16話 眠れぬ者と眠らぬ者(Insomnia&Awakening)
揺れる炎の光に照らされ、映し出される陰影に思わず一喜一憂してしまう。
「どうしたの?」「い、いえ!何でもありません」
そう言って僕は咄嗟に眼を逸らす...が焚き火の炎に引き寄せられる羽虫の如く、意識は殿下の方へ向いていく。
(そんな眼で見てはダメだ)
何とか自制するべく、僕は一度固く目を閉じた。息を整え落ち着いてからゆっくりと目を開けると
「うわっ!?」「うふふっ」
目の前に殿下の顔がある。それこそあと数センチ前に顔を近づければ口吻...いや、高さが合ってないのでするなら額だろうか?だがそんな思いとは裏腹に、僕の身体は驚いた所為で後ろにひっくり返っていた。目の前にあるのは殿下の顔ではなく星空だっ...と思ったら
「大丈夫ですか?」「は、はい」
星空よりも輝く殿下だった。しかもその女神はこの世のモノとは思えぬ笑顔のまましゃがみ込み、両膝を抱えながら小首を傾げる。そして月明かりと焚き火の炎に照らされ、妖精もかくやと言いたくなる女神はその白い腕を伸ばし
「起き上がれそうですか?」「だ、大丈夫です!」
僕を助け起こしてくれた。その後焚き火を挟んで殿下と会話したのだが...正直何を話したのか覚えていない。やがて定刻となり殿下が就寝するべくテントに赴き、代わりに出て来たモーリスと夜番をするのだがソレも覚えていなかった。そんな事よりも、もっと重大な出来事がこの後控えている事に
「サージェ、交替です」「あぁ、分かった」「...?」
すれ違うサクヤに怪訝な顔をされながら、僕はテントに入ってから慄く。
声は抑えたつもりだったが、殿下を起こしてしまった。
そんな殿下の顔も可愛いと思ってしまった僕は、当然のように...眠ぬ夜を過ごしてしまう。
「ふぬおぉぉぉ......!」「何!?敵襲?!」
口籠った声に驚いて、反射的に起きてしまった。
何事かと周囲を見渡してみると...
テントの入口で私を見下ろしていたサージェが、目が合うなり両手で口を抑える。後ろではコチラを見て呆れているサクヤに、薪を焚べるモーリスが見えた。
「早く寝なさい」「はっ!?」
私の命令に素直に従うサージェを睨みながら、私は彼に背を向け横になる。
(シマッタ。笑顔でおやすみなさいと言うべきだったわ)
先程彼が叫びそうになったのは、私が魅了したからだ。多分効果抜群だったのだろう。
彼との付き合いは、まだ日が浅い。彼のような軍略家は利で動く事がある為、保険として忠義心を磨いているのだが...
(私に睨まれて...何故か嬉しそうだったわね)
それなら、魅了は過剰ね。そんな事は万が一にも無いとは思うけど、彼の自制心が崩壊したら大変だし...
そう思って私は気を取り直し眠る事にした...が
「はぁ、はぁ...ふぅ...はぁ、はぁ...」
サージェの鼻息?が荒い。必死で息を整えようとしている彼が気になっていしまい
(コレ、他人事じゃなくなったじゃない!)
正直テント内に響く彼の息遣いは収まらず、サージェだけでなく私まで眠れなくなってしまった。
「結局大したモノは出てこなかったですね」
「そうですが、意味はありました」
私の言葉に同意するも、価値はあったとヴァンは言う。当然私も、ソレについてはやって良かったと感じていました。
「確かに...調べていなければ、何を仕組まれるか予想出来ませんでしたからね」
「ですが...流石ですね。あんな条件を付けられたのに、ちゃんと条件を達成するとは」
お姉様たちの連携を見てヴァンが称賛したので、ソコはお姉様ですから♪と私も心の中で絶賛する。
「それより...カマーセたちもクリア出来そうですね」
「正規品なら当然でしょう」「でも、手際は悪くありませんでしたわ」
ヴァンはカマーセを過小評価していますが、思っていたより優秀だと私は感じました。信号機頭は馬鹿揃いですが、指示役が優秀ならやりようはあるのでは?と考えていると
「殿下たちは眠って下さい。見張りは私がやりますので」
「ソコは悪魔族に任せても良いわよ?」
ヴァンが気を利かせてきましたが、私は自分が連れてきた配下を使えばと提案してみる。
「私は今、昼夜逆転していますから大丈夫です」「...そうですか」
でも彼はソレを辞退してきたので、私は受け入れたフリをした。
『サミー?』『イヤですよ!』『アナタじゃないわ』『なら良いです』
私の意を汲み取ったのでしょう。サミーがモールとベークを見た瞬間、彼らが物凄〜く嫌そうな顔をした。
コレは余談ですが...本来眠る必要のない悪魔族も、受肉した後なら眠れるそうで
『睡眠ってこんなに気持ちの良いモノだったのですねぇ〜♫』
サミーが恍惚の表情を浮かべながら寝袋に包まり、ソレを見ていたモールとベークが
「ちょっと!?なんで乗るのよ?!」「「嫌がらせ」」
サミーの上に乗って其々が、お姉様とカマーセ陣営に向けて双眼鏡を取り出す。
「降りなさいな!」「「代わってくれるなら」」「...仕方ないわね」
どうやら三柱交替で見張るらしい。私がそんなじゃれ合いに目もくれず
「何かあったら起こしてね」(そ〜っと足を伸ばす三柱)
『止めなさいよ』「チッ!」「「仕方ねぇ」」
そう言って眠りに就こうとした瞬間、背後に気配...
勿論私はソレを制止したのですが...どうやって止めたのか解らないヴァンは、多分見なくても何をやろうとしているのか分かるくらい私たちの関係が親密だと勘違いしたのでしょう。
「変わった主従関係ですね」
そう零すのでした。
「「「起きてー」」」「...グペッ!?」
三柱に蹴飛ばされ?木の幹に激突して起きたようです。ちょっと当所が悪くて、変な声が出てしまいましたが...
「殿下は主ではないのですか?」「それだけ仲が良いのですよ」「か、変わった主従関係ですね」
そんな私たちのやり取りを見て、顔を青くしながら昨夜と同じ台詞を口にするヴァン。
それよりも...
クネクネ...フリフリ...
身動きが取れない。
「ちょっと...見てないで早く降ろして下さい」
先程ぶつかった凹凸に寝袋が引っ掛かったらしく、宙吊りになってしまいました。しかも鳩尾辺りから半回転してぶら下がった為、寝袋に身体が密着し両手が動かせません。
モールとベークに支えてもらいながら、サミーが引っ掛かった部分を解いていると
「喧しい!試験官は私だ!」「...ぐほっ!?」
遠くで喚く男の声が...
ソレを聞いたヴァンが双眼鏡を手にすると、三柱までヴァンに倣う。
その為支えを無くした私は、またもや鳩尾に衝撃を受けるハメに...
先程は昨日の事を踏まえ怒りませんでしたが、コレは頂けません。
緊急性を考慮すれば、遊んでいる暇は無いのです。
「アナタたち!いい加減にしなさい!!」「「「スミマセンでした!!!」」」
私が叱責すると、三柱は慌てて双眼鏡を手放した。再びモールとべークが私を支え、サミーが絡まった部分を解く。
「手伝いますので、車の手配をお願いします」
「分かりました。モール」
モール(ダッシュ!)
顔を引き攣らせ言うヴァンに一瞥してから、私はモールに車を回すよう指示した。
するとモールは返事もせずに一目散で走り去る。
どうして?
礼を失する行為を見せたモールに疑問を感じていたら
『さっき本気で怒ったからじゃないですか』『...あぁ!』
どうやら魔力が漏れ出ていたようです。だからヴァンの顔が引き攣っていたのかと、納得すると共に
『アナタたちが悪いんじゃない!』「『うひっ!』」「で、殿下?」「ごめんなさいヴァン」
サミーの一言で、私の怒りは再燃してしまうのでした。
セシル「あの時...初めて身の危険を感じたわ」
サージェ「だったら誘惑なんてしないで下さい!」
サクヤ「しなかったら裏切るでしょ?」
モーリス「コイツはそんなヤツじゃありませんよ!」
サージェ「......」
リア「冷静じゃの?ヤッパリ裏切るのかぇ?」
サージェ「最悪の状況になれば、可能性は否定出来ないですね」
モーリス「何だと?!見損なったぞ!?」
セシル「頭の良い人ってそんなモンよ?」
サクヤ「そうですよ、モーリス」
リア「だから無い色気を振りまいとるんじゃよ」
セシル「リア⤴?一言余計なのよ!」
モーリス(呆然)
クレア「続きます♪」
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