表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
強面虎獣人と甘い恋  作者: Latte


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/17

7

毎日が幸せだった。幸せすぎて、ずっとこのまま二人でいられる未来を夢見てしまった。だから、こんなに幸せでいいのかと、どこかで不安も感じていた。


「アリス!!ちょっと、こっち来て!!」


昼休憩に入り、アドルフのもとへ向かおうとしたアリスの腕を、ミーナが突然掴む。強引に近くの部屋へと引き込まれ、アリスは驚きと困惑でいっぱいになる。


「ちょっ、ミーナ、どうしたの?」


普段は落ち着いているミーナが、珍しく慌てた様子で息を弾ませている。


「ねぇ、驚かないで聞いてほしいんだけど……アドルフ様って、婚約者がいるって知ってた!?」


婚約者――?


その言葉が頭の中で何度も反響し、目の前が真っ暗になる。


「……知らない」


声が震える。聞いたこともない。いつから?私がそばにいさせてほしいと伝えたとき、アドルフ様は「今は特定の人はいない」と言っていた。あれは嘘だったの?


書庫で過ごしたあの時間、交わした言葉や視線、全部が嘘だったとは思えない。思いたくない。でも、伯爵家の彼に婚約者がいないなんて、やっぱりありえないのかもしれない――そんな現実が心を締め付ける。


無意識に胸元のネックレスをぎゅっと握りしめた。


アリスは最初に交わした約束を思い出し、アドルフに特別な存在が現れたのなら潔く身を引こうと心に決めた。もう書庫には行かない。アドルフに気安く話しかけたり、笑いかけたりもしない。触れることも、そばにいることもやめよう。


胸の奥で宝石のように輝いていた恋心が、冷たい小石のように重く沈んでいくのを感じる。


(好きです。好きでした。アドルフ様のことが、本当に大好きでした)


心の中で何度も繰り返す。忘れられるかわからない。でも、アドルフ様の足枷になることだけは絶対にしたくない。


涙がこぼれそうになるのを必死で堪え、アリスは静かに背を向けた。誰にも気づかれないように、そっとその場を離れる。


アリスは日々の生活の中で、アドルフの姿を遠くから見かけることがあっても、決して目を合わせようとしなかった。胸が締め付けられるような痛みを感じながらも、微笑むことも、声をかけることもせず、静かに距離を取る。


夜、ひとりきりの部屋でネックレスを手に取り、そっと胸に当てる。


(あの人の幸せを願うことしか、今の私にはできない)


涙が頬を伝うけれど、アリスは誰にも見せず、静かに涙を拭った。


それでも、アドルフと過ごした日々は心の奥で温かく輝き続けていた。いつかこの想いが優しい思い出に変わる日が来ることを、アリスは静かに願っていた。


アドルフへの想いに蓋をしてから、もうすぐ2ヶ月が経とうとしていた。


一緒に過ごした日々が、遠い夢のように懐かしく思い出される。


アリスは黙々と仕事をこなし、昼食時には料理の補充をして回っていた。そのとき、不意に強い力で腕を掴まれる。


「……なんで突然来なくなった。」


振り返ると、そこにはアドルフがいた。彼の顔は無表情で、何も感情を読み取ることができない。


一粒、涙が頬を伝う。会いたくて、会いたくて仕方なかった。ずっと切望していた。でも、今はまだ会いたくなかった。この気持ちが抑えられる自信がなかったから。


アリスは慌てて腕を振り払う。


「申し訳ありません。……仕事中ですので」


アドルフは一瞬だけ何かを言いかけたが、静かに言葉を紡ぐ。


「待ってる。あの場所で、お前を待ってる」


そう言い残し、アドルフは背を向けて立ち去った。


周囲の視線が集まっているのを感じ、アリスは顔を伏せて厨房へと駆け込む。


(なんで……なんで、婚約者がいるって聞いたのに。なんで、私に構うの……?)


胸の奥で、抑え込んだはずの想いが再び波のように押し寄せてくるのを感じていた。


書庫に行くつもりなんて、最初からなかった。もし行ってしまえば、彼の顔を見て話してしまえば、きっと責めてしまう。もっと彼を欲してしまう自分が怖かった。


その日一日、どうやって過ごしたのかも思い出せない。仕事をしていたはずなのに、記憶は曖昧で、ただアドルフの「待ってる」という言葉だけが、何度も何度も頭の中で反響していた。


部屋に帰ろうと、ぼんやりと廊下を歩いていると、不意に目の前に一人の男が立ちふさがった。


見覚えのない顔。制服からして、どうやら騎士のようだ。彼は頬を赤らめ、恥ずかしそうに視線を落としながら、ぎこちなく口を開いた。


「あ、あの……!俺、ジョンって言います!突然話しかけてすみません。ずっと君のことが気になっていて……」


その瞬間、背後から鋭い声が響いた。


「おい、俺のものに手出してんじゃねぇ。殺すぞ。」


振り返ると、そこにはアドルフが立っていた。普段は見せない冷たい殺気と圧倒的な威圧感に、アリスの体は思わず震えた。ジョンも顔を青ざめさせ、言葉を失っている。


アリスの胸の奥で、恐怖と戸惑い、そして抑えきれない想いが複雑に絡み合っていた。


アドルフの鋭い声と圧倒的な威圧感に、アリスの心臓は強く脈打った。恐怖と驚きがまず胸を占める。こんなにも冷たい殺気を向けられたのは初めてで、思わず身をすくめてしまう。


けれど、その奥で別の感情も芽生えていた。自分を「俺のもの」と言い切るアドルフの独占欲に、戸惑いと反発、そしてほんの少しの嬉しさが入り混じる。


(どうしてこんな言い方をするの……。私にはもう関わらないって決めたのに。なのに、こんなふうに強く求められると、心が揺れてしまう。)


アリスは自分の中にある複雑な感情に戸惑いながらも、アドルフの存在の大きさを改めて痛感していた。


痛いほど強く腕を引かれ、アリスは無理やり書庫へと連れ込まれた。アドルフの手は人間離れした力強さで、爪が食い込むほどだった。


「……あいつが好きなのか?あいつにしたのか!?だったらなんで俺に優しくしたんだ!なんで俺に好きだなんて言ったんだ!?ふざけんな!俺から逃げるつもりか!?」


アドルフの声は低く唸り、虎獣人特有の鋭い牙が剥き出しになる。金色の瞳は怒りで細くなり、耳がピンと立ち、尻尾が激しく揺れている。彼の周囲には獣の威圧感が満ち、空気が張り詰めた。


「もうお前は俺のものだ、俺がそう決めた。」


その声は震えていて、顔を上げると、普段は強気なアドルフが今にも泣き出しそうな表情をしていた。


(なんで……なんであなたがそんなことを言うの?)


思考がまとまらず固まっていると、アリスは押し倒され、首筋を舐められる。ザラリとした舌が虎獣人の本能を感じさせ、気づけば服が裂かれていた。


「残念だったな、俺みたいなやつに捕まって。でもお前が悪いんだ。俺に好きだなんて言うから、俺みたいなやつに温もりを教えるから」


アリスの中で怒りが爆発する。


「なんでそんなこと言うんですか!!あなたが好きだと何度も何度も言ったでしょ!!アドルフ様ほど私が恋い慕う人はいません!!私が愛する人を卑下するような言い方なんて絶対しないでください!それに私を捨てるのはあなたでしょう!?婚約者がいる人にひっそりと会い続けるなんて私にはできません!私にできることはあなたの足枷にならないようひっそりと退場することだけです!!こんなに胸が張り裂けそうなのに……他の人なんて目に入るはずない。貴方しか愛せないのに……でも愛人になるのも無理……貴方を誰かと分け合うなんて私にはできない……」


涙と嗚咽が止まらないアリスを見て、アドルフの耳と尻尾がしゅんと垂れ、目を見開く。


「す、すまない、泣かせるつもりはなかった。」


アドルフはアリスをそっと抱き起こし、幼子をあやすように背中をとんとんと叩く。その不器用な優しさに、アリスの涙はさらに止まらなくなる。


「それと婚約者とは?俺に婚約者はいないぞ。」


「へっ?」


その瞬間、時が止まったように感じた。


「お前と出会う直前に、相手の懇願で破棄になった。俺と婚約なんて死ぬほど嫌なんだと。」





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ