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超常ポリスは眠らない〜異世界警察と天蠍の王女〜  作者: 白谷毛虫
第一章 ようこそアストラへ
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第十二話 『司法局』

 フレデリクセンは勤務中だというのに一日中時計ばかり気にしていた。


 何故なら今日は妻の誕生日なのだ。定時で上がって予定通りパーティをする為には面倒な仕事はどうしても避けたい。


 既にその一つを部下に回していた。


 『あの方』からの依頼はいつも突然個人宛の文書で舞い込んでくる。

 今度の内容は『辺鄙な村で起きた事件の被疑者を指定場所に案内する』という退屈なものだった。

 正直どうしてそんな必要があるのか甚だ疑問ではある。でもそれでいいのだ。

 こうやってたまに正規の手続きを無視して融通を利かせるだけでこのポジションまで出世出来たのだから。


 ――優秀なマキネンなら卒なくこなすだろう。



 今日は珍しい事に平穏に時が流れていた。


「そろそろ定時だな……」


 フレデリクセンが帰り仕度を始めた頃、彼の元に同僚がやって来た。


「フレデリクセン、お客さんが来てるよ。大事な話だそうだ」


 同僚はさらに近づくいてくると耳元で囁く。


「凄い美人じゃないか。愛妻家だと思ってたけど隅に置けないな!」


 ――一体何を言っているんだろう。


 そう思いながらオフィスの入り口に足を運ぶと、彼の言う通り黒いドレスに身を包んだ美女が待っていた。見覚えのない女性だ。


 ――はて、過去に扱った事件の関係者だろうか?


「コホン……。フレデリクセンです。何か御用でしょうか?」


「私、こんな気持ち初めてなんです……」


「はい? あの、なんの事でしょう?」


「……ここでは恥ずかしいわ。二人きりになれる場所はないですか?」


 フレデリクセンは状況が理解できないながらも、微かな下心を抱いてしまった。


「……そうですか。では調べ室でお聴きしましょう」


 と、フロアの隅にある取調室に案内する。扉を開けフレデリクセンを先頭に部屋に入った途端、女は彼のの背中に抱きついた。


「な、なにを!」


「私、辱めを受けましたの。私の愛は誰にも拒めないと思っていたのに⋯⋯あの男は拒絶した! あなたは私の愛を受け入れてくれる?」


 フレデリクセンは足元から何かが這い上がってくるのを感じた。


「蛇……?」


 眼前で二匹の蛇が獲物を前に歓喜していた。

 

 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ 


 マキネンは焦っていた。


 彼は上司から指示された場所で暗殺者に襲われたのだ。つまりそれは何かしらの謀略が働いている可能性が高いことを意味していた。

 真相は恐らく上司も知らない筈だ。直属の上司で中間管理職のフレデリクセンにそこまでの権力がある筈も無いのだ。


 ――フレデリクセンも危ない!


「急がないと! 上司が危ないんです!」


「マキネンさん、走っては出血が……」


 アガーテの制止も聞かずにマキネンは走り出す。一行もそれを追いかけるがマキネンの速度について行くことができない。オフィウクスとの戦闘でヤンセン以下に怪我人を多く抱えていたのだ。


「先に行ってください! 後から行きます!」


 と、サクは叫ぶ。


 サクと無傷で済んだヤンセン、ハンセン、ヨハンセンの四人は、深手を負った手下の肩を担ぎアガーテに案内されて街の中央を目指す。

 住宅地を抜け歓楽街を横切り、いくつかの橋を渡ってやがてセントラル広場に辿り着いた。どうやらそこは王宮の正面に位置するようだ。


「あそこが司法局です!」


 アガーテは広場の南側の一画を指差した。


 一足遅れて一行が司法局に到着した頃には、庁舎内は騒然となっていた。

 そこへマキネンが顔を真っ青にして現れる。


「上司が……。フレデリクセン警部が殺されました……」


 フレデリクセンは取調室内で喉元を突かれ息絶えた状態で発見されていた。既に遺体は光の粒子となってこの世界の輪廻の理に還ろうとしている。


「どうやら知り合いを名乗る黒いドレスの女が訪れていたそうです……」


「オフィウクスだな。これで俺達の暗殺を指示した黒幕との繋がりが無くなった訳か……」


「司法局としては庁舎内で起こされた事件ですので、威信に掛けて被疑者を逮捕しなければなりません。もちろん私も捜査に志願します!」


 マキネンは強い口調で宣言する。


「そうだ!」


 不意にヤンセンが叫ぶと、一同の視線が彼に集中する。


「まだ繋がりがなくなった訳じゃないぜ旦那! 今回の一連の事件は全て『裏ギルド』絡みに間違いねぇ。ギルドを知る俺達が消されかけたのがその証拠さ。その線を追っていけば⋯⋯」


「黒幕にたどり着ける!」


 マキネンが喰いついた。

 

「暗殺の実行犯はオフィウクスに間違いないだろうな。でも、その『裏ギルド』へはヤンセン達の協力がないと辿り着けないぞ……」


 と、サクはアガーテを静かに見つめる。

 アガーテは言葉の意味を察するや、見る見るうちにその瞳に強い意志の光を宿していく。

 それはアムネジアの村で見せた眼と同じだった——。


「マキネンさん、私達はアムネジアの村襲撃の真相解明を望んでいます。その為ならばヤンセン達が捜査に協力する事と引き換えに彼らを減刑……いいえ不起訴にして頂いて構わないと思っています。もちろん私自身も関連事件の参考人として協力するつもりです。如何でしょう……上の方に司法取引をして頂けるよう掛け合っては頂けないでしょうか!」


「うおぉーアガーテ嬢、俺ぁ泣きそうだぜ! やってやる。やってやるぞ――!」


 一人感極まっているヤンセンを横目に、


「……熱血め。まだ決まった訳じゃない」


「ボスがこんなだから面倒な事に巻き込まれるんだよね」


 と、ハンセンとヨハンセンの二人はやれやれと溜息をつくのだった。


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