第四十九話 新米王女殿下は、我が儘を通す
「……本気で、見に行くつもりなのか?」
「わざわざ、見に行くものじゃないだろ?」
ラリーお兄様とお父様が呆れながら訊いてくる。二人が何を想像しているのか分かった私は、少し苦笑する。
(結界の件って言ったのに。まぁそれは、建前だけど、二人には通用しないわね)
「食事の場面を見に行く訳じゃないわよ。流石に、魔物討伐に慣れてる私でも嫌だわ。夢見が悪くなりそうだし。ただ……人としての最後を言葉を聞きたいの。我が儘だって事は分かってるわ」
反省の言葉を口にした所で、屑王族達の罪が消える事はないし、神罰に関して、私が口を挟む事でもないわ。烏滸がましいもの。
といって、屑王族達が反省していて欲しいと考えている訳でもない。そもそも、反省は強いるものじゃないでしょ。自分からするものよね。正直、端から期待していないから。さっきも口にしたけど、最後に、彼らの言葉を聞きたいの。本心を知りたい、それだけ。
そして、覚えておきたい。
生きる屍が消え、時が流れると、人の記憶から亡国の事は徐々に消えて行くと思うの。最後は、書物の中だけで存在する、影が薄い存在になるわ。忘れる、消えるっていうのは、そういう事だから。ベルケイド王国の民は違うかもしれないけど、他国はその傾向が強いわね。
私はそれが嫌なだけ。許せないだけなの。
「……分かった。ミネリアが思う通りにしたらいい」
「ありがとう、お父様。イシリス様も一緒だから大丈夫」
これが第一王女やマリアなら、説得する事もなく「お願い」の一言だけで済むんだろうね。親や兄相手でさえ甘えるのが苦手な私は、その一言を口にする事を躊躇ってしまう。愛するイシリス様にさえ、あまり口にはしない。意外だと思うでしょ。
ほんのちょっぴりだけど、第一王女やマリアのようなお花畑さんを羨ましくなる時があるの。まぁ彼女達は、自分の欲望に忠実だっただけどね。甘え上手な事に間違いないでしょ。
だから今も、私は言葉にする代わりに、イシリス様にそっと寄り添う。
これが、私の精一杯な甘え方。
元々、聖獣様であるイシリス様にとっては、こっちの方が直接的で、色々くるものがあるらしいけど。そのせいで、よく怒られるけど仕方ないよね。この方法しか出来ないんだから。
「はぁ……ほんと、ミネリアはズルいな」
イシリス様が苦笑しながら、悔しそうな声で呟く。
「そうですか?」
人の心の声を聞く事が出来るイシリス様だから、私の胸の内も知ってくれてる。だから、強くは出れない事に悔しいのね。
イシリス様は、とぼける私に溜め息を吐く。腰に回した手は離さないけどね。そんなイシリス様に、私は微笑む。すると今度は、盛大な溜め息を吐いた。
「リアスはどうする? 連れて行くのか?」
私とイシリス様の会話が途切れた所で、お父様が私に訊いてきた。愛娘の名前が出て、宰相様が私を凝視する。
「流石に、連れては行かないわよ。トラウマになったら困るでしょ」
(出来るのなら、一生見なくていい光景よ)
宰相様が、安心した表情を一瞬見せた。
「それは、ミネリアも同じだ」
厳しくて固い口調だけど、その目は私を心配する親の目だった。
(心配されるのって、嬉しい。でも私には、屑達の最後を見届ける責任があるの)
「心配してくれて嬉しい。ても、私は行くわ。最後の声が聞きたいのもあるけど、私には責任があるから」
「責任?」
お父様の問い掛けに、私は軽く頷いてから答えた。
「……決定し、手を下したのは、創世神様達とイシリス様だけど、一部私が関わっているの。だから、私にも責任の一端はあるわ。……陛下、私は大丈夫。小さい頃から魔獣の討伐に出てるし、血肉や臓物にも慣れているわ。それに、私の隣には、愛するイシリス様がいるのよ、ちゃんと支えてくれるわ」
お父様を安心させるように微笑みながらに、そう答える。
「安心しろ。ミネリアは俺が護る」
イシリス様がきっぱりと宣言してくれた。恥ずかしかったけど、これ程心強い言葉はないわ。
すると、お父様は先程のイシリス様と同じように、大きな溜め息を吐くと立ち上がる。そして、私達の前まで来ると、イシリス様に頭を下げた。
「聖獣様、我が娘を宜しくお願い致します」
「……お父様」
今、目の前にいるのは、ベルケイド国王陛下ではなく、一人の父親だった。
不意打ち止めてよね。目頭が熱くなってきたわ。情けない顔、皆に見られちゃうじゃない。
「任せろ」
イシリス様の御言葉に、お父様は安心した笑みを浮かべる。ラリーお兄様も笑顔だ。
二人共、私の大事な人達。
腰に回っている手に僅かに力が入る。
(イシリス様、むくれてるわ。家族の好きと愛しい人の好きは全く違うのに。分かるでしょ、ほんと可愛いな。可愛くて、愛しい)




