第四十五話 新米王女殿下、戦闘侍女に引かれる
そもそもこっちは、特に友好国にならなくてもいいから気楽なものよ。なので、ベルケイド王国はいつもと変わらず平和だ。
反対に焦っているのは、エンドキサン王国側ね。もう引くに引けない状態だと思うわ
一応、書面上では処罰を与えたと書いてあるのだから、直ぐに返事が折り返し来ると、何故かエンドキサン王国は信じているみたい。いやいや、その根拠は何よと突っ込みたいわ。
だけど、まてど暮せど返事は来ない。
業を煮やして再度魔鷹を飛ばせば、こちらで熟考した上で改めて決めるという、返事が返って来た。それも、挨拶文も省略した一文でね。
静観している周辺諸国から見れば、大国が小国に掌の上で転がされているように映るわね。失笑されてるんじゃない。完全に舐められてると思われているから。お父様の書簡を床に叩き付けて、怒り狂ってる様が目に浮かぶわ。お腹が捩れて苦しい。
薬草畑で休憩していると、ふと……エンドキサン王国の事が頭に浮かんだの。お腹を抱えて一人笑っていたら、無表情のジュリアがスーと後ろに下がった。
リアス様はベルケイド王国について勉強中。専属侍女になるのなら、最低限、我が国の事を知らないといけないし、それなりに強くなくてはいけないからね。
イシリス様は、ベンチの端に座ってク〜ンと鳴いている。少し心が揺れるけど、お仕置きはまだ一日残っているからね、ちゃんとしないと。そんな事を思っていたら、イシリス様の鳴き声が大きくなった。
「……ミネリア、リアスがいないからって、気を抜き過ぎだぞ」
一人笑っていた所を、ラリーお兄様にも見られていたみたい。
「だって、エンドキサン王国の事を考えていたら笑いが込み上げてきたのよ。子供みたいに地団駄踏んでる姿がね。で、珍しいわね、ラリーお兄様がこんな所まで足を延ばすなんて」
薬草畑の中でも、一番奥にある希少種の薬草を育てている畑。ここには、限られた人しか入れない。勿論、ラリーお兄様は入れるけど、彼はこの薬草の匂いが苦手で滅多に来なかった。
「たまにはな。今回は、上手くいきそうか?」
薬草畑を見ながら、ラリーお兄様が訊いてきた。
「……そうね、枯れないようにするのがやっとって所ね。中々、根付いてくれないわ。だから、やりがいがあるんだけどね」
(出来る限り、自生地と同じ環境に近付けてはいるんだけどね……)
室温と湿度、日光の当たり具合の調整がすっごく難しい。色々改良はしているのだけど、まぁそれが、とても楽しい。私って、根っからの研究者体質だよね。ずっと畑をいじっていたいし、薬を精製していたい。でも、そうはいかないのが悲しいけどね。
この希少種の薬草が、この畑で自生してくれれば、冒険者や兵士、騎士、聖騎士達が魔物に殺られる人数は格段と少なくなる。
だから、頑張るしかない。まだまだ失敗ばかりだけどね。それでも、次に繋げたい。そう思っているの。
「ミネリアなら出来る。俺はそう信じているよ」
(信じているか……嬉しい)
「ありがとう、ラリーお兄様。それで、暗部と影からの報せが来たの?」
実は、そろそろだと思っていたのよね。
「ああ、それなら、ついさっき届いたぞ」
ニヤリとラリーお兄様が嗤う。
ラスボスまでとはいかないけど、中々の悪役顔よね。でも、目は笑ってはいない。それどころか、とても冷えている。
(なるほど、そういう事が……)
「迎えに来てくれてありがとう、ラリーお兄様。じゃあ、行こうか、お父様の所に」




