第二話(手記1)
【初めての記録】
日記を始めたきっかけは、漠然とした孤独感と寂寥感からだった。
俺は人から離れて生きることになってしまった。
元はといえば人との関わりが嫌でこの街に来て、それすらも嫌になって逃げてきたのに、孤独と寂しさを感じるなんて我ながら馬鹿らしいと本当に思う。
自分の心の内を整理するために、ここまでの出来事を振り返ろうと思う。
そもそも、俺は東京にいたが、ごった返した雰囲気が嫌でここまで引っ越してきた。
だが現実はもっと酷いもんだ。この街は人が少ない分、絆がより深かった。それ自体が悪いとは思わない。人はコミュニティを作る生き物だ。それが悪いとは思わない。
俺が合わなかっただけだ。とにかく、人との会話が煩わしかった。そんなことないと思いつつも、皆が俺のことを見下しているように思ってしまって、差し出された手を、俺はどうしても掴みたくなかった。
結果、俺は交流を断つことにした。
この場所に来るまでの間、なにが起きていたかちゃんと覚えていない。誰かに追われていた気がする。誰かは覚えていない。ひたすら、焦燥感があった。
道なんて知らないから、行き止まりに詰まってしまった。それでもなんとか逃げ出したくて、俺は車から降り続けて走り続けて、それでもまた行き止まりになったから、森の中に潜り込んだ。
潜り込んだ場所がたまたま道に続いてたので、俺はその道を進み続けた。最終的に今いるここに辿り着いた。
開けた場所だったから、すぐに見つかりそうで怖かった。だからはじめの日は、すぐそばの岩場に隠れていた。
岩場の足元には隙間があった。地面が岩礁の、軽い洞窟みたいになっていた。俺はその隙間に潜り込んで、じっと来た道を見ていた。その日は誰も来なかった。
一夜明けて、誰も来なくなったことに安心して、喉が渇いてることに気がついた。逃げ出した時の焦燥感はなくなっていたので、俺は隙間から這い出て、何か水を取りに行こうとした。
来た道を戻ろうと、森の中を歩いていたとき、外から人の喋り声が聞こえて、私は木の陰に隠れた。
釣り人の兄弟だった。彼らは違法の場所とわかってても尚、その場所で釣りをしていてようだ。
弟が、森の隙間に気がついた。なんだこれと言いながら中を歩いてきた。
鉢合わせても別に構わないはずだ。奴らは俺を探しにきたわけじゃない。ただ、知らない道を見つけたので探検しにきただけだ。子供というのは未知なる場所に魅力を感じるものだ。
姿を見せたところで問題ない。そのはずなのに、俺は、その子の前に出ることが出来なかった。
その時は、どうしても見つかってはいけないという気持ちが強くなって、心臓の鼓動をはやめた。
子供は俺が隠れた木の近くまで近づいてきた。もちろん、俺に気がついてなさそうだった。ただ、木に見たことないカブトムシやクワガタがいると興奮していた。
俺は声が漏れないよう、両手で口を押さえてた。すぐ傍まで来た時は、まともに呼吸ができなかった。
やがて、兄が弟を呼んだ。弟は返事をして、兄の元へ帰っていった。
俺は息を整いきるまで、木の影でじっとしていた。暫くなにも考えられなかった。木漏れ日の位置が変わって、ゆっくりと頭の中を整理した。
そのとき、俺は想像以上に追い詰められていた。
人間のことを煩わしいとだけでなく、恐怖の対象として捉えていた。そこに具体的な感情はなかった。ただ怖かった。
外に出ることは怖いと、思うようになってしまった。俺は外に出ることを諦めた。俺は俺の中の凝り固まった偏見と臆病によって生まれた猜疑心のせいで、サバイバル生活を余儀なくされた。
森から隠れてた場所まで戻った。また焦燥と不安に駆られた。胃のあたりが締め付けられて、森から出た時には声が漏れていた。
崖際でつまづいて、岩に手をついた。怪我はしてなかった。けど、心は相変わらず焦りと不安に包まれていた。
俺は海に向かって叫んだ。どう叫んでいたかは覚えてない。誰でも良いから助けて欲しかった。そういう風に叫んでいたかはわからないけど。
目の前の海に船は横切らなかった。俺はずっと叫んでいた。
頬が冷たかった。
気がつけばあたりが暗くなり始めていた。
考える余裕が出てきて、見回した。そんな中、俺は小屋を見つけた。基礎なんてしっかりしていない、ボロボロの小屋だが、端材を使えば雨風を凌そうだった。
工具品がなかったから、木材を重ねて覆わせた。それでもなんとか寝ることはできた。それに、人工物の中にいることで、何故か安心感が湧いた。
まとめるとこんな感じだろうか。
このノートとペンは小屋の中にあった。何かを記録するためのものだったらしい。ノートのはじまりにはなにか書いてあったが、読みたくなかったから破り捨てた。
それより、自分のことを書くことにした。
人と関わりたくなかったが、この気持ちをどうにか消費したい気持ちでいっぱいだった。叫ぶのは非効率だ。特に今みたいな状況では。
心を落ち着かせるためにも、俺はこれから日記を書くことにする。
まだ大丈夫だと思いたいから。




