12話 お前たちが、殺した
「キャアァァァッ!」
当然現れた大量のゴーレムに悲鳴が上がる。
「ゴーレムッ!? 教室で魔法使うって、何してんの!」
「そんなことより、このゴーレム……。まさか、昨日の……」
「ええっ!? 犯人が転入生ってアリ!? っていうか、まだ子どもだし! どうなってるの……っ!?」
このタイミング。
明らかに昨日、街に出たゴーレムはきっとこの子の仕業だ。だけど、こんな小さい女の子が……、あんなに大きいゴーレムを出せるの? っていうか、もっと気になること言ってたよね!?
「こんな子どもが五大賢者……? そんなはずない……っ、だけど……ゴーレム、それに……この魔法……、どうして……っ!」
いつものお気楽な様子はなく、オーティ先生が叫んだ。
私は、昨日の事件の時にフリーニャから聞いた、五大賢者の話を思い出した。傀儡の魔女は、土魔法を得意とする魔女。それってつまり……。
「五大賢者の傀儡の魔女って、本物なの!? この子がフリーニャのおばあちゃんと同じ凄い人ってこと!?」
「そんなわけないでしょう……! お祖母様とともに魔王と戦った方ですよ、あんなに小さな子供のわけがありません。……それに、傀儡の魔女は……、魔王の残党にやられて死んだと聞いています。つまり、もう……この世にはいないんです……!」
フリーニャの言葉に、ピクリとラルカが反応した。
「…………魔王の残党なんて、うそ。……ダルは、お前たちに殺された」
「私たちに、殺された……?」
ダル、というのが本物の傀儡の魔女なんだろうか。
ラルカは、親の仇でも見ているみたいに、フリーニャを睨みつけている。隣にいる私にも伝わるくらいの殺気に、足がすくんでしまう。
「ねぇ……っ! さっきから、フリーニャのこと狙ってるみたいだけど、知り合いじゃないんだよね!?」
「知りませんよっ。……でも、彼女は私のことを蒼龍の魔女と呼んでいました……。まさか、私をお祖母様と勘違いしている……?」
そうだとしても、それはつまり。蒼龍の魔女、フリーニャのおばあちゃんが、傀儡の魔女を殺したということになる。フリーニャがこんなに尊敬してる英雄が、仲間を殺した……? 信じられなくてフリーニャを見ると、同じことを考えているのか、酷く怒った表情をしていた。
「ねぇっ、それ。人違いってことないのかな……っ!? 私たちは貴女の大切な人を殺してないし、フリーニャのおばあちゃんだって、そんなことするような人だとは思えないよ……っ!」
私が叫ぶと、ラルカは手に持ったぬいぐるみにひそひそと話しかけた。
「人違い……? なに、いってるの……? お前たちがダルを殺した。……うん、そうだよね。間違えるわけ、ないよね。……その顔、ラルカ、覚えてるもん」
「ダメだ……っ、この子、全然話を聞いてくれない……っ!」
「このままじゃ、怪我人が出ます……っ!」
絶え間ないゴーレムの攻撃に、私たちは避けるのでいっぱいいっぱいだ。
「……っ! フリーニャ……ッ、危ないっ!」
逃げ損ねたクラスメイトを庇って、フリーニャが姿勢を崩した。
咄嗟に手を伸ばしたけど、……まずいっ、届かない……っ!
その瞬間。
ゴーレムが一斉に霧散して、静寂がおとずれた。
「……何っ!?」
次の攻撃は来なかった。
突然の出来事に私は声を上げた。すると、いつの間にか意識を失っていたラルカを抱き抱えた、オーティ先生が静かに教壇に立っていた。
「オーティ、先生……?」
オーティ先生がやったんだろうか。いつものお気楽な感じとは、全く雰囲気が違う。
私は、恐る恐るオーティ先生に尋ねた。
「今の、先生がやったの?」
先生がくるりと振り返る。
緊迫した状況だから仕方ないんだけど、いつもの大袈裟な笑顔がないと、ちょっとだけ怖い。そんなクラスの空気を感じ取ったのか、オーティ先生がいつもの調子で明るい声を出した。
「そ! あたしも結構やるでしょ〜! まぁ、生徒の暴走くらい簡単に止めれて当たり前だけどねぇ☆ あ、これは魔法で眠らせてるだけだから大丈夫。はーい、安心して! あたしはちょっとこの子を保健室に連れてくから、自習しててね☆」
そう言うと、ポンッ、とラルカを抱えたまま、オーティ先生が教室から姿を消した。
◇ ◇ ◇
オーティ先生は保健室へと向かう途中、あんな事をしでかしたとは思えない無垢な寝顔のラルカを見つめて、小さな声で呟いた。
「お前たちが殺した、ね」
ラルカは、フリーニャを若い頃の祖母と見間違えているようだった。それなのに、執拗に「お前たち」と言っていた。
「まさか……、カナメのことを紅蓮の魔女だと勘違いしている……?」
カナメの祖母が五大賢者、紅蓮の魔女だと知っているのは、現状ではオーティ先生だけだろう。その祖母とカナメを見間違えているということは、ラルカは二人の五大賢者の姿を知っているということだ。
見た目も、言動も幼いラルカが、五大賢者の若い頃の姿を知っているとは思えない。けれど、ただの虚言ではないことは明らかだった。
「紅蓮の魔女と蒼龍の魔女。その二人が、傀儡の魔女を……、殺した……?」
オーティ先生の丸メガネが鈍く光った。
「この子の正体、傀儡の魔女の最期。ちょっと、本気を出して、あたしの方でも調べてみる必要がありそうだねぇ☆」
そして、二人の五大賢者の孫が学園にいるタイミングで、ラルカが転入してきたこと。この学園内に、この子を手引きした奴がいる。
「あの人がいない間に面倒なことになっちゃったなぁ。あたし、こういう役割向いてないんだけど……、でも、この学園を舐めてるってことだもんねぇ。まずは、そいつを見つけ出してお仕置しないとね☆」
カツン、カツンと、オーティ先生の靴音が長い廊下に響き渡った。




