10話 魔王と創世の魔女
突如、街中に咲いた巨大な炎の花に、ざわざわと人々が集まってきた。その中心で気まずそうにしていると、フリーニャが「胸を張ってください。街を救ったのは、カナメさんなんですから」と、私の背中を押した。
「そ、そうだよね。私が街を壊したわけじゃないもんね! ……でっかい花は咲かせちゃったけど」
魔花を見上げていると、騎士団風の制服を着た集団を避けるように、地上で人混みが割れるのが見えた。
「魔法警備隊ですね……。事情聴取はされるでしょうけど、私達は騒ぎをおさめたわけですから、すぐに解放されますよ」
「そう? 器物破損とかで捕まったりしない?」
「大丈夫でしょう。ゴーレムも街を破壊しながら進んできたようですし、もしも、そのような事を言われるようでしたらお父様に連絡しますから」
「うおぉ……、さっすがお嬢様。頼りになるぅ……」
フリーニャの圧力のある微笑みは、上流階級で揉まれてきた貫禄を感じさせる。今後は怒らせないように気をつけよ。いや、既に怒られてばっかりだけど。
魔法警備隊が私達を見上げて声をかける。
「我々は魔法警備隊。事情をお聞かせ願えますか?」
急いで降りると、私達は魔法警備隊に囲まれてしまった。あっちでいう警察みたいなものなんだよね……。なんだか落ち着かなくてそわそわしていると、私を庇って前に出たフリーニャが、堂々とした立ち振る舞いで事件の経緯を話し始めた。
「なるほど……。事件の解決にご協力ありがとうございます。しかし、貴方がたもゴーレムがどこから出現したのか分からないとは……困りましたね」
「街の被害も酷いですし……、怪我人が多くて手が回らないようでしたら、私も協力させて下さい。軽い怪我でしたら、回復魔法も使えますから」
「助かりますが、魔法学園に所属しているとはいえ、学生の力を借りる訳には……」
「仰ることは分かります。けれど、今は非常事態、使えるものは使うべきだと思いますよ」
大人相手にも引けを取らずに、フリーニャがピシャリと言い放つ。そして、真っ白な絹のような髪を手で払いのけて、凛としてどこまでも透き通る声で名乗りを上げた。
初めて見たフリーニャの令嬢としての風格に、私はごくりと唾を飲み込んだ。
「私の素性が分からなくて安易に使えないというのなら、名乗ります。私の名は、フリーニャ・ラーノ。五大賢者、蒼龍の魔女マーヴィー・ラーノの末孫。ラーノ家に名前を連ねる者ですわ!」
五大賢者……、ってなんだろう。その場にいた魔法警備隊の隊員が、急に背筋をしゃんと伸ばしてフリーニャに敬礼をした。
「……これはこれは、ラーノ家のご令嬢でしたか。部下が失礼致しました。貴女様の実力、我々も聞き及んでおります。お力を貸して頂けますか?」
「勿論です。怪我人の所へ案内して下さい」
おぉ、凄い……。自分より一回りも年齢が上の警備隊長に手を差し伸べられても、フリーニャは躊躇うことなくその手を取った。本当に、いいところのお嬢様なんだ……。
そんな私の視線に気づいたのか、フリーニャがツンツンした態度で言った。
「言っておきますけど、緊急事態ですから仕方なく、です。カナメさん、私が名乗りあげたこと、学園では秘密にしていて下さいね」
「なんで? 怪我してる人を助けるなんて、凄いことじゃん」
「……その話が問題なのではなくて、お祖母様のことです」
「五大賢者? ごめん、めっちゃ凄い人なんだろうけど……、私は全然知らないからさ。ピンと来てないんだよね」
私が言うと、フリーニャが目を丸くして驚くと、小さな声で笑った。
「……ふふっ、そういえばそうでしたね。五大賢者……、かつて、魔王を呼び出した創世の魔女からこの国を救った五人の魔女のことです」
「へっ? 魔王? 創世の魔女? 国を救った?」
急なファンタジー感溢れる、別世界のような話に間抜けな声を出してしまう。いや、魔王とか……、創世の魔女とか、壮大すぎて本当に想像出来ないんだけどっ!
「創世の魔女は、この国の始まり……、創世の頃から生きていたと言われています。そして、その永い生の中で何を想ったのか……、魔王を呼び出し、世界を壊そうとしたのです。私のお祖母様は、そんな創世の魔女からこの国を救った英雄なんです」
「英雄……」
「私は、そんなお祖母様を心から尊敬していて、憧れて……、お祖母様のような偉大な魔女になろうと努力をしている。だからこそ、お祖母様の威光を使いたくないんです。……私自身を見てほしい。おかしいですよね、ただの子供のわがままです」
そう言って微笑むフリーニャが、凄くかっこよくて、私はフリーニャの両手を握りしめた。
「……っ、カナメさん?」
「おかしくなんてないよ! うぅん、寧ろすっごくかっこいいと思う! 私だったら、私のおばあちゃんは凄いんだぞーって自慢しまくっちゃうもん」
きょとんとした表情で、フリーニャが私を見つめている。
「それはなんというか、とてもカナメさんらしいですね」
「ふふんっ、そうでしょう!」
「どうして、そんなに自信満々に言うんですか。全く……。ほら、包帯を変えたり、仕事は沢山ありますから。カナメさんも手伝って下さいね」
「はーい。まっかせて!」
私はフリーニャから包帯を受け取ると、軽い怪我をしている人のところを駆け回った。
◇ ◇ ◇
「…………見つけた。……五大、賢者」
路地裏に潜む、怪しい影が一つ。
ボロボロのぬいぐるみを抱き抱えた少女がぼそぼそと呟くと、地面から沢山のゴーレムが現れる。
「……うん。大丈夫、分かってる。一緒にいこう、魔女たちの学校に」




