第三十四話 新米王女殿下は狼の尾を踏んだ
「とはいえ、どうしましょうか?」
少し前、イシリス様は屑達のアレを腐らした。それでも甘かったと、私もイシリス様も悔いているわ。さっき口にしたように、それなりの対応に変更したいと思った。イシリス様も同意してくれた。だからといって、お願いするわけにはいかない。
正直に言えば、宰相様の話を聞いて、直接、私が手を下してやりたいと心から思ったよ。だけど、それは許されない事。ただの私怨になるからね。アレを腐らせたのは、私怨ではなく報復だったから、認められ許されたの。そこは、間違えたらいけない。
「あの女は既に、ベルケイド王国の民だ。民を傷付け、罪なき者の命を奪った罪は計り知れない。故に、俺が出ても問題はない。創世神様も怒りはしないだろう。だから、そこは大丈夫だ。時間経過など多少の誤差だ」
私の気持ちなど別に読まなくても、イシリス様には筒抜けのようね。
「……安心しました」
イシリス様は私の頭を撫でる。
「ミネリア、人である事を止めた奴らの対処は考えている」
撫でながら告げる台詞は物騒なものだったけど、口調はとても甘かった。
「どのような?」
私がそう尋ねると、イシリス様はニヤリと笑った。聖獣様なのに、とっても真っ黒。
(このギャップが魅力的なのよね。野性的っていうのかな? でも、本性はフェンリルだから、野性的とは違うのかな? まぁでも、魅力的なのは間違いないわ)
心の中で、一人で突っ込んでいると、イシリス様が顔を背ける。
(白い肌に朱って映えるわね。ほんと、羨ましい。私って、陽に焼けてるから)
イシリス様は健康的だって言うけど、白い肌は憧れるわ。
「うっ!! ……そんなに生きたいのなら、思い存分生かしてやる」
小さい呻き声を上げてから、イシリス様は教えてくれた。その可愛い姿を見て、少し意地悪をしたくなっちゃった。
「生かしてやるですか……それは、どういう意味ですか?」
イシリス様の耳元で尋ねてみたの。意地悪っていっても、これくらいしか出来ないのだけどね。
すると、突然視界が変わった。口元から牙が見えるイシリス様越しに、天井を見上げる事になってしまったの。
(あっ……やり過ぎた?)
「……どうしてくれようか。なぁ、ミネリア、このまま食っても構わないよな」
色気ただ漏れ状態で、イシリス様は私を見下ろす。その目は熱を帯びてギラギラとしていた。
完全に捕食者の目だ。という事は、私は獲物。
(ヤバい!! やり過ぎたわ!! 逃げなきゃ)
慌てて、上半身を起こそうとしたけど、ピクリとも動かない。イシリス様の両腕は私の顔の横にあるのに。
(えっ!? どうして!? ……本気なの!?)
「じゃあ、移動するか」
私の動揺は完全無視。イシリス様は私を横抱きにして立ち上がった。
「ヒェッ!!」
横抱きにされるのは慣れているけど、今回は意味合いが違うわ。反射的に、淑女らしからぬ悲鳴が出ちゃった。そんな私を、イシリス様は愛おしいそうに微笑む。
「優しく出来るか分からないが、出来る限り優しくする」
(これは、完全に食う気だわ!!)
冷や汗が全身から吹き出す。だからか、イシリス様がうっとりと私の首筋に顔を寄せてきた。
(匂い嗅がないで〜〜!!)
どうにか動かせる両足をバタバタと動かし、必死で逃げようと暴れる。
「だ、駄目です!! まだ婚姻前です、イシリス様!!」
思い留まってもらおうと、私はイシリス様に必死に縋った。
「最期までしなかったら、いいんだろ?」
悪びれず、イシリス様は告げる。
(最期までって何!? 今から、私何されるの!? こんな形でなんて……)
「…………嫌です。こんな、なし崩し的な形は嫌です」
どうにか発した台詞は、とてもとても小さかった。ポロリと涙が頬を伝い落ちる。
イシリス様は今日一番、大きな溜め息を吐くと、そのまま私を抱き上げソファーに移動し、膝に乗せたまま座る。
「……ミネリア、本来、俺は獣だ。当然、人よりは性欲が強い。ましてや、ミネリアは俺の番。これでも、かなり我慢しているんだ。ミネリアはまだ小さいからな。俺を受け入れるのは、まだキツイだろ。……いいか、これ以上俺を煽るな。次は、泣いても、有無を言わさずやるからな」
イシリス様は有言実行の方。最期までしなくても、それに近い事はされる。絶対、食われるわ。
私は勢いよく、コクコクと何度も頷いた。
(だって、こんな色気皆無の私でも、夢はあるんだから!!)
数多くある作品の中から、選んで、読んで頂きありがとうございます。
第三章終了です。
次回から、第四章の始まりです。
新たなざまぁと、神罰の行方をお楽しみ下さい。




