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言いたいことはそれだけですか。では、始めましょう  作者: 井藤 美樹
第四章 新米王女殿下の初外交

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第五十一話 新米王女殿下、屑達の最後を見届ける



 心から愚かだと思う。だって、最後の機会になるかもしれない事を、こいつらは頭の片隅にさえ置いていないのだから。


 愛しいイシリス様の隣で、私は屑達を呆れながら見下ろす。


「つくづく、馬鹿な奴ら……」


 つい、思いが口から漏れ出る。


 聖獣であるイシリス様が、折角話す機会を与えて下さっているのに、屑共は、自分から最後の弁明を拒否している。


(まぁ、弁明した所で聞き入れては貰えないけど)


 私の呟く声が聞こえたのか、心底、馬鹿にした失笑に腹が立ったのか、屑達は更にヒートアップしている。


「うっわ……キツ」


 色々な修羅場を体験したり、見てきたけど、そんな私が引くくらい酷い有り様だった。


 人って、極限状態を越えた状態が続くと、そんな顔になるのかと思う程の顔面。言葉では表現し難いけと、強いて言うなら、全ての感情が歪な形で爆発したような表情だった。


 私は完全に言葉を失ったわ。


 さっきまで、頭が退化した奴らだと思っていたけど、あの表情を見たら、別の意味で、人の皮を被った人ならざるモノだと認めるしかない。


 イシリス様の魔法のおかげで、精神は壊れないように保護しているのに、そこにいるのは、淀みに汚染された化け物だった。


 そんな化け物達か放つ言葉は、まるで呪詛のように聞こえた。


「……ああ、あれはもう呪詛だ」


 イシリス様が険しい表情をしながら肯定する。


「では、あれは、もう人ではないですね」


 闇属性持ちでもない普通の人族が、呼吸するように呪詛を吐き出す事は出来ないからね。


 不満や愚痴を言う事は、誰だってあるわ。でも、その負の感情が、物理的に周囲を穢していくレベルなら、もはや話は別よ。どんなに誰かを恨んでも、まず無理。命を賭したのなら、近い事が可能かもしれないけど……それを抜きにして、闇属性持ちでも大量の魔力を有するのに。


 まぁ、呪詛といっても、他国までは実害が及ばないから問題はないけどね。放置すれば、及んで元王城の周囲数キロ程度、影響を受けるのは屑達だし。自分で毒を吐いて、自分達が侵される。本末転倒よね。


(屑らしいといえば、らしいわね)


 ほんの少しでも、そこまでに至った事に反省する気持ちがあれば、ここまで堕ちる事はなかった。今更言っても仕方ないけど。


 極限まで追い込まれても、屑達の中で反省を口にする者はいなかったみたいね。皆、全ての責任を他者に擦り付けた。人は醜い所があるから、責任を擦り付けてしまうのも分かる。そうしなければ、生きていけない人もいるのも理解してる。


 でもね、屑達は酷過ぎた。


 命を軽視し過ぎた。


 だから、人を辞めるまで堕ちた。


 そもそも、自分の欲求のために、命を奪う事に罪悪感を抱かない屑なのだから――


(……私は何を期待していたの?)


 最後まで、屑達は他人のせいにし続けている。


 不満と憤慨、憎悪の言葉が、呪詛に変貌しても吐き続けている。自分の非を認める言葉は一切ないわ。


「……私って、つくづく甘いわね」


 愚かにも、心の何処かで、屑達に良心を求めていたのだから。


「そうだな」


 イシリス様が短く答える。


「もう、答えは出ましたね」


 余計な言葉はいらない。それだけで十分だった。


「ああ」


 イシリス様は屑達を見下ろしながら、そう答えた。

 

 そして、一呼吸置いた後、イシリス様は低い声で告げた。大きな声ではなかったが、その声は半壊した建物の隅々まで響いた。


「かつて、聖騎士であった者の生きる屍を数体残し、再度、元王城に結界を張り直す。その結界は、もう二度と解けぬと思え。気付いているだろうが、お前達は死ぬ事は叶わぬ。病死も自死も不可能だ。己の寿命が尽きるまで、食べ続けれるがいい」


 それは最終宣告だった。


 淡々とイシリス様は告げる。告げ終えると、私達は元王城を後にした。



 それから六十年近く、結界は張り続けた。


 最後まで残ったのはマリアだったと、イシリス様の眷属から報告を受けた。


(マリアが叶わぬ夢を抱かなければ、少なくても、こんな最後を迎える事はなかったのにね……)


 ヒロインや悪役令嬢なんて、物語の中でしか存在しないのに、マリアは死ぬ瞬間まで、この世界を物語だと何故か信じていたようね。


 紛れ込んたでしまった、異質な魂。


 マリアの魂はこの世界の輪廻の輪に入ることは出来ない。時を掛ける事なく、粉々になって消えるだろう。聖獣は愛しい番に、知る必要がない事実を、敢えて話す事はなかった。




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