8話 仕込みは上々に? 前編
「大出世じゃないか?モーリス君」「誰がコウモリだ」
俺がトイレで用を足していると、横で赤色頭が俺と同じように用を足しながら話しかけてくる。
そして何故か今まで一度も俺の事を詰らなかったナジルが、俺を蝙蝠呼ばわりしてきた。
「あんま調子飲んなよ?裏切り者が」
「だから何でコウモリ呼ばわりされなきゃならないんだよ?!」
後から来たにも関わらず、先に用を足し終えたナジルが捨て台詞を残して去っていく。
急いでトイレから出て奴を追おうとすると
「手はちゃんと洗ったのですか?」「サクヤ様!?」
トイレの出口にサクヤ様が居た。正直ナジルを追いたかったが、俺にはやらなければいけない事が出来てしまったので先にトイレに戻る。
「洗って来ます」「そうして下さい」
俺がそう答えるとサクヤ様は小声で(ばっちぃわね)と言いつつ、俺の手を見ながら身を引いた。
「何事も無かったかい?」「サージェ?!」
少しショックを受けながらも手を洗っていると、後ろから声がかかる。振り向きながら俺はハンカチで手を拭きつつ
「どうしてここに?」「セシル様に命じられてね」「そうか」
サージェがトイレに来た理由を聞くと、殿下の指示だと言う。
「それにしても、何でコウモリなんて言われなきゃいけないんだ?」
「まぁ...カマーセたちにしてみれば、裏切り者だからね。君は」
そんなやり取りをしながらトイレから出ていくと
「蝙蝠っていうは裏切り者の象徴よ?モーリス?」
サクヤ様が何故か少し蔑むような視線を向けながら、僕を見てきた。更に
「もう教えちゃうんですね。サクヤ様」
とサージェが続けて言った。するとサクヤ様は僕に向けていた視線のままサージェを見たかと思うと、ため息を吐く。
「アナタたちの付き合い方が、少しだけ分かってきました」
「それは良かった」「...」「どういう事ですか?」
そんなサクヤ様にサージェが良く分からない返事をすると、呆れた顔をされたので俺は思わず聞き返したのだが...
返って来たのは言葉では無く、素っ気ない態度だった。
しかもそのまま無言で教室に戻るようで...
「う〜ん、こればっかりは仕方ないね。さぁ、戻ろうか?」
「あ、あぁ...分かった」「(ふっ)」
今、鼻で笑った?!
前から思っていたがコイツ...
「馬鹿にしてるのか?」「まさか、面白いとは思ってるけどね」「ソレを人は馬鹿にしてるって言うんじゃないのか?!」「気にしすぎだよ」「なっ!?やっぱりお前は...」
俺で遊んでるように感じていたが、思い過ごしでは無かったみたいだ。
ガラガラガラガラ
「遅いですよ?」「すみませんね」「も、申し訳ありません」
教室に戻るとサクヤ様からお叱りをを受けたが...
まぁ僕には関係ないと思いつつ、一応言葉だけでも謝罪する。すると条件反射なのか、モーリスは畏まりながら謝罪した。そんな事をしている暇は無いのに...
「モーリス?」「はい」「早く用意してきなさい」「......あっ!」
サクヤ様に言われ、慌てて練修着を持って着替えに行くモーリス。
「アナタ、ルームメイトなんでしょ?どうして伝えないのですか?」
「ワザとですよ。今は、ね」「...そうですか」
僕と似た性質のサクヤ様だが...モーリスに関しては、まだ僕の方に一日の長がある。
と言ってもソレは嬉しい事では無いのだが、今後ヤツの扱いに慣れてもらう為にもコレは必要な事なのだ。
そんな事を考えていると
「もうすぐ授業が始まりますよ!そろそろ席に着いて下さい」
次の授業を担当する講師が入ってきて、教室に居る生徒たちに声をかける。
そうして黒板に今から行う授業内容を箇条書きし始めると
カラカラン...カラカラン...と授業開始の鐘の音が鳴り、同時に
「遅れました!」「遅いですよ。早く席に着きなさい」「はい!」
モーリスが辛うじて間に合った。
「はぁ...はぁ...」「暑苦しいですね」「(ふっ)」
遅れてきたモーリスがサクヤ様の隣に座って、汗だくになった身体を冷ますように上着をパタパタさせる。
そんなモーリスを避けるようコチラに近づいたサクヤ様は、ソレを見ていた僕が笑ったのを見て睨んできた。何故か隣に座っている殿下まで...
「サージェ。次から殿下の隣は私です」「承知しました」「「(ジ―――)」」「???」
そんな馬鹿なやり取りが終わる頃に、講師の準備は整ったらしく
「それでは授業を始めます」「起立!」「礼!」「着席!」
いつもの学習規律を済ませ、講師が今から行う授業内容の説明を始めた。
一通りの講義を受けた後、僕たちは教習施設のある講堂に向かい基礎的な魔力の循環と放出の練習をする。
相変わらず殿下とサクヤ様の魔力は桁違いだと感じつつ、この授業は終わりを迎えた。
「モーリス?今度は忘れるなよ」
「分かってる!流石にこのまま教室に戻る訳無いだろ?!」
そう言って足早に更衣室へ向かうモーリスを僕は追いかけて...更衣室内で着替え終わってから、ある事を伝えた。
「やっぱり男って、子どもですね」「あら?可愛いじゃない?」
モーリスとサージェが去っていくのを冷めた目で見ながら、サクヤが愚痴を溢す。
私はそんなサクヤに元男として異を唱えた。すると
「殿下、ここはまだ人目が有ります。言葉遣いにはお気を付け下さい」
「そうだな。ありがとうサクヤ」「...はい」
サクヤがワザと恭しく臣下の礼を取りながら忠言してきたので、僕もワザといつも以上に応えてみせる。そうする事でサクヤは私を訝しんできたが...
(甘いわね。これでまたサージェに嵌められるとも知らずに)
『またお茶目な事をしとるのぅ?』『あら?視てたの?』
サージェの狙いが手に取るように分かっていたので、見事に釣れたサクヤの心境にほくそ笑む。そんな事をしていると、気配を感じ取ったのかリアが念話してきた。だが、リアも満更ではないようで
「早く更衣室に向かって下さい」
「分かったよサクヤ。クレアの代わりを頼む」
私と共に悪戯を観賞するようだ。そうして...着替えを済ませ、サクヤと共に教室に向かうと
思った通り
「殿下、コチラへ」『ぐふぁっ!』「有難うサージェ」「...くっ!?」
サージェが先に教室で待ち構えてえており、私はサージェの計画にそのまま便乗する。サクヤはそんな私たちを見て、ある事に気付いたようだ。だがもう遅い。
私がサージェの右隣に座り手招きすると、サクヤが嫌そうにしながら私の右隣に座った。
そうして、サージェの仕込みが花開く時はやって来る。
「どうぞ♪水分補給は大切ですから。次の授業までに飲み干せますよね?」
そんな屈託の無い笑顔を見せられ、言葉を失うサクヤ。
「ふぅ〜、暑い暑い」「...くぅ...」
バタバタバタバタ
既視感...と言いたいが、前回よりその勢いは凄まじく私の方まで熱気が...
(ちょっとサクヤ!(熱波を)避けないで、コッチまで暑いのよ)
(自業自得です!共犯なんですから少しは...あっくぅ...)
来るので避けつつ、サクヤに防波堤になる事を強要するが無駄だった。だが、それよりも
「今日は日差しが暑いねぇ〜♫」
などとほざきながら、片肘を付き一人涼し気な態度を取るサージェ。
この時地味にコチラから離れるようにしているのが、実に腹立たしい。
因みに...観賞モードだったリアはサージェの満面の笑みを観た瞬間から抱腹絶倒状態だ。
「(んぐっ...んぐっ)ぷはっ!冷えた水が美味しいですね♪」
そんなサージェの思惑など何一つ疑わず、またもや屈託の無い笑顔を向けてくるモーリスに...
私とサクヤは、引きつった笑みを浮かべるしか出来なかった。
サクヤ「策士策に溺れると言うヤツですね」
セシル「あんなに汗だくになるまで走らなくても良いじゃない!」
サージェ「まさかあんなに早く戻って来るとはねぇ...」
モーリス「ん?身体が火照ってる内に冷たい水を飲んだ方が旨いだろ?」
リア「善意しかないぞぇw」
三歳「育ちは良いからな。モーリスは」
クレア「続きます♪」
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