第四話
五回目の記録は下半分が黒く塗りつぶされていた。
辛うじて見えた文章は、感情的な言葉が殆どだった。
怖いとか、後悔、とか。助けて……とか。
おそらくその出来事を見たことに対する後悔だったのだろう。
だが、それよりも感情を制御できず、ただペンを暴力的に擦っていたようだった。
ぐちゃぐちゃのその黒い線から、この手記の書き手が追い詰められていたのは容易に想像できた。
小屋の空気がやはり悪い。私は小屋から出た。太陽は海へ沈み始めていた。
この手記がいつ書かれてるか不明だが、日が暮れ始めたときに、ここに書かれている怪物が現れることなる。
小屋から出て左手(入り江の右側)を見た。そびえ立っていると思っていた岩壁は、私が立っている陸地とは離れていた。
岩壁の下には、確かに人一人分が隠れられるほどの岩礁の隙間があった。
岩礁は湿気っていた。私が隙間に気がつくと、中に隠れていた小さな生き物たちが、隙間の奥へ逃げていった。
通報のあった奇妙な鳴き声については、この手記に書かれていることのだろう。
私は入り江の左側に近づいた。岩壁は右側よりも高くなく、よじ登れるほどだった。実際に登ってみたが、草木がその先の侵入を拒んでいた。
選定されてない、自然のままの木々たち。生い茂っている草が底を見えなくするほど隠していた。
ここから先に降りるのはやめたほうがよさそうだ。
それどころか、私がよじ登ったこの岩壁も脆く、今にも崩れ落ちてしまいそうだった。
私はすぐに岩壁から降りた。周りには流木や、崩れた材木が積まれていた。材木は、小屋の木材とよく似ていた。長年野晒しにされていたようで、もはや使い物にならなさそうだった。
野晒しの材木の近くに、岩が崩れていた。足元に何かがあったのかもしれないが、崩れていた岩があまりにも大きく、どかすのはとても難しそうだった。
代わりに、私は岩が崩れた場所から海岸を眺めた。海の上には海鳥が鳴いていた。
この閉鎖された場所で一人生き続けた、体調を崩し心身ともに追い詰められた書き手は、本当に音を聞いて、ナニカを見たのか。
いや、ただの幻聴だ幻視だと、書き手を否定するつもりはない。現に私は要請があって来たのだから。
どのような怪物を見たのか、手記を見続ければ、書いてあるのだろうか。
心臓が強く、はやく鼓動していた。
だが、私は確かめなければならない。いなくなった三人の探索員のためにも、今回被害を受けている松森氏ら民間人のためにも、私は収穫を得なければならない。
私は近くの岩にノートを置き、再び手記を読み始めた。




