第四十三話 新米王女殿下は空を見上げる
二日後――
事態が動いた。私の予想は当たっていたわ。
エンドキサン王国は国境を一部封鎖を命じたの。ベルケイド王国に接している国境をね。薬草畑の手入れと水やりをしながら、私はその報告を聞いた。
「早い早い。さすが、大国と呼ばれる事だけはあるわ。伝達機能が隅々まで行き渡ってるわね」
つい、そんな感想が口から出る。
(二日か……たぶん、魔鳩ではなく魔鷹を飛ばしたのね。最高ランクの魔鷹を飛ばすなんて、余程切羽詰まってるのが見て分かるわ)
普通、魔鷹は有事しか飛ばさないからね。国境を護っている兵士は、ベルケイド王国と自国が緊張状態だと勘違いしてもおかしくない状況よね。
それに、こちら側もエンドキサン王国に発破を掛ける行動を移したようだし。
エンドキサン王国にならって、お父様は国境を封鎖するよう命じていたからね。エンドキサン王国が封鎖したら、封鎖するように通達済み。
なので今国境付近は、騎士や兵士達の間で、緊張感が一気に高まった状態だと思う。うちは、そういう緊張感は慣れてるからね。身体が固くなったりはしないわ。それに、強いから大丈夫。常日頃から魔物相手にしている猛者に勝てるわけないしね。連携も取れるし。
ベルケイド王国も国境を封鎖した事で、エンドキサン王国は、私達がもう既自国に戻って来ている事を知るでしょうね。その様を想像したら、笑いが込み上げてきたわ。
「地団駄踏んでそうですね」
ジュリアは無表情のままだけど、口角は僅かだけど上がっていた。
「私達を逃さないために国境を封鎖したのに、無駄骨だったわね。かなり強引な手をうったのに、ご苦労様。……でも、無駄骨だったからといって、簡単には解除出来ないのが、大国としての面子よね。正直いるのかしら、その面子。経費の無駄でしょ」
リアス様が侍女になってから、私は彼女の前で、少しだけど口調を崩す事にした。たまにリアス様は眉を顰めるけど、どこか嬉しそうだった、
少し話がそれだけど、エンドキサン国王は、内心軽く見ていた小国に手玉に取られて、悔しがってるでしょうね。聖獣様がいなければ、何もない田舎小国だって馬鹿にしていたし。
「心底、愚かです」
(ジュリアに激しく同感ね)
でも、そんな風に見られる事は、私やお父様、ラリーお兄様は誰よりも身に沁みて分かっていた。実際、独立する前から、亡国を含め陰口を叩かれていたからね。
だから、家族と民全員で、イシリス様に頼らなくても成り立つように頑張った。
聖騎士の育成にも力を入れた。
ポーションなどの薬品の質を向上するために、研究所と薬草専門の畑を作った。
食料も輸入に頼らなくてもいけるように、自国で賄えるようにした。魔法具の製作も材料もね。時間は掛かったし、衝突も沢山あったけど、今はどうにか出来るまでになったの。
故に、ベルケイド王国は強い。
なので、軽く見られても平気。腹は立つけど、特に困らない。上辺だけを見て、選択を間違えたのは、エンドキサン王国側、彼らの責任。
それ以前に、他国の専属侍女を了承を得ずに勝手に使い、虐めたのは論外。決して、許される問題じゃないわ。国家間の火種になる案件よ。相手がリアス様じゃなくてもね。それを、自国の第一王女にしっかりと教育をしていなかった、貴方達の責任よね。
そして、傍にいて共に行動していた腰巾着達も、第一王女に進言する事なく、一緒に笑っていた。自分の子供をきちんと教育出来なかったのは、エンドキサン国王達と同じよね。
そんな話をジュリア達としてから数日後、私は大空を優雅に格好良く飛ぶ魔鷹を、薬草畑で見掛けた。
「魔鷹……うちの子ではないわね」
「ええ。あの紋章はエンドキサン王国のものです」
魔鷹の首元に付けられている首輪を見て、ジュリアは答えた。
「相変わらず、目が良いわね。私には、紋章の細かい模様までは見えないわ」
(私もまだまだね)
ラリーお兄様やお父様なら、ジュリアのようにはっきりと見えるんでしょうね。もっと鍛えないと。
いつもならここで、イシリス様が「ミネリアは鍛えなくてもいい。俺が護るから」と、甘い台詞を吐いてくるのだけど、今回はそれは無し。
例の話し合いの結果、半径三メートル圏内に一週間入らないように決まったの。なので今は、離れた場所で子犬のようにク〜ンと鳴いてるわ。といって、分霊体の子狼ちゃんを付けるのも嫌なようで、一人、ジレンマに陥ってるみたい。
(しっかり、反省して下さいね、イシリス様)
そんな事を思っていると、リアス様が不思議そうな顔をしていた。
「どうかしたの? リアス」
「いえ、普通、首輪でさえ見えない筈なのに……」
「ああ、魔鷹の首輪の事ね。魔力を強化しただけよ。それを目に付与したの」
そう答えると、リアス様はすっごく驚いた。
(そんなに驚く事じゃないんだけど、ここでは)
「そうなのですか!?」
「ええ。魔物討伐を生業にしている者なら、大概出来るわ。出来ないと、まず生き残れないからね。冒険者の実技試験になっているわ」
戦闘員らしくない私でも、冒険者資格を有しているからね、ちゃんとその実技試験は受けたわ。
「初めて聞きました」
「そうね、ベルケイド王国以外はないから。この実技試験は、ベルケイド王国特有のものだわ」
「そうなのですね」
リアス様は感心したような顔をする。
「ミネリア王女殿下、リアスと和むのはいいですが、そろそろ、執務室に向かった方がよいのでは?」
少し呆れながら、ジュリアは私とリアスとの会話に割り込んで来て終わらせた。でも、間違った事は言ってないわ。相手は魔鷹だからね。
「そうね……」
空を見上げながら、私は頷いたのだった。




