第三十六話 新米王女殿下、宰相様の腹の色を知る
お父様が魔鷹を飛ばしてから一週間後。
エンドキサン王国から、またしても書簡が送られて来たからと、私達はお父様に執務室に来るよう呼び出された。当然、ラリーお兄様もね。
「……断りの返事したわよね」
執務室に着くなり、私はうんざりした気持ちを隠そうとはせずに言った。
「勿論、断った。本人が留学する気がないからな。今回は別件だ」
お父様も内心イラッとしているみたいで、乱暴に書簡を扱う。
(別件? 留学で釣れなかったからか……)
「別件ね……別のアプローチからの打診が来たのね」
この流れで、それしか思い浮かばないわ。ほんと、面倒くさい事になったわね。
「ああ。なんでも、生きる屍の件で、緊急に周辺諸国を交えて会議を開きたいそうだ。その会議に、ミネリア、お前の参加を希望している」
お父様の台詞に、私は首を傾げる。
「何故、私が参加しなければならないの? 生きる屍の件って何? 食べる物がなくなれば、呪いを維持する事が出来なくなって、崩れるのは常識よね。王都にはまだ食べ物が残っているから、念のために、イシリス様が結界を張ってくれたよね。その事実は、公表してるよね。だから、他国には生きる屍は行けないよね。それなのに、会議?」
そもそも、後一か月もしないうちに、生きる屍はカラカラの砂になって崩れるか、ヘドロになって、土壌を穢しながら崩れ落ちる筈。後者なら、数百年は植物が育たない穢れた土地になるわね。当然、人も住めないわ。でもね、それはイシリス様の張った結界内での事よ。
なので、結界の外にいる周辺諸国には影響はないの。会議をする理由が分からない。っていうか、参加者全員が集まる頃には、ほぼ解決しているわ。
(そんな名ばかりのどうでもいい会議に、お父様も、ましてや、私が参加しなければならない必要性がどこにあるの? ただの外遊じゃない。馬鹿馬鹿しい)
「ミネリア、留学の件は陛下から聞いている。……それにしても、余程、ミネリアを取り込みたいようだな」
眉間に皺を寄せ、ラリーお兄様が険しい声で言った。
「正解に言えば、イシリス様たけどね。あまりにも、あからさま過ぎて嫌気がさすわ」
私の声も嫌悪感が増す。
「で、どうしますか? 陛下」
ラリーお兄様がお父様に意見を仰ぐ。
「そうだな……モリアス、お前はどう考える?」
(お父様も判断が出来兼ねてるようね。正直、難しかしい判断になるわ)
小さいながらも国、今までのような交渉では済ませられないもの。周辺諸国との外交も必要になるし。とはいっても、最低限しかするつもりはないけどね。それでも、必要なのはかわらない。その線引きが一番難しいと思う。相手が大国なのも、頭を悩ます原因の一つね。
「そうですね……取るべき道は、二つのうち一つです。まず一つ目は、エンドキサン王国は生きる屍の呪いの事を詳しく知らないようなので、説明書と共に、会議の必要性がない事を記した書簡を送る道です。この場合、更に書簡が送られて来る事を念頭におく必要がありますね」
お父様もラリーお兄様も唸っている。私も唸りたい。宰相様がいなければ、お父様はこの道を選んでいたと思う。
目の前の問題の対処をしただけで、根本は放置のまま。ここまであからさまだもの、宰相様の言う通り、更に加速しそうだわ。マジで勘弁して欲しいわね。とはいえ、断り続けると角も立つし……最低限度の付き合いしかしないつもりでも、軋轢は避けたい。
「二つ目は、一度あちら側の手の内に乗り、きっぱりと要求を却下する事ですね」
(短っ。それに、簡単に言うわね)
「一つ目は分かるが、却下って、簡単にいくものなのか?」
困惑顔したお父様が尋ねる。
「まぁ、普通なら、簡単にはいきません。可能性も極僅か。失敗した時のデメリットが高過ぎますね。でも、出来なくはありませんよ。付け込める隙は十分にありますから。当然、勝機もあります。……要は、安全牌を取るか、ハイリターンですが、止めを刺しにいくかの二択です」
そう答えた宰相様の顔は、お父様も驚く程の悪役顔だった。
(良いのか、悪いのか、完全に染まってきたようね。っていうか、あれが本当の顔かも)
なんせ、人族を止めた屑達の代わりに、亡王国を裏から支えていたのだから、お腹の中が真っ黒じゃなきゃ出来ないよね。あぁ、こういう場合は、策士っていうのよね。




