第四十一話 新米王女殿下、選択を間違えた親子を反面教師にする
要約すると、詫びたいから登城してくれと書いてあったの。つまり、被害者である私達を呼び付けた。
(はぁ!? 何ぬかしてるの!? そっちが来るべきじゃない!!)
思わず胸倉を掴んで、宰相補佐に詰め寄りそうになったわ。その補佐は、お父様の返答を待っている。
「……おかしな事を言う。悪い事をしたのはそちら側だ。何故、ベルケイド王国から伺う必要がある?」
お父様は特に声を荒げる事なく言い放つ。だが、その表情は口調とは違った。こめかみに青筋を浮かべながら、殺気と威圧を放つ。
それは、お父様だけではなかった。連れて来た執事や従者、侍女達も殺気を放っている。宰相補佐は冷や汗を吹き出しながら、何とか耐えている。考え直してもらうよう言わなければならないのに、何も言えない。呼吸するのがやっとのようだった。
(お父様、キレてるわね)
「……私も、陛下と同意見ですわ。エンドキサン王国は、ベルケイド王国を軽く見ていますのね」
今、扇子をを持っていたら、絶対折っていたわ。私も静かにキレてるから。
いくら宰相補佐の高官でも戦を知らない者。これ程の殺気と威圧の中にいた事はないと思うわ。呼吸するのがやっとの様子だったのに、今は過呼吸になっているもの。身体も震えているし、お漏らしはしないでよね、汚いから。
(この辺が限界ね)
「はぁ!? なんで、こっちがわざわざ行かないと行けないんだ!? 馬鹿も寝てから言え!!」
お父様も限界だと思ったようで、そう怒鳴ると宰相補佐を部屋から追い出した。
扉越しに、奇声のような悲鳴と遠ざかる足音が聞こえた。完全に足音が遠ざかってから、私はお父様に尋ねた。
「それで、陛下どうします? このまま滞在して様子を見ますか? それとも、帰りますか?」
私的には、どちらを選択しても結果は変わらないと思う。変わるのは度合いだけ。
(ちゃんと、選択間違わないように苦言したのにね)
このまま滞在して、エンドキサン王国の恥と横暴さを周辺諸国の方々の前で晒してもいいし、反対に帰って、完全に国交を断絶するのもいい。
どちらを選んでも、エンドキサン王国と国交を結ばない事は決定済みだからね。ただ、引き伸ばしてから切るか、即切るかの差だけよ。どちらにせよ、大国にとったら、かなりの痛手よね。
エンドキサン王国は自分が切られるとは考えていない。相手が、聖獣様が守護する国でもね。その傲慢さが選択を謝った要因よね。
(小国、舐めんなよ!!)
「…………そうだな、帰るとするか」
少し考えた後、お父様はそう告げた。
(やっぱり、そっちを選択したわね。さぞかし、エンドキサン国王は慌てるでしょうね。だって……)
一人想像して、笑いそうになる。次来た時は、もぬけの殻だもの。これで、やっと肩の荷が下りるわ。崩せない令嬢バージョン、肩が凝ってたのよね。
お父様の発言を受け、室内にいた者達が一斉に動き出した。本当、優秀だし頼りになるわね。
「では、国交断絶で。サインは書いていないのでしょ」
滞在最終日に、周辺諸国の方々と国交を結ぶサインを交わすと聞いていたからね。主催国の面子丸潰れよね、いい気味。だって、過去一のお得意様に目の前で逃げられたのだから。
「ああ、していない」
「なら、特に問題ないわね。ベルケイド王国は特に困らないし。それよりも、荷造りしているのを見られると色々厄介だわ。さっさと終わらせないと」
「そうだな。俺も荷造りを手伝うか」
お父様が立ち上がる。元々、魔物討伐で野営しているから、荷造りもお手のものよ。
「私はイシリス様をこちらに呼ぶわ」
イシリス様なら、連れて来た者達全員と荷物を、一瞬でベルケイド王国まで運んでくれるからね、追い付かれる心配はないわ。
「聖獣様を?」
「分霊体である子狼さんを目印に、飛んで来れるの」
だから、常に連れて歩くように言われていたのよね。いざって時に、助けに行けるからって。ほんと、私愛されてるよね。
(それにしても、第一王女だけでなく、国王陛下自ら選択を間違えるなんて……多少国王が馬鹿でも、国って成り立つのね)
そう考えると、支えてくれる人の大切さが身に沁みてよく分かるわ。私も王女になったばかりだけど、その事だけは忘れてはいけないと、心に深く刻み込んだ。




