第五十一話 新米王女殿下、屑達の最後を見届ける
心から愚かだと思う。だって、最後の機会になるかもしれない事を、こいつらは頭の片隅にさえ置いていないのだから。
愛しいイシリス様の隣で、私は屑達を呆れながら見下ろす。
「つくづく、馬鹿な奴ら……」
つい、思いが口から漏れ出る。
聖獣であるイシリス様が、折角話す機会を与えて下さっているのに、屑共は、自分から最後の弁明を拒否している。
(まぁ、弁明した所で聞き入れては貰えないけど)
私の呟く声が聞こえたのか、心底、馬鹿にした失笑に腹が立ったのか、屑達は更にヒートアップしている。
「うっわ……キツ」
色々な修羅場を体験したり、見てきたけど、そんな私が引くくらい酷い有り様だった。
人って、極限状態を越えた状態が続くと、そんな顔になるのかと思う程の顔面。言葉では表現し難いけと、強いて言うなら、全ての感情が歪な形で爆発したような表情だった。
私は完全に言葉を失ったわ。
さっきまで、頭が退化した奴らだと思っていたけど、あの表情を見たら、別の意味で、人の皮を被った人ならざるモノだと認めるしかない。
イシリス様の魔法のおかげで、精神は壊れないように保護しているのに、そこにいるのは、淀みに汚染された化け物だった。
そんな化け物達か放つ言葉は、まるで呪詛のように聞こえた。
「……ああ、あれはもう呪詛だ」
イシリス様が険しい表情をしながら肯定する。
「では、あれは、もう人ではないですね」
闇属性持ちでもない普通の人族が、呼吸するように呪詛を吐き出す事は出来ないからね。
不満や愚痴を言う事は、誰だってあるわ。でも、その負の感情が、物理的に周囲を穢していくレベルなら、もはや話は別よ。どんなに誰かを恨んでも、まず無理。命を賭したのなら、近い事が可能かもしれないけど……それを抜きにして、闇属性持ちでも大量の魔力を有するのに。
まぁ、呪詛といっても、他国までは実害が及ばないから問題はないけどね。放置すれば、及んで元王城の周囲数キロ程度、影響を受けるのは屑達だし。自分で毒を吐いて、自分達が侵される。本末転倒よね。
(屑らしいといえば、らしいわね)
ほんの少しでも、そこまでに至った事に反省する気持ちがあれば、ここまで堕ちる事はなかった。今更言っても仕方ないけど。
極限まで追い込まれても、屑達の中で反省を口にする者はいなかったみたいね。皆、全ての責任を他者に擦り付けた。人は醜い所があるから、責任を擦り付けてしまうのも分かる。そうしなければ、生きていけない人もいるのも理解してる。
でもね、屑達は酷過ぎた。
命を軽視し過ぎた。
だから、人を辞めるまで堕ちた。
そもそも、自分の欲求のために、命を奪う事に罪悪感を抱かない屑なのだから――
(……私は何を期待していたの?)
最後まで、屑達は他人のせいにし続けている。
不満と憤慨、憎悪の言葉が、呪詛に変貌しても吐き続けている。自分の非を認める言葉は一切ないわ。
「……私って、つくづく甘いわね」
愚かにも、心の何処かで、屑達に良心を求めていたのだから。
「そうだな」
イシリス様が短く答える。
「もう、答えは出ましたね」
余計な言葉はいらない。それだけで十分だった。
「ああ」
イシリス様は屑達を見下ろしながら、そう答えた。
そして、一呼吸置いた後、イシリス様は低い声で告げた。大きな声ではなかったが、その声は半壊した建物の隅々まで響いた。
「かつて、聖騎士であった者の生きる屍を数体残し、再度、元王城に結界を張り直す。その結界は、もう二度と解けぬと思え。気付いているだろうが、お前達は死ぬ事は叶わぬ。病死も自死も不可能だ。己の寿命が尽きるまで、食べ続けれるがいい」
それは最終宣告だった。
淡々とイシリス様は告げる。告げ終えると、私達は元王城を後にした。
それから六十年近く、結界は張り続けた。
最後まで残ったのはマリアだったと、イシリス様の眷属から報告を受けた。
(マリアが叶わぬ夢を抱かなければ、少なくても、こんな最後を迎える事はなかったのにね……)
ヒロインや悪役令嬢なんて、物語の中でしか存在しないのに、マリアは死ぬ瞬間まで、この世界を物語だと何故か信じていたようね。
紛れ込んたでしまった、異質な魂。
マリアの魂はこの世界の輪廻の輪に入ることは出来ない。時を掛ける事なく、粉々になって消えるだろう。聖獣は愛しい番に、知る必要がない事実を、敢えて話す事はなかった。




