20話 月光の下のお姫様
「奇跡なんて……っ、簡単には起きないから奇跡と呼ぶんですよ……っ」
フリーニャが悲痛な声で叫んだ。
「まぁまぁ、フリーニャにはネガティブなんて似合わないよっ! それに私、今思い出したんだけどさ。おばあちゃんから聞いたおとぎ話ですっごい好きだったシーンがあってさ、魔王の配下を鎮める銀髪のお姫様の話。これって、もしかしてフリーニャのおばあちゃんのことなんじゃない?」
「……お祖母様の……?」
「そう。月の光には聖なる力が宿るの。星の力と月の力、そして妖精の力を借りてお姫様が舞を踊ると、魔王の配下が浄化されていくの!」
興奮したように話す私に、フリーニャが水を差す。
「そんなのは、カナメさんの世界のおとぎ話でしょう……?」
期待して、もしも違ったら。それが嫌で、否定的なことを言うんだろう。私にはわかるよ、本当は信じたくてたまらないって表情してるもん。
「違うよ! フリーニャが言ったんでしょ! 私のおばあちゃんが紅蓮の魔女だって。だったら、試してみるのも悪くないんじゃない?」
「そんな、確証もないのに……、あの魔王の配下の中に突っ込んでいく気ですか……!? 危険です……っ!」
「このまま何もしなくてもやられるだけ、立ち向かわなくっちゃ。それに、もしも違ったとしても、この前の授業でオーティ先生が言ってたでしょ」
「オーティ先生が、何を……?」
私は不敵に笑って、杖を握りしめた。
「私にしか使えない固有魔法の呪文は、教科書なんかには載ってない。大切な呪文は、自分の心の中にあるって! だから、私はフリーニャを救いたい私の願いを……、この気持ちを魔法に変えるよっ!」
地面を強く踏みしめて、私は舞を踊り出す。
おばあちゃんから聞いた、あの歌を歌いながら。
おとぎ話のお姫様みたいに、神殿に差し込む光の下で舞い踊る。
幻想的に、神秘的に。
「この歌は……、昔、お祖母様が歌っていた……。これは……、呪文……?」
舞なんて適当だ。だけど、妖精がいるなら一緒に踊りたくなるような、綺麗な舞を魅せてやる。
私の持つ杖から光が溢れ、宙に光と炎で出来た花を描いていった。
いけるっ!
私は夢中で踊った。なんだか、身体も軽かった。
私が踊るたびに、炎の花が咲いていく。星の光を散りばめたみたいな小さな光の玉が浮かび上がる。
そして、魔王の配下がそれに触れた瞬間、光に溶けて消えてしまった。
「……そんな、まさかっ!」
私はフリーニャに向かって、満面の笑みを向けた。
「ほらっ、ね? 出来たでしょ!」
惚けた表情のフリーニャが、私のことを見つめていた。
◇ ◇ ◇
「……っはぁ、……っふ、……はぁ、っはぁ」
私は魔王の配下を浄化し終えるまで、一晩中踊り続けていた。
最後の一体を倒した瞬間、がくんと膝から崩れ落ちた。私、やりきったんだ……。
ふらりと倒れた私を、フリーニャが支えてくれたのが分かった。でも、もう目を開ける気力もなくて、私は疲労感に身を任せてそのまま目を閉じた。そんな私が眠ってしまったと勘違いしたのか、フリーニャが優しい声で語りかけてきた。
「お疲れ様です、カナメさん。とても……、かっこよかったですよ」
なんだ、そんなの。目が覚めてる時に言ってくれたらいいのに。目を閉じている私を地面に寝かせないようにと、フリーニャが膝枕をしてくれた。
そして……、ちゅっ、と私の唇に触れるだけのキスを落とした。
なに、それ……。ちゃんと、起きてる時にして、よ……。抗議しようとしたけれど、どうしようもない眠気に負けて、私は意識を手放した。
「……すぅ、…………すぅ」
「……全く、本当に実現させてしまうなんて……、カナメさんは凄い人ですね」
そう言うと、フリーニャも安心したのか、うとうとと瞳を閉じた。
◇ ◇ ◇
「ふぁぁふ……、よく寝た〜。って、すっごい明るいんだけど! 今って、何時!?」
「試験最終日のお昼くらいだと思いますよ」
目を覚ますと、すっかり空は明るくなっていた。落ちてきた穴以外が暗いから、普通に寝れちゃったなぁ。
「なんだ、なら良かった。……って、あれ? フリーニャ、なんかリップよれてるよ?」
私がそう言うと、かぁぁ、と音が聞こえてきそうなほどの勢いで、フリーニャの顔が真っ赤に染まっていった。
「の……っ、野宿していたんですから、当然でしょう! ほらっ、カナメさんも口に汚れがついてますよ!」
「いたたたっ! 自分で拭けるってば、そんな強くこすんなくてもいいじゃん」
ぐいぐいと唇をこすられる。あれ、昨日の夜……、なんかあったような……。うぅん、思い出せないや。
私は早々に思い出すことを諦めて、フリーニャに問いかけた。
「ねぇねぇ、そういえば……、この場合って試験はどうなるんだろ?」
「不合格になるんじゃないですか?」
「えーっ! 先生に捕まってないのに!?」
「そうですけど、私もカナメさんも、チョーカーないじゃないですか」
「うわー、最悪……っ。もう! ムアンってば、なんであんなことしたんだろ! 仲良くなれてきたって思ってたのに!」
私が髪をぐしゃぐしゃにして声を上げると、フリーニャが自嘲気味に言った。
「それを言うなら、私は幼い頃からの幼なじみですよ。……何か、複雑な事情があるとは思いたいですが……、私たちを突き落として得られるものなんて……ない、ですよね」
「うーん。首席のフリーニャを不合格にして蹴落としたかったかった、とか?」
「そんなことで命を狙われたらたまりませんよ! それに、ムアンさんだって、そんなことする人じゃ……」
落とされたばかりの時はフリーニャだって怒っていたくせに、私がムアンを悪く言おうとすると、責めきれずに庇ってくる。そんなフリーニャが微笑ましくて、私は笑ってしまった。
「あははっ、冗談だよ。私だって、分かってるよ。ムアンがいい人だってことは。だから……、こんな事をしなきゃいけなかった理由、早く脱出して直接ムアンに聞き出そう! ターシャ達も心配してるだろうしね!」
「はいっ! でも……、私の箒もカナメさんの箒もないのに、どうやって……」
「ふふんっ、褒めてくれてもいいんだよ?」
私はもったいぶって、ポケットをゴソゴソ探ると右腕を突き上げた。
「じゃーんっ! 魔花の種〜! 昨日、魔王の配下を倒してた時、ハイになってたのかな? あんなとこにある! って見つけて拾っておいたんだよね!」
自慢げな私にフリーニャが抱きついた。
「わっ! っとと……」
「凄いですっ、カナメさんっ! 最高ですよ……っ!」
私はフリーニャを受け止めると、そのままくるくると回って喜びあった。
「じゃあ、派手に帰還といきますかっ!」
私は、にやっと歯を出して悪戯っぽく笑った。
「えぇっ! 盛大にやってやりましょう、カナメさんっ!」
「フリーニャ、私の手を離さないでねっ!」
徹夜明けのテンションってやつなのか、吊り橋効果ってやつなのか。珍しく、高めのテンションでノってきたフリーニャの手を握って、私は渾身の全魔力を込めて高らかにあの呪文を唱えた。
『炎の花よ、大輪の花を咲かせなさいっ! フローラ・フローリーッ!』




