14話 猫耳は食べ物じゃないですよぅ……っ!
「なんか、懐いてるね?」
ムアンとターシャが、くっついている私たち三人を見て言った。
あの、仲直り? から数日。ラルカは私とフリーニャの後ろをついてくるようになった。私が離れてる時の二人を見たけど、なんか、カルガモの親子みたいで可愛い。
「ラルカ、カナメとフリーニャ、好き。……やさしい」
うん、かわいい。
あれから、フリーニャも冷静になったようで、ラルカを気にしてあげてるみたいだ。今も、ラルカの頭を撫でてるし、最初はどうなる事かと思ったけど仲良くなってくれて良かった。
問題の先送りでしかない、とは分かっていても、今の心地よい空気を壊したくはない。
ムアンがフリーニャにこそこそと耳打ちをした。
「大丈夫? 打ち解けたみたいだけど、この子にあのことは……」
「伝えていませんよ。オーティ先生からもそういう指示ですし、それに……、ラルカさんはあまりにも、純粋なんです。悪いことは悪いと謝れますし、……自分から街を壊すような子ではない、と今なら分かるんです」
子どもに好かれやすいターシャが、自分の猫耳を撫でさせてあげている。ラルカの笑顔はまだ見たことがないけれど、その声色は楽しそうだ。
「つまり、誰かに唆されたってわけ?」
「そうでしょうね。ラルカさんの傍にいれば、絶対にその何者かが接触してくるはずです。だから、なるべくラルカさんを気にかけておこうと、カナメさんとも決めたんです」
「ふぅん。まぁ、フリーニャがいいなら、ウチは別にいいんだけどさ」
「気にかけてくれてありがとうございます」
私はそんな二人の話を後方で腕を組みながら聞いていた。その間にも、ターシャは撫でられ続けていたようで、ちょっとだけとろけてる。
「……ふふっ、ラルカちゃん、撫でるの上手ですね」
「ターシャ、ふわふわ」
無意識なのか、ラルカの手にスリスリと耳をこすりつける。それを見ていたムアンが、ターシャに後ろから抱きついた。押しつけた大きな胸がこぼれ落ちそうだ、と私は他人事で見つめながら、そっとラルカを引き剥がした。
多分、教育上良くないシーンをお届けすることになるな、と私なりの配慮ってやつだ。
「……ひゃ……っ、ムアンちゃん……っ!?」
パクン、とターシャの猫耳をムアンが口に含んだ。私はさっとラルカの顔に手をかざして、目隠しをした。うん、あれは子どもが見ちゃいけない。
ペロ、とムアンが耳の内側を舐めると、ターシャが恥ずかしそうに身をよじった。いや、あれは私達も見ちゃダメなやつでしょ。こんなとこで何やってんだ。
隣にいるフリーニャを見ると、顔を真っ赤にしながらも、二人の様子をガン見して、あっ、そんな……なんて声をあげている。
「ゃ……っ、ん……。ダメ……っ、わたし、耳……弱いんですぅ……っ、ん」
目を潤ませて、逃れようとするターシャを、後ろからガッチリと捕まえているムアンは大変ご満悦だ。
ムアンの気が済んで解放されると、ターシャはヘナヘナと机に突っ伏した。
私に目隠しをされて何も見えていなかったラルカが、よく分からずにターシャの頭をなでなでして慰めていた。
「はーい、休み時間終了! 今日はなんと! 皆がお待ちかねの『前期サバイバル試験』の説明をするよ〜☆ はい、そこ! 席に座って座って!」
オーティ先生が手を叩くと、私たちは急いで席についた。
「と、いうわけで。今年はただのピクニックだった魔女の丘の遠征でハプニングがあった訳だけど……、全ての魔女が通ってきた過酷な試験、前期のメインイベントと言ったらこれだよね☆」
私はヒソヒソと隣に座っているフリーニャに声をかけた。
「ねぇねぇ。前期ってことは、後期もあるのかな?」
「後期は別の試験がありますよ。それより、前期の成績を決める大切な試験です。今度こそ、カナメさんはしっかり説明を聞いて下さいね?」
「……はい」
にっこりと微笑むフリーニャから、圧を感じる。入学式の説明で居眠りしてただけだもん。そんなに引っ張らなくてもいいじゃんか……。
「サバイバル試験は、その名前の通り、サバイバルをしてもらうからね! 遠征の時と同じで四人組グループをつくって、三日間その四人だけで危険な『魔女の森』で過ごしてもらうよ☆」
「危険って、先生はついてきてくれないんですか?」
「試験なんだからついていくわけないでしょ〜! それに、チーム分けしてるんだから教師の人数も足りないしね」
それもそうか。でも、それでどうやって試験の結果が出るんだろう?
「試験の内容は簡単だから覚えてねぇ☆ 皆にはこのチョーカーをつけてもらいます! これで、運営本部から皆の位置とか、怪我の状態を感知してるから外さないでねぇ☆ その位置情報を頼りに、運営本部が飛ばした使い魔を通して、皆の様子を監視します!」
そう言って、オーティ先生はリボンの形のチョーカーをヒラヒラと見せびらかした。
「んで、本題ね。試験内容だけど〜、なんと! あたし達教師が仮想敵として、エリアごとに配置されます! サバイバル試験の合否は、最終日までこのチョーカーを教師に取られないようにすること。勿論、普通に魔物も出るから、サバイバル中のリタイアも不合格だよ〜! 楽しみだよねぇ☆」
「ちょっ、先生に取られないようにって、そんなの生徒に不利すぎる!」
「そんなことないよ〜。あくまで試験だから、あたし達は全力出さないし、こういう動きをするようにってゲームのNPCみたいな制約もあるから、同じルートを回ってたりするしね。それに教師が三人に対して、生徒の数は二百人。ふつーに、一つのグループを相手している時間も短かそうだよねぇ☆」
「そう言われたら、そうなのかな……」
オーティ先生に丸め込まれて、私が首を傾げていると、フリーニャが質問した。
「サバイバル能力と、戦闘魔法の能力を見る……ということですか? 人によっては、適性が高い魔法が戦闘に有利とは限らないと思いますが……」
「さっすが、首席。いい質問だねぇ☆ 生徒側はチョーカーを持ち続けて、三日間を生き延びるのが最優先。戦ってもいいし、箒で逃げ切っても、見つからないように隠れてもいい。とにかく、自分に何が出来るのか。グループメンバーが何の魔法が得意で、何を掛け合わせたらどう動けるのか。そういう出来ることや出来ないことを把握して判断するのが大事ってことらしいから、協力して頑張ってねぇ☆」
なるほど……。
ターシャは探索魔法が得意だけど、攻撃魔法は苦手だって言っていた。そういう子も工夫次第で活躍出来るように、合格できるようになってるってことね。
私が使える魔法は、花を咲かせる魔法だけ。自分で言ってても使えなさそうだなぁ、なんて思うけど、四人で協力してドラゴンを倒した時みたいにやれば、なんだか出来るような気がする。
それに、私には箒だってあるもんね!
フリーニャ達も同じことを考えているのか、交わった視線に、頑張ろうね! と念を送った。
「あー、そうだ。カナメのとこは、ラルカを入れてくれるかな? 人数が足りないんだよねぇ」
私たちのクラスは、元々、四人グループでピッタリ分けられていた。転入生のラルカは、どこかのグループに入れるしかない。
だけど、きっと、それだけが理由じゃないことは分かりきっている。
ラルカの背後に何者かがいるのなら、サバイバル試験は混乱を起こすには絶好の機会だ。
ラルカに接触してくるやつがいるかもしれない。
ラルカの目的は、まだ、聞けていない。
だけど、大切な人を失って……、どうしていいか分からずにいる幼いラルカを利用して、自分の手を汚さずに何かを企んでいるやつがいるなら、絶対に許せない。
パチン、と両頬を叩いて気合を入れると、私は試験に向けて自分を奮い立たせた。




