第三十七話 新米王女殿下、臣下に叱られる
今日も晴天、旅日和。
でも馬車の中で、若干一人の頭上だけはどんよりと曇っていた。
「……本当に、私が同行しても宜しいのでしょうか?」
今更な台詞を、リアス様は何度も訊いてくる。もう、馬車はエンドキサン王国に向かって出発しているのにね。その度に、私は同じ台詞を繰り返した。
「当然ですわ。リアス様が同行してくれないと、私が困りますわ。だって、まだ先生から合格点をもらっていませんもの」
(先生の前で、言葉は崩せないわ。学園の延長線と思えば大丈夫)
まぁ、リアス様に言った台詞は間違ってはいないわ。これでも、内心不安で一杯なの。気が強くて、口が悪い。辛うじて、体裁を保てるように令嬢らしくは振る舞えるけど、今はただの令嬢じゃない。成り立てホヤホヤの新米王女だからね。墓穴掘りそうで、不安しかないわ。
そんな不安を嗅ぎ取ったのか、膝の上で丸まって寝ていた白銀の子狼が、起きて、私の手の甲をペロペロ舐めて癒やしてくれる。
(ん〜〜可愛い〜!!)
イシリス様が同行出来ないからね、代わりにイシリス様の分霊を貸してくれたの。人質にされていた時以来ね。とはいえ、子狼でも、イシリス様には変わらない。因みに、人質の時は同じ子狼でも一回り小さかったけどね。
当時を思い出し、膝の上に座っている子狼を見ていたら、ふと、想像してしまった。
(私達の間に生まれた子供って、獣の姿なの? だったら、最高よね。絶対、構い倒すわ。あっでも、構い過ぎてウザがられたらどうしよう。立ち直れないわ)
一人ショックを受けていると、リアス様が軽く咳払いをした。
「……ミネリア王女殿下、その心配はさすがに早過ぎます。父上が砕けた話し方を普段はなさると聞いてはいましたが……これでは、合格点は出せません」
リアス様が苦笑しながら言った。
(あれ? もしかして、口に出てた? って事は、普段の口調のままで!?)
「……心の声、口に出ていました?」
「はい」
(あ〜〜トチった!! リアス様の前では、淑女の仮面被っていたのに)
心の声を聞かれた事よりも、口調にショックを受けている私に、リアス様は呆れながらも厳しい表情をし、口を開いた。
「今から気を引き締めろとは言いません。気を緩めておきたい気持ちも理解出来ます。が、誰に聞かれているか分からない事を頭に置いといて下さい。特に、今から訪れようとしている国は、魑魅魍魎が跋扈する場、国境を越えていないからといって、安心は出来ません。常に、緊急感をお持ち下さい。口調もそうですが、胸の内を口にするなど、もってのほかです」
(さっきまでの気の弱さはどこへやら、完全に先生モードだわ。うん、それでいい)
「以後、気を付けますわ。リアス先生」
「はい。私も精一杯、ミネリア王女殿下をお支え致します」
「ありがとう、リアス様。とても心強いですわ」
本心からそう思う。連れて来て正解だった。
「ならば、これから先、私の事をリアスとお呼び下さい。私はミネリア王女殿下の臣なのですから」
リアス様に指摘されるまで、特に気にもとめてなかった。学生時代からそう呼んでいたし、呼び方に拘りなんてなかったから。でも今は違う。リアス様の言う通りだわ。先生呼びならまだしも、様はない。臣下なら尚更。心情では友人であり、頼れる先生だけど。
「分かりましたわ。これからは、リアスと呼びます。リアス、これから先、隣で私を支えなさい。いいですね」
私はリアス様を目を見詰め、そう告げた。
「はい、畏まりました」
リアス様は私の向かいに腰を掛けたまま、私に向かって深々と頭を垂れた。
そう――
検討した結果、ベルケイド王国は二つ目の案を選択したの。満場一致でね。
一つ目を選択してもよかったけど、また書簡が送りつけられる可能性が高い。その相手も面倒くさいし、いつまでも拒否し続けるのも、そのうち難しくなると思ったからね。
だったら、先延ばし状態を続けるよりも、まだダメージが少ないうちに、動く方がマシだと考えたのよ。その分、こちら側が有利に運べるからね。最悪、失敗しても困らないのも大きいわ。我がベルケイド王国は小国だけど、国力は負けてはいないからね。
それに、あの宰相様が付け入る隙があるって断言したのよ。だったら、それを信用して賭けるしかないでしょ。そもそも、宰相様は出来ない事を口にする方じゃない。出来るからこそ、口にした。これでも私達家族は、宰相様を信用しているのよ。扱いが雑でもね。




