第四十四話 新米王女殿下、嗤いながら陛下に進言する
「陛下に取次を」
執務室の扉の脇で警備をしている近衛騎士に、私は声を掛けた。
近衛騎士は「畏まりました」と答えると、扉を三回ノックする。直ぐに返答があった。
「入れ。……ミネリアか?」
開いた扉の隙間から私の姿が見えたようだ。
「はい。陛下に面会を申し込まれておりますが、いがが致しましょう」
独立してから、このやり取りをしなければならなくなった。当然とはいえ、その度に、私は一国の王女になったのだと思い知らされる。
「構わん、通せ」
「畏まりました」
近衛騎士はそう返事をすると、一歩横にずれ、私を執務室に通してくれた。
「仕事中、申し訳ありません、陛下。モリアス様も、お邪魔しますわ」
(一応、近衛騎士の前で素はいけないわね。まぁ、今更だけど)
散々、私の口の悪さを知っている人達だからね。
「その挨拶、なんか、背中がゾワッとするな。慣れん」
(かなり、酷い言われ方ね。失礼しちゃうわ)
エンドキサン王国にいた時もずっとこの話し方だったから、流石に慣れたと思っていたけど、違ったみたいね。あの時も、こんな顔してたわ。
「そんな苦虫を噛み潰したような顔しなくても……しょうがないでしょ、一応、近衛騎士の前なんだから、振りはしなくちゃ」
素直な返答に、お父様と宰相様は苦笑いする。
「振りとはっきり言ったな。まぁいい。で、ここに来たのはアレを見たのか……行動が早いな」
二人共、私が執務室に来る事を分かっていたみたい。宰相様は机の端に移動する。言葉こそ交わさないが、お互い頷き合っていたからね。
私はお父様に視線を戻すと答えた。
「薬草畑で作業していたら、空を飛ぶ魔鷹を見たのよ。エンドキサン王国からね。さては、もう一度会って、誤解を解きたいなんて言ってきたの?」
彼らの要件なんて分かりきってる。会って、お父様を丸め込んで、何としても友好国として周辺諸国に認知させたいだけ。
(それ以外思い付かないなんて、あの大国の頂点は亡国と通じてる所があるわね。色合いは違うけど)
会って話をしたいと言う前に、すべき事があると思うけどね。誠意ってやつを見せないと。ここまで来て、また順番を間違えたなんて事はないわよね。
「……あぁ、全く、面倒くさい奴らだ」
(ほんとにね)
お父様も心底そう思っているみたいで、一方的に送られて来た書簡を乱暴に机に放り投げた。まるで、私に読めと言っているみたい。でも、何も言われていないのに、手を伸ばすのは気が引けた。
「ただ、会って話をしたいって訳じゃないわよね。エンドキサン王国はどういう処罰を下したの? まさか、何の処罰もせずに会いたいとは言ってきてないわよね」
(もしそうなら、会う必要はないわ。これから先、未来永劫ね。当然、国境の封鎖も解く必要もない)
「エンドキサン王国は、第一王女を北の塔に幽閉。同席していた腰巾着達は、それぞれ家を追い出され、僻地にある修道院に送ったそうだ。直接、虐めに関与した侍女は、鞭打ち十回の後王都を追われ、見て見ぬ振りをした近衛騎士は、騎士職を剥奪したらしい」
再び、お父様は苦虫を噛み潰したような顔している。
(らしいね……お父様も疑っているみたいだけど、私も同意見だわ。あの親馬鹿にそんな事出来るの?)
今までの経緯を鑑みても、信じる事は出来ない。
「それ、事実なの? 書くだけなら、いくらでも書けるんじゃない。私達がいないと分かっているのだから」
信用度はマイナスだからね。彼らの事を欠片も信じてはいない。
「それに関しては、残っている影と暗部達が調べておりますのでご安心を」
お父様に代わって、宰相様が答えた。どうやら、宰相様も疑っているようね。あの第一王女を知れば、普通そう考えるわね。
「……念のために残して来た者達が頑張ってくれてるようね。陛下、その報告を聞いてからでもいいんじゃない? この際だから、とことん、焦らしてやれば」
ニヤリと嗤いながら、私はそうお父様に進言した。




