってた!」


 私が言うと、フリーニャが不思議そうに首を傾げた。


「でも……、どうしてですか? 確かに、(わたくし)たちはチョーカーを持っていませんし、ルールに則れば不合格で然るべき……」


 フリーニャ! せっかく、合格でいいって言ってるんだから、蒸し返さなくてもいいじゃん! 真面目なんだから、と心の中で悪態をつくと、私はオーティ先生を恐る恐る盗み見た。


「本当に無くしていたら、不合格だったねぇ☆ でも、二人のチョーカーは、試験を中断した時にムアンから預かってるんだよねぇ」


「…………え? ムアンから……?」

「…………え? ムアンさんからですか……?」


「昨日、あたしの攻撃から逃げたあと、箒から落ちて行方不明になってたんだって? チョーカーまで落とすなんて災難だったけど、不幸中の幸いだったねぇ。中断時点で同じグループのメンバーが持っていたことでただの落し物、不注意って話で片付いてるよ☆」


「「………………」」


 私たちの沈黙をどう受け取ったのか、「ムアンに感謝しないとだねぇ☆」と言うと、くるんと杖を取り出した。

 私も、フリーニャも、ムアンにされたことを言い出せなかった。


「じゃ、怪我もしてないみたいだし、二人も学園に転移させるからねぇ〜。はーいっ、いってらっしゃーい☆」


 あっ、と声をあげる暇もなく、私たちは学園へと戻されてしまった。




 ◇ ◇ ◇



「これで全員の転移が完了、っと」


 オーティ先生の背後に、魔王の配下の残党が忍び寄る。


 ――――キィィィィン。


 オーティ先生は振り向くことなく、魔女の森一面を氷漬けにした。呪文すら、唱えていない。


 パチン、と指を鳴らすと、氷が一瞬で砕け散って霧散した。


「せっかく解決ムードなんだから、水を差しちゃダメだよねぇ☆ それにしても……、あの子たちだけで封印を解いちゃうなんて……、あたしもお仕事しないとなぁ。うーん……、これは流石に()()のこと、呼び出さないとマズイよねぇ☆」


 オーティ先生が、遠く離れた相手と会話の出来る魔法を発動した。


「……先生〜、ちょっとこっちでマズイことになっちゃって、戻ってきてくれませんかぁ☆」

「………………なんじゃ、その話し方は。気味が悪い」

「そうですかぁ?」

「要件はなんなのじゃ。普通に話せ」


 オーティ先生は、ごほんと咳払いをすると、ポニーテールの紐を解いて長い髪をかき分けた。そして、丸メガネを取って胡散臭い笑顔をやめた途端、まるで別人かのようなオーラを放った。


「……先生、お久しぶりです。昨夜、魔王の封印が解かれたことは気づきましたか?」

「あぁ、それは感じていた。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「あの封印、五大賢者が全員揃っていなくても解けちゃうんですね。それに……、まさか、子孫にも反応するとは思いませんでした」

「子孫……? あぁ、例のあの子たちの孫が入学したと言っておったな」


 ふぅ、と頬に手を当てて、色っぽい仕草でオーティ先生がため息をついた。


「本当に、まだまだ知らないことが沢山です。あたしもまだまだヒヨっ子ですね☆」

「…………何がヒヨっ子だ、変な言葉遣いが抜けておらぬぞ」

「……この学園で姿を偽ってから、ずっとこのキャラクターでやってきましたからね。癖にもなりますよ」

「……オーデンよ、お前ももう、百歳は超えたんじゃなかったか?」

「先日、百二十歳になりました」

「そうか……、そんなに経つのか。分かった、わしもすぐに学園に戻るのじゃ。もう暫く、留守は頼んだぞ、オーディン」


 謎の相手との会話を終えると、オーティ先生……、オーディンは長い髪をなびかせて、艶めかしげに微笑んだ。


「オーティとしての教師生活も、結構気に入っていたんですけどねぇ。私も【夢幻の魔女(お仕事)】に戻らなければなりませんねぇ」


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